「俺は福冨に呪いをかけられたかもしれない。」
鬼塚の中で、取り憑かれたことにより自分自身が失ってしまわないだろうかと不安だけが拭えなかった。だけど嫌なことを考えれば、それこそ福冨の仕掛けた罠にはまるも同然だと気持ちを切り替えることにすると、透視能力を使い頭の中に浮かんできた映像をもとに福冨が埋めた場所にまで北の方角を向いて歩き始めた。
「あれだけ、七ツ釜で俺は幽鬼や吉井に対して”取り憑かれないためにも強い気持ちを保つように”と言っていた俺が、”警官の饗庭と自衛官の支倉と仕事の内容を指摘され、まるで俺の心臓を鷲掴みにされたような気になったときに、福冨に憑かれてしまった。心霊現象研究家としてあるまじき行為だ。霊に対して強く立ち向かい闘わなければいけない立場なのに、自分の弱い部分を突かれてしまうと福冨に太刀打ちが出来なかった。悔しい。」
そう考えると、形勢逆転したい鬼塚は右手の拳を強く握りしめた。
しかし、ここで福冨に負けるわけにはいかない。
福冨は無心になって歩き始めていくと、頭の中で浮かび上がったあの鬱蒼とした木々の中から唐津湾が見えるスポットへと辿り着いた。
「恐らくここだろう。早速饗庭君が用意してくれた金属探知機を使おう。」
鬼塚が金属探知機のスイッチを押すと、金属探知機はすぐ音を鳴らして反応した。
音が大きく鳴る場所を狙い、辛抱強く鬼塚は探し始めた。
「ここが、一番金属探知機の音の反応が激しい。ここに違いない。俺が透視で頭の中に浮かんできたあの唐津湾の海はきっとここだったに違いない。」
鬼塚が確信をすると、埋められてある場所にスコップを軽く差すと、勢いよく土を掘り出すことにした。掘り進めること、5分ほどが経過したころだった。
「ガコッ。」
何かに当たるような音が聞こえてきたので、鬼塚は慎重になって砂を取り払うと、そこに年代物の金庫が見えてきた。
「あった!これに違いない!」
鬼塚が確信するとすぐさま、饗庭と支倉の二人を呼び出すことにした。
「金庫が見つかった!俺のいる場所をLINEのタイムラインで位置情報を伝えるからそれを頼りに来てほしい。俺一人では金庫を引き上げるのは出来ない。」
鬼塚の話を聞いた支倉は「わかった。すぐに向かう。」と語った後にすぐ切ると、饗庭にも連絡を取り「わかった。」と話し電話を切られた。鬼塚は可能な限り、金庫を掘り起こしやすいように、金庫の周囲にある土を慎重になって取り除き始めた。
何分か経ち、先に支倉が鬼塚の元へとやってくると、穴の中にある金庫を見て「まさかこんな金庫が隠されているなんて思ってもいなかった。ここに事件の真相があるんだ。」と語り始めると後を追うように饗庭がやってきた。
饗庭は鬼塚の表情を見て何かに気が付き始めた。支倉に対して「俺と支倉の二人で金庫を引き上げよう。」と語ると支倉は耳を疑った。「鬼塚さんはどうするの?第一発見者の鬼塚さんとみんなで一緒に引き上げよう。」と語ると、饗庭は支倉の耳元にこっそりと小声で話しかけた。
「福冨に憑かれたかもしれない。鬼塚さんのオーラが怨霊が放つ黒い靄へと変わり始めている。これは俺達が目を離した隙に何かあったかもしれない。」
饗庭がそう話すと、支倉は「えっ!?取り憑かれたってこと!?」と聞くと、その話の内容は鬼塚にも聞こえたようだ。鬼塚は饗庭に心配をさせぬためにも嘘をつくべきだとも考えたが、今の俺の抱える状況が見透かされている以上、真実を語るしかなかった。「福冨が首を吊ったクロマツの木に埋められた場所が特定できるように座禅を組み、透視をし始めたんだ。その間に邪心のある御霊たちに囲まれると、俺の背中に福冨の御霊が乗っていた。俺は話しかけるためにも福冨の御霊を見るような姿勢になったところで、福冨が両腕で俺を地面に突き倒したんだ。叫ぼうと口を開けた瞬間に黒い靄のようなものを口の中に吹きかけられた。心霊現象研究家なのに、こんなことになってしまって申し訳ない。」と語ると、饗庭は鬼塚に近づくと声をかけた。
「福冨のこの世に対する憎しみの塊そのものを吹きかけられたな。」
饗庭がそう語ると数珠を握り始め、御祓いの御経を唱え始めた。
しかし、鬼塚はびくともしなかった。
饗庭がその様子を見て、両腕を上げた。
「参った。福冨は怨霊じゃない、悪魔になった可能性が考えられる。だとしたら今俺が持ってきた清めの塩や数珠は馬の耳に念仏も同然だな。」
饗庭がそう話すと、支倉は心配になり「どうするんだ!?」と聞き始めると、饗庭がある答えを出し始めた。「バチカンに悪魔払いの申請の手続きを提出し、悪魔祓いが必要だと判断されば、悪魔払いの経験があるカトリックの司祭がやってくるだろう。仏教の力ではお手上げだ。」と答えると、支倉は思わず「仏教の力では何ともならないのか。」と聞くと、饗庭は「キリスト教にはカトリックにもプロテスタントにも共通して”悪魔”というのが存在する。言葉の意味合いとしては、反キリスト主義者を指しているのだが、悪魔崇拝というのはキリストの教えに対して否定的な考えを持ちかつキリストの対抗する立場でもあるサタンは悪魔の代表格であり、またサタンとルシファーを同一視する見方もある。仏教では、仮に御釈迦様の教えに反抗するようなことをしても、それを裁くのは鬼しかいない。だけど、鬼というのは、悪いことをした人に対して成敗を下すのが地獄での鬼の役割でもあるから、悪魔は存在しない。よって、染澤潤一郎や望月裕、望月樹、そして福冨克哉のような悪魔崇拝の降臨会に参加し、悪魔への忠誠を誓った4人が集まったら死後どうなるか?それは仮に悪魔を召喚できたとしたら、悪魔は生前の者の魂を狙い憑いてくる。そして悪魔の罠にハマった後は、死後に悪魔の仲間になって悪事を重ね悪魔になるしかない。望月樹や福冨克哉の御霊を見ていたら、怨霊ではある、だけど同時に漆黒に近い暗闇が覆い広がっている。悪魔であることに間違いない。」
饗庭の解釈を聞いた支倉は「それじゃあどうするんだ?」と聞くと、「霊能力者の元で修業を積んだ俺でも、仏教での御祓い方法は知っていても、悪魔払いの方法は悪いけど知らないんだよ。映画の”エクソシスト”(1973年アメリカ上映/ウィリアム・フリードキン監督作品)で見たぐらいだよ。まあ悪魔に憑かれたからって、今の鬼塚さんには首を一回転させたり、黄緑色の液体を口から出す、ブリッジをしながら階段の上り下りをするといった悪魔に取り憑かれたリーガンと同じようなことはしない。」と語ると、鬼塚が思わず反論をした。
「俺はまだそこまで悪魔に取り憑かれていない!!俺だって金庫を取り出せることはできる!!!」
鬼塚の反論する様子を見て、饗庭は「まだそこまで悪魔に心を売っていないということだ。彼の言葉を信じて、3人で力を合わせて引き上げよう。」と話すと、饗庭は「鬼塚さんは一番金庫の底を持って、支倉は右を、俺は左を持ち上げるから、一気に上げよう。」と語ると3人で掛け声を出しながら一気に持ち上げた。
そして眠っていた金庫を地上にあげると、掘り出した土を饗庭と支倉の二人で元に戻し始めた。
その間に鬼塚は、金庫のロック方法が何なのかと模索し始めていた。
「金庫は4桁のダイヤル式になっている。暗証番号を考える必要がある。」と語るとその場にいた支倉が何気なく鬼塚に語り始めた。
「仮にその金庫が福冨の物ならば、暗証番号を自分の誕生日にしているかもしれない。一度試してみたらどうだ?」
支倉の助言を聞いた鬼塚が福冨の誕生日を思い出し始めた。
「福冨は1936年9月27日だったから、0927かもしれない。」
そう考えた鬼塚はダイヤルを0927に合わせると、ドアは開かなかった。
自分の誕生日じゃない、だとしたら誰にするんだろうと思い模索をし始めた。
その時に饗庭が声をかけた。
「Wikipediaで”染澤潤一郎”と調べ、潤一郎の誕生日を調べてほしい。潤一郎の誕生日の可能性がある。」
饗庭に言われた鬼塚ははっとなって「わかった。調べてみる。」と語った後に、スマートフォンのWikipediaのアプリを開くと、”染澤潤一郎”と検索をし始めた。
「染澤潤一郎は1940年5月27日生まれだ。0527で試してみようか。」
思った鬼塚はダイヤルを0527に合わせると、金庫の鍵が「ガチャリ」と開いた。
「饗庭君!やったよ!!金庫の鍵が開いた!!」
鬼塚が大きな声で話すと、金庫の重い扉を開け始めた。
その様子を見た饗庭は「よくやった!中に8mmフィルムは入っているか?」と訊ね鬼塚は中身を確認し始める。
「饗庭君。当たりだよ。こんなにも大量の8mmフィルムが姿を現すなんて思ってもいなかった。内容としては”悪魔降臨会”の内容だけにとどまらず、”潤一郎の死”や”裕の死”なども綺麗に記録として残されている。だけどこの金庫の中には8mmフィルムだけでこの中身を見るためには映写機が必要になってくる。それはどうするんだ?」
鬼塚が饗庭に聞くと、饗庭は「8mmフィルムで撮影した映写機ぐらいなら実家に戻ればあるよ。また皆で集まって映し出された映像を検証するのなら俺は一度実家に戻って天井収納に片付けられた映写機を持ってくることはできる。」と話す、支倉が「是非とも見てみたい。悪魔降臨会なんて特に、どんな映像が映し出されているのかが気になって気になってしょうがない。」と語ると饗庭は「多分、支倉が期待するほどのものでもないと思うよ。それでもいいのか?」と聞くと、支倉は意外な過去を語り始めた。
「俺の祖母がかつてソメザワ・マテリアルの社員だった。リストラされた後に祖母は俺の母親となる娘をたった一人で出産した後に、女手一つで育て上げた。祖母がまだ生きていたときに、思い出したくもないほどの嫌な過去があったのだろうか、あのソメザワ・マテリアルには闇に隠された何かがあると思う。孫として知りたい。」
そう語る支倉に、鬼塚は「お婆さんに、そんな過去があったんだ。」と語ると、饗庭は念を押すように「支倉、お前がこの8mmフィルムを見ることは、きっと俺もそして支倉も、見ていて辛いと思うことが色々と出てくるはずだ。気持ちの覚悟はできているか?」と説得をするように語ると、支倉はあっさりとした口調で語った。
「俺は俺の祖父が誰であれ、ソメザワ・マテリアルに関与をした人物に違いないと思っている。俺の母は祖父の顔を知らず育ってきた。改めて祖母が勤めたソメザワ・マテリアルの事を知って、自分が生まれてきた血筋を知りたい。」
その言葉を聞き、鬼塚の中である思いが芽生えた。
「二人は、もしや関係者なのでは・・・?」
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