2月27日 日曜日の13時から鬼塚の家に支倉がやって来てくれることになった。
支倉が来るまでに8mmフィルムの上映会を行うための準備に取り掛かる鬼塚の姿がそこにはあった。
「8mmフィルムの映像を再生する方法ってこれでいいのだろうか。パソコンを見ながらだと本当にやり方として合っているのかどうか、自信が無いなあ。」
慣れない機械に悪戦苦闘をしている内に支倉がやってきた。
「鍵開けっ放しで不用心だなあ。」
鬼塚の後ろにやって来てそっと話しかけると、鬼塚は思わずびっくりして腰を抜かしてしまった。
「ちょ、ちょっと!入ってくるんだったらインターホンぐらい鳴らしてくれよ!」
鬼塚が思わず話すと、支倉が反論した。
「インターホン鳴らしたよ!でも壊れているのか何だか知らないけど何回も鳴らしても反応はないし、LINE電話だって何回も鳴らしているのに出ないじゃないか!いったい何のためのインターホンなんだよ!壊れているんだったら直してくれよ。それに携帯だって一体何のために持っているのか、連絡をするためにあるんだろ!?緊急事態に繋がらなかったら無意味なだけじゃないか!」
言われた鬼塚は「ごめん。貧しくて申し訳ない。」と語り謝罪した。
その言葉を聞いた支倉は「鬼塚さんが住むアパート、外に洗濯機があるなんて、どんだけ古いアパートに住んでいるんだよ!今どき古くても洗濯機なんて普通は大体洗面所の中にあるけど、あれだけ忙しく働いているならそれなりの収入はあるはずなのに一体どうしてそんなに生活ぶりが貧しいわけ?無駄遣いをしていることだってあるってことだよな?」と鬼塚に聞き始めた。
痛いところを突かれた鬼塚は思わず小声になって話し始めた。
「俺の収入が貧しくなって、”副業もしないで家族のために身を粉にしてでも働く姿勢がないのね”って、前の嫁さんに言われてね、中学生になる娘と一緒に家を追い出された。無駄遣いなんて出来ない、車の維持費から、娘の養育費に、各地を転々としなければいけないから給料日が来るまでに自分が負担をしなければいけない移動にかかる交通費なども含め、お金だけが消えていくんだよ。だからTVやラジオなんて持っていないし、本当に必要不可欠なパソコンがあるぐらいの生活だよ。」
鬼塚の話を聞いた支倉が「ごめん。何だか聞いて悪いことを聞いてしまったね。」と話し、鬼塚が「いいよ。俺が悪い。謝ることではない。」と話した後、「実はまだ8mmフィルムの映写機を使って映像を見れる方法がまだわからなくって、さっきからずっと試行錯誤を繰り返ししているんだ。支倉君はわかる?」と聞くと、支倉は「僕よりも何十年も人生を生きている割には機械音痴だったなんて、ちょっと残念だよ。」と言いながら、支倉はスマートフォンのGoogleの音声検索で『8mmフィルムの映像を映写機で再生するための方法を教えてください』と話すと、自動で検索開始され、その結果を見ながら設置に取り掛かった。
すると、あれだけ苦労していたことがあっという間に解決した。
「これで映像を見れることが出来るよ。映像を見ながら差し入れに買ってきたものがあるからこれを一緒に食べようよ。」
そう言って買ってきたのはPABLOのチーズタルトだった。
鬼塚が思わず「これってあの有名なとろけるチーズタルトじゃないか!これを買うためにわざわざゆめタウン佐賀に立ち寄ってくれたのか?」と聞くと「そうだよ。他は宮崎市のイオンモール宮崎にPABLO miniってこのチーズタルトのミニサイズを扱う店舗があるけど、ホールサイズを買うなら佐賀、ミニサイズを買うなら宮崎ってところだね。でもさすがに宮崎までは遠いから佐賀で我慢してほしい。福岡にはないものを選んだんだよ。」と話すと、鬼塚は「俺の住む福岡から遠回りになるのにわざわざ買ってきてくれるだけでも嬉しいよ。ありがとう。さっそくケーキを切り分けしてくるね。」と言って台所へ立ち、支倉が8mmフィルムの映像を再生するためにカーテンを閉め始め部屋を真っ暗にした状態で、映写機の映像が見やすい環境にした。
支倉が買ってきたチーズケーキを切り分け皿にフォークと共に盛った状態で渡すと、「飲み物はこんなものしかないけど飲む?」と言ってグラスに氷を入れた烏龍茶を出した。支倉が「うん。良いよ。ありがとう。」と言って烏龍茶を飲み始めた。
支倉が鬼塚に「8mmフィルムなんだけど、福冨があの金庫の中に入れていた数だけでも60本ほどはあるね。まずどれから見る?”染澤家の最期”というタイトルから見てみるか?」と話すと、鬼塚は「そうだな。それから見てみようか。」と話すと8mmフィルムの映像の上映会が行われた。
”染澤家の最期”
「1974年7月23日火曜日 夜23時を回った頃だ。スーパーエイトを持って撮影をするのはソメザワ・マテリアルの副社長を務める福冨克哉だ。俺たちはこの2年半もの間ずっと闇の世界からの脅迫に心を蝕まれてきた。染澤社長がずっと気にかけていた母親の染澤セツさんにも、個人的な借金を抱えている弱みを付けられ闇の世界から”借金の負担をしてあげる”という甘い言葉に断ることが出来ず、指示書に記載された指示通りに犯罪に手を染めてしまいました。では早速、家の中に入りましょう。玄関の扉を開けると玄関があり、上がってすぐ左側には2階に上がる階段があります。上がってみましょう。上がってすぐの正面の部屋が染澤夫妻の部屋です。では入りましょう。中にはベッドがありますね。そしてぐったりと息絶える豊子夫人の亡骸がありますね。突然襲われたのでしょうか、目が見開いたままの状態でお亡くなりになっていますね。続いて右隣の部屋へ移りましょう。ここは長男の宏親君の部屋です。宏親君の部屋のベッドには、宏親君がうつ伏せになった状態で息絶えていますね。悲鳴を上げることも出来ず、あっという間に殺されたのでしょうか、目はぐっすりと眠ったままの状態です。続いて右隣の次男の靖典君の部屋に行きましょう。ベッドには靖典君がこちらも気持ちよくうつ伏せになって熟睡していたところを襲われたと思います。続いて右隣の三男の智紀君の部屋に向かいましょう。ベッドの上にうつ伏せになって寝る智紀君は今にも起きそうな状態ですが物音に気付かなかったのでしょうか、あっという間に殺害されました。これまでの現場を見てみると、地獄絵図とも、そんな光景が広がっています。無論こんな光景を撮らなければいけない俺は悪魔も同然かもしれない。さて次は1階の洗面所へと向かいましょう。階段を下りてすぐ左側がトイレになっていて、その隣が洗面所とお風呂場になっているので見てみましょう。」
映し出される映像を見て言葉を失う二人。
支倉が「こんなことをよく脅されたからって撮影できるものだよな。一体どういう心情だったんだよ。」と語ると、鬼塚は「次のシーンが大事なところかもしれない。黙って見続けよう。」と話し、洗面所へと入っていくシーンを見続けた。
映像に映し出されていたのは、恐らくだが息子の潤一郎がセツから出刃包丁を取り上げ出刃包丁を持ちながら、風呂場で母親を説得していた。
「母さん、冷静になって考えようよ。借金の肩代わりだなんて甘言に違いないよ。やってしまったからにはしょうがない。刑務所に入って罪を償おう。自ら出刃包丁を使って自殺をしようだなんて、そんなことをすれば豊子や宏親、靖典、智紀たちの無念が拭えないだけだ。」
その言葉を聞いたセツは再び凶悪性を取り戻したのだろうか、出刃包丁を持つ息子の手を勢いよく掴み始めると、その手で腹を勢いよく切りつけた。
深く切り付けられた潤一郎は風呂場の壁にもたれかかるようにして倒れこむと、さらに潤一郎の手で出刃包丁を持たせた状態で腹の奥深くまで抉るように刺し続けた。口から血を吹き出しながら、潤一郎は最期の一言を残し息絶えた。
「母さん、母さん。」
潤一郎の亡骸は浴槽に向かってぐったりと倒れこむと、握りしめられた包丁を利き手の右手に持った状態で亡くなった。福冨は潤一郎が息絶えたのを見て、生前に書き綴った、”悪魔と取り引きしたい”と綴られた”未来の食糧計画”の設計図を潤一郎の傍に置き始めた。
「社長、許してください。」
そう語る福冨の目には嗚咽しながら泣き出していた。
8mmフィルムの映像はここで終わった。
母親による一連の凶行を見た後、鬼塚は「そうか。だから遺体には抵抗痕がなかったわけか。」と語ると、支倉は聞き返した。「それってどういうことなのか?」
鬼塚が「人は普通襲われたら抵抗するために犯人と揉み合いになった際に生じる抵抗をした痕跡が遺体には残る。しかし、事件を報道した記事には、豊子夫人や宏親君、靖典君、智紀君の遺体には抵抗した痕跡が見受けられず、そして潤一郎の遺体にはナイフが握られていた。つまり最初から潤一郎による無理心中事件と見せかけるために指紋や毛髪の一つも残さぬよう、計画的にこの犯行は行われたのだろう。これは無理心中ではなく殺人事件だったんだ。だからこそあの家には人を住ませてはいけなかった。それらも、新たな不動産投資のために資金が必要だったセツにより、格安物件として賃貸住宅として提供したのは最悪の愚行だよ。何よりも母親の犯行によって汚名を着せられる形となった潤一郎の怒りは癒えぬものでもないだろう。」
鬼塚がそう話すと、支倉はあることを語り始めた。
「潤一郎の墓はどうなっているのだろうか?」
支倉に言われてハッとなって気が付いた。
「そういえばそうだな。殺人犯の潤一郎を、先祖代々の墓場に入れることが出来ないと考え、火葬された遺骨を彼の故郷でもある嬉野市内の轟の滝に散骨したとか色々な可能性は考えられるな。そこは饗庭君に染澤家の墓がどこにあるのか、聞けばわかるかもしれない。」と話したと同時に支倉が「そうだね。饗庭に聞けばわかるかもしれないね。聞いてみるよ。」と喋り、すぐスマートフォンのLINEのアプリを開き、素早い指のタッチで饗庭にメッセージを送った。
『染澤潤一郎の墓がどうなっているのか教えてほしい。』
メッセージを送った後、2本目を見てみようということになり続けてみることにした。鬼塚が「これはどうだろう?”最狂の死刑執行人”って気にならないか?」と支倉に聞くと、支倉は「そうだね。それも見てみようか。」となり見てみることにした。
”最凶の死刑執行人”
「1974年12月28日土曜日 夜22時を回った頃だ。ソメザワ・マテリアルの副社長だった福冨克哉が撮影しています。染澤社長が亡くなり、また俺も社長の跡を継ぎソメザワ・マテリアルを続けていこうかと考えたが、モチヅキ・ドリーム・ファクトリーの多額の借金を抱えている実情も踏まえ、ソメザワ・マテリアルはモチヅキ・ドリーム・ファクトリーと経営統合を行い再起を誓うことにした。ソメザワ・マテリアルの名前は事件後の影響を考え消滅するしかなかった。しかし新モチヅキ・ドリーム・ファクトリーとなっても、苦しいことに変わりはなかった。望月裕社長と共に、ソメザワ・マテリアルで培ってきたスキルを活かそうと奮闘してきたが経営統合をしたことを世に知られたことによりさらに競合他社からの圧力がかけられるようになってきた。裕社長は借金を返すにも、利息も膨らみ、破産は避けられない情勢にあった。そんな最中樹副社長の茉莉子夫人が身重であることも考え俺と樹副社長の二人で色々なところへ行っては頭を下げ続けるが成果が実らない日々がずっと続いた。そして12月28日にモチヅキ・ドリーム・ファクトリーは膨らみに膨らんだ借金が返済できなくなり破産宣告を受ける形となった。この小城市内の豪邸や車も手放さなければいけなくなった。そして闇の世界はとうとう弱い立場へと指示書が渡ってきた。茉莉子夫人だ。茉莉子夫人は生活が困窮していることを理由に100万もの報酬を支払うことを条件に闇の世界が提示してきた条件を鵜呑みにしたのだった。さっそく家の中へと入ろう。玄関に入ってすぐ、絹子夫人のロープで絞殺された遺体があります。腹部には刺された跡が残っています。場所を変え2階へと上がりましょう。向かって右側の部屋が哲也君の部屋です。入りましょう。ベッドの上でうつぶせの状態でぐったりと息絶えているのが見えます。おそらく熟睡状態で抵抗できず刺されたと思います。続いて右隣の部屋が次男の和保君の部屋です。和保君はうつ伏せになって熟睡しているところを襲われたのでしょう。」
福冨が撮影する最後の映像には和保君の遺体の傍に茫然と立ち尽くす茉莉子の姿があった。
「茉莉子さん、裕が帰ってきたら、次の作戦に出るつもりなんですか?」
福冨の質問に茉莉子が答えた。
「お金のためなら当たり前でしょう。生まれてくる我が子に苦労だけはさせたくない。裕義兄さんに良い光景を見せてあげ発狂させたところを狙い、その状態で二人で観音の滝へ連れて行き、裕義兄さんが自殺を図ったように見せかけましょう。ロープは裕義兄さんの趣味である登山の道具の一つであるロープを使ったのよ。先に腹部を刺して、気絶をさせた後に抵抗させる間も与えずにロープで絞殺した。これで抵抗痕は見受けられずまた子供達は熟睡していたから、誰一人起こすことなく殺害が出来たわ。福冨さん、あなただってわたしの一連の犯行を知りながら見ていたのだから、あなたとわたしは同じ罪を背負うことになるね。」
そう福冨に語った茉莉子は不気味な笑みを浮かべていた。
8mmフィルムの映像はここで終わった。
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