異世界でもプログラム

北きつね
北きつね

第六十三話 声なき声

公開日時: 2023年11月11日(土) 05:13
文字数:3,074


 戦闘は終わった。


 体力も気力も限界だ。

 精神的に疲れたので動きたくない。


 カルラも珍しく座り込んでいる。アルバンは、横になって目を閉じている。


 確かに、周りには脅威になるような物はない。


 クォートとシャープもユニコーンもバイコーンも機能が十全に使えるようになって、確認をしてから移動を開始した。


 クォートたちが帰って来るまで休憩する。

 さすがに、疲れた。


 葬送を終わらせて、やっと終わった感じがしている。

 辺りは、先頭の余韻が漂っているが、しばらくしたら消えるだろう。


 自然が戦闘を隠して、元の状態に戻すだろう。

 無残に奪われた命は、大地を撫でる風が拡散してくれている。


 クラーラへの復讐は、俺がやらなければならない。

 奴には奴なりの正義があるのかもしれない。


 ”正義のため”などというつもりはない。俺が行おうとしているのは、俺の我儘だ。傲慢な考えだと思っている。奴が属している組織にも興味が出てしまった。目的が解らない。共和国での”黒い石”の実験を行ったようだが、クラーラは関わっていないと言っていた。組織と言っても、皆が同じ方向を見ていない可能性もある。大きな組織や、トップが絶大なる力を持っている組織では、下が上の顔色を伺いながら別々の方向を向いてしまう。


 身体を起こして、足を投げ出して座る。

 風が心地よい。


 開発だけをして過ごしたいのに・・・。


---


 いきなり暗くなった?

 俺は寝ていたのか?


 違う。

 記憶が飛んでいる?

 何も見えない。


 二人の気配がしない。


 違う。

 二人だけではない。感じていた風も、大地も、何も感じない。


 スキルが何も反応しない。

 どうなっている?


「カルラ・・・?」


 自分の声が聞こえない?

 音が吸収されている?


 違う。

 声が出ていない。


「アルバン!カルラ!」


 二人が居ない。

 違う。俺が隔離された?


 どうやって?

 スキルか?


 解らない。

 解らない。


 解らない。


 考えろ。

 考えろ。


 ダメだ。

 思考を止めるな。


 何故だ。

 何があった?


 俺は・・・。


「アルノルト様!アルノルト様!」


 誰だ!

 俺は・・・。


「アルノルト様!」


 そうだ。

 俺は、アルノルト。アルノルト・フォン・ライムバッハ。


 背中・・・。


 違う。脇腹が熱い。

 刺された?


 誰に?


 カルラとアルバンは無事なのか?


 身体が動かない。


「カ・・・ル・・・ラ?」


 大丈夫だ。声が出る。

 音も聞こえる。


 風も感じる。


「あぁ・・・。アルノルト様。申し訳ございません」


「なにが・・・」


 俺は、倒れているのか?

 大地を感じる。


 カルラは片腕で俺を支えている?


 カルラの顔が血で染まっている。カルラの血か?


「アル・・・バン・・・は?」


「・・・。さい・・・しょ・・・に、・・・アル・・・バンが・・・。か・・・ば・・・」


 カルラは、何を言っている?


「っ!」


 動けよ!

 俺の身体!


 動け!動け!動け!


「アル!アルバン!」


「にぃぃ・・・。ちゃん。よ・・・かっ・・・た」


「アル!アル!アルゥゥゥゥゥゥ!!!目を瞑るな。アル!アルバン!まっていろ!いま、治して」


「にぃぃ・・・ちゃん。おい・・・ら、にいちゃんを、まもれ・・・た」


「もちろん。アル。だから、だから、だから、アルバン!」


「よ、かっ・・・た。にい・・・ちゃん・・・あ、りが・・・とう。おい・・ら。がん・・・ばった」


「アル!アル!カルラ!アルの近くに、俺を、俺を、いそいで・・・。え?カルラ?」


 なんで、カルラまで・・・。


「ア・・・ルノル・・・トさ・・・ま。わた・・・しも、おいと・・・ま、を・・・いただ・・・きたく・・・」


「ダメだ!カルラ!」


 なんで、アルバンとカルラを!誰だ!何故だ!


「いえ・・・。もう、わたし・・・は、アル・・・ノル・・・トさまの、おや・・く・・には・・・た・・・てま・・・せん」


「ちがう。カルラ。アルバン。おれには、お前たちが、カルラ!お前が必要だ。ゆるさ、ない」


「さいごに・・・。アルノルトさま。おねがいが」


「カルラ。さいご?ちがう・・・。これからも」


「アルノルトさま。わたしの、ほんとうのなまえ・・・。アーシャと、よんで・・・くだ・・・」


「アーシャ!アーシャ。なんどでも呼んでやる!だから・・・。だから!アーシャャャャャ!!!!」


「あり、が、と、う、ご、ざい、ます。アーシャは、しあ、わせ、もの、です」


「アーシャ。アーシャ!」


「・・・。あるのるとさま。おしたいしておりました、あるのるとさまのほんかいを・・・。おてつだい、できなく、なる、ふしま、つを、おゆ、るし・・・」


 なんで、俺は動けない!

 動け!動け!動け!


 カルラ!アーシャを!アルバンを!


 許さない。許さない。

 許さない。許さない。


---


 遠くで、誰かが笑っている。

 気持ち悪い笑い方だ。


 俺は、寝ていたのか?


 そうだ!


「カルラ!アルバン!」


『マスター。ご気分は?』


「エイダ?」


『はい。マスターの生体反応が微弱になったために、ウーレンフートに向かうのをキャンセルしました』


「・・・。カルラとアルバンは?」


『遺体は回収いたしました。私たちが到着した時には、手遅れな状態でした』


「・・・。エイダ。嘘だよな?」


『クォートとシャープが確認をおこないました。カルラ。アルバン。両名の生体反応が停止しているのを確認いたしました』


 揺れている所を見ると、馬車か?


「エイダ。どこに向っている?」


『国境です。捕えた者は、処分しますか?』


 俺は、こんなに冷静に考えている。

 頭の中は、冷めきっている。


 心がざわついている。


「そもそも、何があった?カルラとアルバンは、誰にやられた?」


 少しだけだけど、身体が動くようになっている。


「エイダ!」


『現在、調査を行っております』


「調査?何か残されていたのか?」


『暗殺に使われたと思われるナイフが残されておりました。カルラが始末したと思われる遺体が多数。辛うじて生体反応が残されていた者が5名。手足の腱を切られた状態で放置されていました』


「ナイフ?」


『はい。詳細な調査を行っております。簡易検査の結果をお伝えしますか?』


「あぁ」


 エイダの報告を聞いている。

 心がざわついて気持ちが悪い。頭だけがどんどん冷めていき・・・。そして、遠い世界からの言葉を聞いている気分になってくる。


 俺は、慢心していたのか?俺の油断で、カルラとアルバンを失ったのか?

 油断はしていなかった。


 ナイフには、”黒い石”と同じ成分が使われていた。

 問題は、ナイフに塗られていた毒だ。


 これが、利用者をも蝕んでいた。

 俺が刺された、黒い石を細かく砕いた物が塗られていた。どんな作用があるのか解っていないが、人を死に至らしめる毒になっているのだろう。


 簡易的な検査によると、黒い粉は、人の憎悪を増幅する作用があるらしい。

 俺は、刺されて、黒い粉が身体の中に入った。それで、”殺したい程”に憎んだのか?


 今は、その反動でざわついているけど、頭が冷えて、どこか他人事のように感じているのか?


 エイダの報告では、俺が助かったのは、偶然の産物らしい。

 カルラとアルバンは、持っていたポーションやワクチンを俺に使用した。自分たちにも使用すれば・・・。違うな。俺が刺された事で、俺を助けようと動いてくれた。順番は解らないが、俺が刺された。致命傷にはならなかった。次の攻撃をアルバンが防いだ。アルバンが、傷をおいながら俺を助けている間に、カルラが敵を殲滅した。


 解らないが、カルラとアルバンなら・・・。


 何が作用したのかわからないが、俺は助かった?

 でも、俺を助けるために、カルラとアルバンは・・・。絶対に、仇は取る。


『マスター。一部の記憶ですが、捕えた者たちからの抜き取りが成功しました』


「クォートを呼んでくれ」


『はい』


「生き残った奴らを尋問する」


『わかりました』


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