今日の天気は、曇りのち雨。
正直、晴より釣れるから好き。
──
「……ですから、バートルム砦を跡形もなく破却していただきたい! それだけは譲れませぬ」
バートルム砦の一室で、老騎士とアガートラム、メンデム将軍とその副官がテーブルを囲んでいた。
老騎士は頭が痛かった。
なぜ優位なにもかかわらず、多大な犠牲を払ってまで落としたこの砦を破却せねばならないのか……。
「ふぅ……」
老騎士はため息をつきながらも続けた。
「で、もし、もしであるが、砦の破却を受け入れた場合の見返りは?」
メンデム将軍はゴホンと一つ咳払いをして、
「我がアーベルム港湾自治都市政府のネーメロ議長の姫を、そちら側に嫁がせる。姫は私の姪でもある」
どうやら、アーベルムという国は合議制であり、その国家元首に当たるのがネーメロ議長というらしい。そのネーメロ議長の配偶者の兄がメンデム将軍ということだ。
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ? ブタのお嫁さんが国家元首の姫君??
老騎士は、少し上ずった声で尋ねる。
「ごはん、で、その姫君は御幾つであられる?」
……たまに養子縁組などで、姫と言っても80代という場合もあり得るのだ。
「あっはっは、見目麗しい姫君は御年4歳であらせられる」
Σ( ̄□ ̄|||) 4……よんちゃい??
「もちろん、正式に婚儀を行うとお互いに立場がまずかろうから、内密に婚約ということで」
……(´・ω・`)
「ということは、御成長なさってからお輿入れということで?」
「いやいや、今日明日にでもそちらにお送りする所存」
現在我々は、自由の旗の下『人権』に守られて生きている。今日明日を生きるので精いっぱいだった時代、自分の意志で配偶者を決められるものなどいない。
それは、王であっても農民であっても同じで、果ては奴隷に至るまで同じだった。
(´・ω・)(・ω・`) ヒソヒソ
老騎士とハイオーク族族長はヒソヒソと話し込んだ。
ブタ領南部に広がる大森林と、その南に広がる豊かなアーベルム側の平原。その境に建つバートルム砦は、ブタ領側としては戦略上の要地であったが、相手側にとっても咽喉に刺さった骨だった。
「もし、ご婚約をお受けいただけるなら、私どもは金貨60000枚をご用意いたす!」
Σ( ̄□ ̄|||) ろ……ろくまんぢゃと!?
ちなみに、金貨一枚10万円で計算すると、60億の大金である。所詮は田舎貴族に過ぎないブタ領からしたらとんでもない金額であった。
「私どもは軍隊も持っておりますがね、実際はちょっとした大きな商人の集まりでしてね、お金に関しては困っておりません」
少し自慢げに感じたが、ブタ領としても、戦死したものや傷を負ったものへの見舞金は多ければ多いほどよいと老騎士は考えた。
その他にも、バートルム砦の近くの交通の要所に市場を開き、その管理はブタ領側に委ねることなどの条件も盛り込まれた。
ブタ領側も今は優勢に事が運んでいるが、明日はわからない。優位な状態で条件を飲むべきだった。
「わかりました。その条件を飲みましょう」
──
老騎士とメンデム将軍は握手をし、条件をしたためた羊皮紙にそれぞれサインを施した。
それを確認したブタ領軍務役アガートラムは、周囲の村々への焼き討ちを中止するようヴェルヴェマに使いを送った。
ブタ領は大森林地帯の南端まで、アーベルム側の領土は大森林に隣接する平原の北端までと定められ、新しい地図に国境線が引かれた。
砦の破却は、アーベルム側のメンデム将軍が自ら行い、新たに作られる市場の建設と管理及び権益は、ブタ領南部騎士爵であるシュコー家に決まった。
そのほか恩賞や見舞金などが次々に決まっていった。
この戦いで、ブタ領は数々の辛酸を舐めたが、一国家であるアーベルムに対して田舎の一貴族のくせに五分にわたり合い、数々の譲歩を引き出したそれは傍から見れば勝利以外の何物でもなかった。
──
ブタ領側の宴会に招かれたメンデム将軍は、陽気に葡萄酒をあおるアガートラムに聞かれる。
「その姫君とはどんなお方ですかな?」
将軍は少し俯いた後に、作り笑顔を浮かべ、
「……いや先日、政敵に毒を飲まされましてな。すぐにでも空気の良いそちらで静養させたい」
……──昨日の敵は今日の友。そんな時代だった。
☆★☆★☆
今日の天気は曇り。
森の中は人が少なくて魚影が多い。
──金貨60000枚。
ニャッポ村でお留守番をしている、ブタ領内務役ンホール司教。彼の下へ『金貨60000枚をどうすべきか?』という老騎士からの相談の書状が舞い込んできていた。
高額貨幣である金貨を大量に領内にばら撒くのは避けたい。ならば王都にもちこんで、実用的な食料と交換すべきか? それをするのにも徐々にせねば食料の高騰を招きかねなかった。
現代のように、この世界では貨幣はそれほど信用があるわけではない。領地をまたげば純度を検査される場合もある。
現代のように高額貨幣が紙である状態になるまでには、まだ長い年月が必要だった。
ンホールは考えた。
貨幣の信用とは、その社会の生産力に概ね比例する。過度に貨幣を流通しても困るだけではないか?
では逆を考えてみた。敵対勢力の経済破壊に用いる方法だ。が、とりあえず目下そのような相手もいない。
彼は引き出しから取り出した、いつもの道具に頼ることにした。
──サイコロである。
コロコロコロ。
「偶数ンホ!」
だが、ンホール司教は偶数だとどうするかとかを全く決めていないことに気づいた。
──
「頼もう!」
執務室の机の上で、いろいろカキカキしていたンホールにお客さんの様だった。
がっしりとした体に実用的な皮の鎧を纏い、背中に長物を携えたその者はなんと人間の女性だった。
「どちらさまンホ?」
「どちらさまじゃね~よ! この枯れ木風情が!! ンホール殿はいずこ!?」
彼女はそう言い放ち机に板を叩きつけた。それには、
『急募❤ 元気で逞しい方!一日2時間からの勤務可!お給金は応相談』と書かれていた。
工業化以前の社会においては、生産力は農業に依存するところが大きい。農業生産力はおおむね人口に比例するところが大きく、内務役ンホールは領外からの人口流入に期待していた。
「ンホ? 兵士への希望ンホ?」
「兵士じゃない! 私は誇り高い騎士だ!!」
王都からかなり離れた僻地であるブタ領に、良家の子息がくることはなく、だいたいが一癖も二癖もある者が流れ着いた。
「指揮官へのご希望ンホ?」
「そうだ! お前が試験官か? 手始めに血祭りにしてくれるわ!」
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ~!?
「私はチャンバラできないンホ!」
「チャンバラ言うな! つべこべ言わずに来い!!」
ンホールは裏庭に引きだされ、ボコボコにされた。
(xωx`) 痛いンホー。
結局、女騎士はその武勇をもってしてンホール教騎士団に入る。
更にのちにはンホール教騎士団の初代騎士団長に任じられることになる。
……当然、この気丈な女騎士はンホール騎士団の陣容に驚いた。
「お……おじいちゃんばっかり……」
──
その翌日、ブタ領家宰ヘーデルホッヘは麾下の部隊をまとめ、途中ブタ達を接収しニャッポ村への帰路についた。
オウチに帰りましょう~(゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこぶひうさ~♪
ブタには婚約のことは、知らされていなかった。
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