【怨念シリーズ第5弾】克哉~闇に葬られた真実~

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攻撃の時

公開日時: 2021年10月2日(土) 13:55
文字数:4,621

2022年2月28日 月曜日。


支倉と共に8mmフィルムの映像の鑑賞会を終え、一夜が明けた。


朝7時からニュース番組のゲストコメンテーターとして出演する一方で、集団で失踪した大学生の足取りが徐々に判明していく。


「牛首トンネルで祀られているお地蔵様を”呪いが真実なのかどうか”ということを大学生が寄ってたかってバットなどの道具を用いて壊していく映像がInstagramのストーリーズで生配信されていたそうですが、若者たちの行き過ぎた暴走ともとれるフォロアーを取りたいがための行為には、警鐘を鳴らさなければいけないと思います。YouTubeでも心霊スポットとして投稿されている場所であるという理由だけで、個人が所有をしている敷地内であるにも関わらず許可なく勝手に足を踏み入れ、壁に落書きをしたり、置いてある物に対して悪戯などをするなど、悪質化してきています。全ての若者に対して僕が言いたいのは、犯罪であることを自覚してほしいということです。お地蔵様を壊す或いは壁に落書きをする等の行為は器物損壊罪です、また個人の敷地内に勝手に足を入れる行為は不法侵入の罪に問われます。数多くのいいね!や転送を目的とした行き過ぎた行動は貴方達の首を絞めるだけです。」


朝の生放送を終え、控室で一休みをしていると饗庭からLINE電話がかかってきた。


鬼塚はかかってきたと同時にすぐ電話に出た。


「はい。もしもし、鬼塚です。」


すると饗庭が生放送の番組を見ていたのだろうか、進展があったことを伝えてくれた。


「首を絞めるなんてなかなか良いことを言うね。その通りになったよ。俺も色々なホラー映画を見てきたけど、ここまで凄惨な自殺現場は見た事がない。追い詰めに追い詰められた末に学生の皆が首吊って死んでいるよ。一部の遺体はからすが突いているよ。辺り一帯は土地勘のある住民によって入り込めば迷い込みやすい場所などを重点的に隈なく探したはずだったのに、まさかという場所にいたよ。壊されたお地蔵様の祟りかどうかは分からないが、この場所に導かれ、自殺に追い詰めた可能性は十分に考えられるよ。いずれ石川県警から正式会見が行われるだろうから、また次のコメントを考えなければいけないと思うよ。まあ俺が考えるには、心霊スポットとして挙げられる理由の一つとして”お地蔵様が血の涙を流す”真偽を確かめたいがために破壊する様子を動画にアップロードをしたことで、怒りに触れたんだと思う。」


饗庭からの報告を聞き、鬼塚は「マスメディアに県警が報告するまでに連絡をしてくれてありがとう。きっとすぐ速報になるだろう。」と話し、饗庭に「このような集団自殺があったことを受け、警察としてはどう捜査をする?遺書もないんだろ?」と聞くと、饗庭は淡々とした口調で「もうもう、答えは決まっている。”道に迷いに迷った末心神耗弱状態に陥りその場にいた大学生達が一丸となり首を吊ってしまった可能性があります。”ということだろう。それからは踏み入った捜査などは行わない。分かり切ったことだからね。所詮、このようなことが行ったことが事実として報道されればまた心霊スポットとして悪ふざけをする若者は出てくるだろう。」と話した。


鬼塚は「饗庭君は血の涙を流すという噂は信じるのか?」と聞くと、饗庭は笑いながら「鬼塚さん。それを言うと、学校の怪談でよくある二宮金次郎の像が走って襲い掛かってくるというのを信じる行為と同じことだよ。」と語った。


饗庭はその答えを聞き、「そうだね。」と話し電話を切った。


控室で黙々と差し入れの弁当を食べ、13時からの生放送に向けて着々と入ってきている情報をYahoo!のニュースなどでチェックをしていた。


「饗庭君が話していたことはまだ速報では入ってきていないようだ。きっと俺が生放送に出演しているときに臨時ニュースが流れる形なのだろう。」


そう思いながら、生放送に出演した。


すると饗庭の言うとおりに、13時30分過ぎに臨時のニュースが流れ、画面が切り替わり、報道ステーションからお伝えする形となった。


その様子をスタジオでじっと眺める鬼塚がいた。


「未来ある若者がこのような形で集団で自殺するなんて一体どういう心情だったのか。誰かひとりは生き抜くために働いたりはしなかったのだろうか。」


あるコメンテーターAが映っていないことを理由に語り始めると、コメンテーターBが「お地蔵様を壊す行為をしてしまっているから、お地蔵様の怒りに触れて祟られたのでしょう。科学的な根拠を示すことはできない話にはなってきますけどね。」と言って話し始めた。


鬼塚は2人のやり取りを聞いて、「いやもっと他の理由があるはずだ。かつてあの地で40年以上も前に事件があったことも、そのことを伝える記事が犯人が死んでしまっているためか、正確な情報を知ろうと思えば、いったい何年前の事件だったのかを把握しなければいけないが、それすらGoogle検索で検索をしても分からないことを考えれば、この事件があったことの真偽すら疑わなければいけないだろう。もっと他に理由があるはずだ。トンネルが狭いがゆえに事故が起こりやすかったのか、或いは霊が集まりやすい山のためなのか、いずれかだろう。」と考え始めていた。


すると考えれば考える程、自分の中で決して目覚めさせてはいけないことに気が付いた。


「首吊り自殺、そういえば虹の松原は”首吊り自殺の名所”だったよな。」


そう思うと、かつて経験した隠された金庫の在処を探るために透視をしている最中に自殺をした霊達が集まり俺を首吊り自殺に導こうとしたことを思い出した。


「俺はこのままこの事件に首を突っ込んでいいものだろうか。俺は忙しさあまりに饗庭が教えてくれた楠木先生に連絡をするまでもないと思い連絡をしてきていないが、一度悪魔に身を捧げることを同意してしまっている以上、裕が死んだ観音の滝やしげるが死んだ七ツ釜、そして福冨が首吊った虹の松原のいずれも悪魔に憑依された人が自殺した呪われた地ということになる。だとしたら茉莉子が絶命した厳木ダムも、茉莉子がどこまで降臨会に参加をしていたかは、まだ見ていない8mmフィルムを見て確認する必要性はあるが、茉莉子も悪魔に身を捧げることを同意した一員ならば、結婚する前まではソメザワ・マテリアルの秘書だったから可能性としては高い。そう考えれば、唐津市内に存在する自殺の名所と言える場所は、呼び出した悪魔が絡んできていることになる。」


その答えに行きついたときに、ふと誰かが背後を覗き込んでいるような気がした。


しかし振り返っても誰もおらず、気のせいだとばかりに考え直す鬼塚がいた。


「福冨克哉の霊が仮に俺に憑いているとしても、地縛霊である以上俺のいるスタジオまではやってはこれない。いや、福冨が持つ負のパワーが強ければ他の浮遊霊を引き寄せる可能性は高いのか。だとしたら、今先程の後ろからの視線は俺の中に宿る何かが俺の中で目覚めさせてしまったのかもしれない。」


そう思い振り返るも、やはりセット以外の何もなかったのだった。


気を取り直し、再びスタジオで生放送の撮影が始まると、今迄の経験に基づいたコメントをするのだった。


「神様でもあるお地蔵様の像を壊したことにより、怒りに触れた結果だろうと思われます。いったいこのお地蔵様がどんな目的で祀られたのかはまだ僕として把握はしていませんが、祀られてある以上恐らくはトンネル内の交通安全を祈願するものであったり、あるいはあのトンネル内で未曽有の大事故が起きて亡くなられた方々の御霊を弔うために設置されたのか。いずれにしろお地蔵様が設置されているのにはそれなりの理由があります。破壊をするなんて罰当たりなことをしたことによって、祟られた可能性は十分に考えられます。」


全ての仕事をやり終え、福岡市内の自宅へと23時過ぎに戻ってきた鬼塚。


「明日は朝6時から生放送の番組だ。ハード過ぎるよ。」


そう思いながらさっさと帰ってくると風呂に入りパジャマに着替え寝ることにした。


寝始めて2時間が経過したころだった。


2022年3月1日の夜1時過ぎの出来事である。


「うーん、何だか俺の足元に重たいものが乗っかかっているような、こんな時間に俺しかいないのだから、悪ふざけをするような奴などいない。」


ふと目を覚まし、顔を上げてみた。


するとおかっぱ頭の5歳ぐらいの女の子だろうか。


俺が目を覚ますと、俺のほうに目掛けて四つん這いになって不気味な笑顔を浮かべ画なら近付いてきた。


俺の顔の前のところまで近づくと、その女の子はあっという間に消えた。


鬼塚の中で「俺の中に宿る福冨の御霊が呼び出したに違いない。」と思い、福冨の御霊を呼び出せることが出来るかどうか無我夢中で部屋中を呼びかけてみることにした。「福冨克哉!俺の中に居座っているんだったら出てこい!俺がこの手で成仏をさせてあげる!さあ姿を現せ!!!」


部屋の中で幾度も幾度も呼びかけてはみたが、やはり反応はなかった。


「俺のような強い霊能力を持っていたとしても、やはり虹の松原に潜む霊を召喚することは無理だったか。結局は地縛霊、強い霊力を放つことが出来るのは、虹の松原に限るってことだよな。」


鬼塚は先程の出来事で顔の表情が変化していないかどうかを風呂場へと向かい、シャワーの後ろにある鏡を見て確かめた。すると、いつもと変わらない表情だった。


安心をして寝床に着こうと思い、再び瞼を閉じ始めた。


やはりなかなか熟睡しようと思えど寝られなかった。


「仕方がない。目を瞑っていたらそのうち熟睡状態になるだろう。」


そう考え、楽しいことを夢見ながら眠ることにした。


「これから起こりうる楽しいことを考えていれば、前向きな気持ちになり悪い霊は寄っては来ないだろう。」


そう思い、今の自分の仕事があまりにも多忙を極めるにつれ、様々なテレビ番組に引っ張りだこになり更に自分がこれまでの心霊スポットで経験したことをエッセイとして出版をしたところ大ベストセラーとなり、本屋では売り切れ続出状態が続く。


今の鬼塚にとって到底出来そうなことにないと分かっていてもやはりそんな夢を見たい気持ちになった。


「億万長者になれば俺に三行半を突き付けた元嫁も娘を連れ”ヨリを戻したい”だなんて言ってくるのだろうか?」


そう思い、笑いながら目を閉じた。


しかしやはり眠れそうになかった。


すると誰かの声がする。


「虹の松原に行けば楽しいネバーランドが待っているよ。君の別れた女房と娘にも会えるぞ。」


鬼塚の耳元で誰かがそう囁くと、ハッとなって声がする方向へ振り向いた。


すると目の前に福冨の御霊が居た。


「地縛霊だからってあの松原以外に現れることはないだろうとで思ったのか?残念ながら俺はいつも君の背後にいるよ。ずっと憑いていたんだからね。君がお昼のニュース番組で首吊り自殺に触れた事で、君は俺のことを呼び出したんだ。俺はずっと君が俺がリーダーとして率いるあの松原に同じ首吊り仲間の一員にならないか、俺はずっとあの地で首を吊った状態で待っている。」


そう話すと、福冨の御霊には確かに、首にロープが括り付けた状態だった。


鬼塚が思わず「悪霊退散!南無阿弥陀仏!」と唱えるが、福冨の御霊は鬼塚の様子を見て笑いながら消えていった。


福冨の御霊がいなくなったことを確認すると同時に、鬼塚の額からは熱帯夜でもないのに汗が止まらない状態になっていた。

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