【怨念シリーズ第5弾】克哉~闇に葬られた真実~

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フィナーレ【完結】

公開日時: 2021年10月2日(土) 13:59
文字数:5,282

福冨の御霊を見てしまった後、鬼塚はびっしょり掻いた汗を拭うために、シャワーを浴びることにした。


2022年3月1日火曜日 早朝の4時過ぎの事だった。


風呂からさっぱりとした状態で鬼塚が上がってくると、寝ていた部屋には特にこれといって変化などは見受けられなかった。安心して再び寝ることにした。


「寝ると言っても5時には起床しなければいけないから1時間ぐらいしか寝られないからな。はあ、全くもって寝た気がしない。まあ寝ようと思ったときは、番組と番組の合間の休み時間に寝るしかないか。」


そう思い、再び布団の中に入り始めた。


起床時間の5時になり、セットしていたアラームと共に目覚めた鬼塚。


「はあ、まだもうちょっと寝たい。でも起きなければいけない。ふぁあ。」


欠伸をしながら、眠たい目を右手で擦り始める。


そして身支度を済ませ、朝御飯を食べ終え、歯磨きを済ませたところで、事務所に向けて5時20分にはTV局に向けて出発をした。


脇道や裏道などを使いながらTV局に着いたのは5時50分過ぎのことだった。


オンエアーが始まるまでにプロデューサーと簡単な打ち合わせをした後に、生放送が始まった。


「心霊現象研究家の鬼塚彰さんに今回の牛首トンネルでの集団自殺について検証をしてもらいましょう。」


アシスタントの女子アナウンサーCの案内の元、鬼塚が軽くカメラのほうを向いて会釈をすると、スタジオ内に設置されてあるモニターには警察が遺体の引き上げに忙しくブルーシートで覆った状態の現場から遺体を担架に乗せて運んで行く様子を、上空のヘリコプターが映し出していた。


「幾らお地蔵様を壊したとはいえ、呪いなど果たして存在するのでしょうか?」


司会のアナウンサーDが鬼塚に質問をすると、鬼塚は冷静な口調で答えた。


「呪いは存在します。破壊したことにより、お地蔵様の怒りを買ってしまったのでしょう。一度怒りを買ってしまったら、許しを乞うても死ぬまで追い詰めてきます。それが神であるお地蔵様の祟りに触れたという事にも繋がってきます。」


生放送が終わればまた次の番組に出演、聞かれることは同じだった。


この世には科学的根拠では示しようが付かないことなどこの世には存在しないなどと言い切る科学者や物理学者は数多程いるが、鬼塚は決して長年追求してきた幽霊や悪魔の存在について、番組内で否定的な意見を言われても信念は揺ぎ無かった。


全ての出演しなければいけない番組を出終えたところで、夕方の18時頃には帰宅をすることが出来た。


玄関に入ったと同時に今朝がたの出来事がふと頭をよぎり、気にしないほうがいいと割り切ろうとしたがやはりあの地へ行かないと気が済まなかった。



「虹の松原へ行き、あいつ(=福冨克哉)と決着をつけなければいけない。」


そう思うと居てもたってもいられず、虹の松原へ向かうことに決めた。


来るまで向かう道中に、しげるが遺したメモを思い出していた。


「どうしてしげるが死後に書き綴ったメモに、福冨は猟銃を使い兄の裕を恐喝してまで観音の滝へと身を投じるようにしただけでなく、しげるを潤一郎や裕に見立てて8mmフィルムの映像に事件が起こったことを揉み消すような偽装作戦を行うようになどと脅したり、

とも記載もあったし、克哉もそれを認めている。しかしあれはきっと福冨の事を犯人に仕立てるつもりなんかじゃなかったんだ。克哉はしげるを庇ったんだ。そしてしげるも内容を知り記載された内容に矛盾が生じないようにしたんだ。ゆたかも、福冨も、そしてしげるも、魂を潤一郎が呼び出した悪魔に捧げる覚悟で、自らの命を犠牲にしたんだ。悪魔に身を捧げた悲しき御霊に寄り添うようにして地縛霊が集まりだすとそして強烈な負のエネルギーを保てるようになり、自分と同じあの地で命を絶とうと誘い込むように導き仲間を増やしていったのだろう。あの地で行われているのは負の連鎖そのものだったんだ。他の自殺の名所とは違う。」


答えは分かったところで、やることは決まっていた。


「福冨克哉という名の悪魔と闘い、負の連鎖を断ち切ることだ。」


ハンドルを握りながら、鬼塚は決意を決めた。


「死んでも俺は惜しくない。」


そして夜の20時過ぎには虹の松原へ到着すると、鬼塚が向かった先は福冨が自らの命を絶ったクロマツの木だった。


立ち止まると、鬼塚は福冨の御霊に呼びかけた。


「おい!克哉!お前の言う通りに来てやったぞ!!さあ俺に憑いているなら俺の呪いを解き放ち、俺を自由にさせてくれ。俺はお前と戦うつもりでここにやってきた。お前の好きな通りにはさせない!俺はお前が仕組んだ罠には絶対ハマらない。」


そう言い放つと、辺りは静寂な空気に包まれた。


そっと静かな空気が流れ込むと鬼塚は負のエネルギーを感じる方向へと向かい歩んでいった。


「福冨克哉、そこにいるんだろ。俺はお前の策に引っかかったりしない。悪魔サタンに身を捧げたお前の悲しい魂に俺は俺なりの念仏を唱えて成仏をさせてあげるよ!」


鬼塚が天に向かって勢いよく叫ぶと同時に、背後に何者かの存在を感じた。


するとそこに福冨克哉の御霊が大勢の自殺者と共に集まって現れた。



その様子を見た鬼塚は福冨克哉の御霊にこう告げた。


「案外素直で驚かされたよ。お前の事だ。抵抗して決して姿を現さないだろうと思っていたが、まさか福冨軍を引き連れてお出ましになるとはな。さすが、この地の自殺者達の中心として立つリーダーだ。俺に対してどんな手段を選んでくるか楽しみだ。さあ!どこからでもかかってこい!!俺は勝つ気満々だ!!!」


鬼塚が強く言い張ると、福冨は鬼塚を見て嘲笑った。


「お前の周囲をよく見てごらん。俺の仲間がお前を逃げ出さぬように周囲を囲んでいるんだよ。目を見開いてでもよく確認しなよ。」


福冨が力強く話すと、鬼塚の周囲を取り押さえるようにして自殺者の霊達が近付きそして鬼塚を取り囲んだ。


「福冨!お前!これは一体どういう事なんだ!」


鬼塚が叫ぶと、福冨は笑った。


「まんまと俺の策にハマったのはお前のほうだ。」


福冨が語ると、鬼塚はすかさず反論をした。


「何を言っている。俺は首吊り用のロープなど持ってきていない。ここには死ぬ覚悟で来ているわけじゃない。この地に居座るお前の御霊を成仏させるために俺は来たんだ。福冨、お前は選ぶ相手を間違えたな。残念ながら俺が撃退させるんだ。」


鬼塚の言葉を聞き、福冨は呆れたように声を上げた。


「心霊現象のプロフェッショナルの割には無智だな。除霊能力もないくせに、悪魔と化した俺と戦おうだなんてことが無智にも程がある。ここで命を絶った自殺者の大方は俺のようにロープを最初から持参した状態で死んだわけじゃない。中にはハンカチやタオル、スカーフやネクタイなどを用いて衝動的に死を選んだ奴もいる。今のお前にはロープじゃなくとも首を吊るための道具をちゃんと持っているじゃないか。」


福冨の言葉を聞き、鬼塚は首を傾げた。


「武器ってか?残念ながら俺はタオルもハンカチも、ネクタイもスカーフも持っていない。それでも首を吊るための道具を持っているとでもいうのか?」


すると福冨は笑いながら指をさした。


「お前の”JESUS”(=イエス・キリストのイエスの英語読みを指す)と書かれた長袖のTシャツをロープ代わりに使い、枝に括り付けたら首吊り自殺をすることが出来る。JESUSと書かれたTシャツで死ぬなんてなかなか素晴らしい最期じゃないか。」


福冨の言葉に鬼塚は負けるわけにはいかないと言い返した。


「俺が着ているこのTシャツはたまたまそんなデザインだよ!残念ながら俺は君たち全員を俺の言霊で成仏をさせてあげるんだ。俺には除霊能力こそはないが、君たちの心の傷に寄り添い癒す力は俺にはある。俺がこの地に来たからには君たちを安心して天国に逝けるように導いてやる。反抗の姿勢を見せないで、俺の言う通りに従いなさい。俺は君たちの味方だ、必ず悪の手から離してやるんだ。」


鬼塚が話すと、霊の集団の中から、見覚えのある女性と子供が現れ、近付いてきた。


そこには別れた妻の千賀子と娘の結花だった。


鬼塚が「千賀子、お前一体どうしてここにいるんだ!?それに結花まで!こんな危険な場所に現れてどういうつもりなんだ!?」と言って反応すると、別れた妻の千賀子が鬼塚の元へと近付くと、鬼塚の首を両手でガッと掴み始め絞め始めてきた。


「やっ、やめるんだ!千賀子!俺を殺したら結花が可哀想なだけじゃないか!!」


首を絞め続けられた鬼塚が千賀子の胸を突き飛ばし抵抗を示すと、はっと我に返り気が付くと、自分の足元が宙に浮いて地面についていなかった。


「・・・・・・!?」


するとさっきまで来ていたTシャツがロープ代わりに鬼塚はクロマツの枝に首を吊った状態でいた。


「おっ、俺はそんなつもりでここに来たんじゃない。千賀子は?結花は?俺が見たのは何だったんだ?幻覚だったのか?俺は一体どうしてこんな状態で首を吊っているんだ。Tシャツなど脱いだ覚えなどない。クソッ、クソッ!!」


鬼塚は訳も分からないまま悶え苦しみ、息絶えた。


その様子を優しい微笑みと共に見守った福冨は魂が抜け行く鬼塚を見て話しかけた。


「お前は俺達の誘導尋問にまんまと引っかかった。お前は弱い。だから俺達が見せた罠にもまんまと引っかかるとは、よっぽど別れた嫁と子供のことがお前にとっては気掛かりの一つだったんだな。仲間を七ツ釜で救えなかったお前に、家族なんか守れるわけがないよな。お前の別れた嫁は、お前のそんな悪い部分に呆れて出て行ったんだよ。お前も自覚をしていたら、分かっていたはずだろう。」



明くる日、2022年3月2日水曜日の朝。


朝6時からのゲストコメンテーターとして出演予定だったはずなのに、いつになってもTV局に姿を現さないことにおかしいと気が付き始めたマネージャーの三吉が鬼塚の携帯に絡をするも電話はコールはするだけで繋がらなかった。


慌てて鬼塚の住むアパートへと向かうが、車はなく、また鍵は施錠されていた。


三吉が再度鬼塚の携帯に電話をすると、家の中で携帯のコール音だけが聞こえた。


「黄緑のムーヴラテがなく、携帯だけが家の中にあって鳴り続けている。おかしい。何かあったはずだ。」


三吉がそう考え、何かできないことを模索し始めたが、慌てて訪れた所属事務所の社長の齋藤武が三吉の肩を叩いた。


「これ以上の追跡は無理だ。誰かの通報を待つしかない。」


齋藤の言葉を聞き、三吉は悩み始めると同時に憤りを隠せずにはいられなかった。


「最近はTV出演などで多忙を極めていて、悩んでいる様子などなかった。まさかこんな形で突然失踪をされては困る。慰謝料だって請求されたらどうしてくれるのか鬼塚さんはわたしたちが今後抱えることを何も知らずに、一体どういう神経よ!」


そんな三吉の様子を見て、斎藤は宥めるように声をかける。


「致し方ない。現実を受け入れるしかないだろう。」


齋藤の言葉を聞き、三吉は静かに黙り込んだ。


朝の8時30分過ぎの事だった。

事務所に唐津署から電話がかかってきた。


「お宅の事務所に所属の鬼塚彰さんが虹の松原で首を吊った状態で遺体となって見つかりました。遺体の確認のためにもすぐに来てください。」


電話がかかってきたことを受け、三吉と斎藤が向かうことにした。


唐津署内にある遺体安置所に駆けつけると安らかに眠る鬼塚の亡骸を見て三吉は「鬼塚さん!鬼塚さん!」といって泣き崩れるのだった。


鬼塚の死は臨時速報で流れ、そのニュースは石川の牛首トンネルでの集団自殺の捜査で応援に入っていた饗庭にも届いた。


「鬼塚さん。俺がいない間に克哉の罠にハマって逝ってしまうなんて、どうして一人で問題を抱え込んで、出来ないと分かっているのに無茶なことをしてしまったんだ。あの人は本当に馬鹿だ。大馬鹿者だ。」


饗庭はそう思うと、晴天の青空を静かに見上げ眺めるのだった。


「鬼塚さんの家にある8mmフィルムには真実が隠されている。今度は俺が真実を手繰り寄せ追求しなければいけない。」


鬼塚の死を受け、改めて自分が次にしなければいけないことが分かった饗庭は唐津署の捜査1課に連絡を取り始めることにした。


「お疲れ様です。饗庭です。鬼塚彰さんの自殺のニュースを聞きました。僕はそちらに戻らなくていいんですか?必要ならばすぐ唐津に戻りますので指示をください。」


饗庭がそう言って連絡を切ると、30分後に再び連絡が入ってきた。


「佐久間警部補からの指示だ。君は引き続き牛首トンネルでの集団自殺の応援として携わってほしい。鬼塚さんの遺体が発見された付近には遺書はないが衝動的な自殺であることは間違いない。着ていたであろうTシャツをロープ代わりにクロマツの枝に括り付け死んでいたところを近くを通りかかった人に目撃されたんだ。饗庭君が急いで戻る必要性はない。我々で解決する。」


その言葉を受け饗庭は「わかりました。」と言って電話を切ると、ふと鬼塚とやりとしていたLINEのメッセージを見たくなってアプリをクリックした。


「衝動的な自殺ではないはずだ。きっと何か隠されているに違いない。」

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