映し出された映像を黙ってみた鬼塚。
その間に支倉は裕の最期を記録した映像が残っていないかと金庫の中にある8mmフィルムを探し始めていた。
「あった!これじゃないだろうか?」
支倉が見つけ出したフィルムには”裕 観音の滝で散る”と記されてあった。
鬼塚が支倉に「早速再生をしてみようか。」と話し再生をしてみることにした。
”裕 観音の滝で散る”
「1974年12月28日土曜日 時間は23時を回った頃だな。俺福冨克哉そして、映っているのは望月樹だ。カローラの後部座席に座っているのは望月茉莉子そして望月裕だ。裕は我が家が大炎上しているのを見て立ち尽くしているところを取り押さえた。樹が”安全なところへ行き避難をしよう”といってね。裕は家の中に家族が残されているかもしれないと抵抗したが、家はすっかり燃え上がって火の海と化しているのを飛び込むのは無理だ、諦めろと俺が言って説得し、観音の滝へと連れ込むことが出来た。裕君、カメラの前に現れなさい。」
すると、裕は後部座席のドアを開けて出てきた。
「指示書に書かれたことが事実なら俺はもう生きていけない。」
落胆した様子で語り始めると、福冨のほうを見て語りだす。
「これ以上俺をカメラで撮影して一体何を話せばいい?俺は悪魔になってでも世間に復讐をしてやるとでも言わせるつもりか。ああ指示書に書かれたことがすなわち俺の作り上げた会社を潰すのが目的だったら幾らでも言ってあげるよ。俺は生前に染澤の会社内で魔王サタンを降臨させるための降臨会に俺、樹、福冨克哉、そして小鳥遊悟の5人で頻繁に行われた。染澤の家の中にある秘密の地下室やソメザワ・マテリアルの隠された部屋で行われた。みんなそれぞれ考えていることは勿論同じだ。ライバルを蹴落とすために、悪いことだと分かってはいるが、少しでも会社の存続のためには致し方が無かった。そこで染澤は反キリスト主義の一つとして悪魔崇拝というのが海外で行われていることを知り、これを取り入れようと仲間である望月兄弟と福冨、そして小鳥遊の5人が集まり行うようになった。多い時は樹の妻の茉莉子、そして男社会のこの業界で珍しい女性の技術職の工藤阿紗子を呼び出して淫乱パーティーを行ったこともあったな。悪魔を呼ぶことが、自分たちにどんな災いをもたらすのか、俺たちは恐ろしさに気付かずに足を踏み入れてしまい悪魔の僕になることに正式に同意をしてしまった、俺達が俺達で産んだ不安こそが強烈な悪魔を呼び出したに違いない。闇の世界は会社によるものではない、俺達は俺達が呼び出した悪魔の罠にハマり、悪魔の指示に逆らうことも出来ず、俺はサタン様の僕として魂をサタン様のために捧げよう。サタン様、どうか見守っていて下さい。」
そう話すと、裕は観音の滝面の近くへと勢いよく走り、滝面に向かってプールに飛び込むかのような感じでダイブをした。
裕がダイブをしたのを見守った福冨と樹は笑いながら語り合った。
「あとは俺達がサタン様に捧げる番だな。俺が先にサタン様に魂を捧げる用意が出来ている。樹は俺の後を追うようにして魂をサタン様に捧げよう、覚悟はできているな?」
8mmフィルムはここで終わっていた。
一通りの映像を見て鬼塚が疑問に思った。
「樹が七ツ釜に投身自殺を図るまでに遺したメモには、悪魔を呼び出すための降臨会が行われたとは綴られてあったが、フェニックス・マテリアルの創業者でかつ戦友でもあった小鳥遊のことについては何も触れられていない。どういうことだろう。小鳥遊のことを良く思っていなかったにしても、潤一郎は小鳥遊を誘ってまでライバルを蹴散らそうとしたのは事実なのだから、小鳥遊と一緒になって行ったことに素直な気持ちで受け入れたくなかったということなのだろうか。」
鬼塚が話し始めると、支倉の表情が変わり始めた。
「支倉、どうしたんだ?」
鬼塚が心配になり声をかけるとハッとなって鬼塚を見た。
「工藤阿紗子、俺の御祖母ちゃんだ・・・。まさかこの時に妊娠した・・・。」
支倉の一言に鬼塚は提言した。
「だとしたら茉莉子はどうなる?誰と交わって妊娠をしたのか分からないのに、果たして旦那の子供であると言えるものなのかどうか。そもそも樹の子供じゃないかもしれない。だとしたら、この場にいた男ども全員の、DNAを至急調べる必要性が生じてくるよ。」
鬼塚が話すと、支倉は頭を抱え始め笑い始めた。
「何だかそんな気配がしてた。きっと饗庭だって同じだ。」
支倉の様子を見て、饗庭は背後からそっと抱きしめる。
支倉が思わず「ちょっと、やめてよ。俺そこまで落ち込んでいないんだからね。」と語ると、鬼塚が思わず抱きしめた感想を話し始めた。
「俺の体は体脂肪で溢れているが、支倉君はやっぱり違う。腕とか胸板とか触ったらもうカッチンコッチンで鍛えているなあというのがもう凄い。あの鍛え上げた筋肉で数々のトラップを乗り越えてゆく番組に消防官VS警察官VS自衛官で闘わせたら支倉君は100%生き残るな。本当体脂肪の部分がないのは凄いよ。」
鬼塚の一言に支倉が鼻で笑い突っ返した。
「スポーツジムにでも通って鍛えてきたら?」
2人で話していくうちに、もう一つのフィルムも気になって見てみることにした。
”茉莉子と阿紗子”
そこには裕の発言通りに、染澤潤一郎、望月兄弟、そして小鳥遊の4人が全裸の茉莉子と阿紗子に対して行為を行っている映像だった。
「これが例の淫乱パーティーか。でもよくよく見たら茉莉子には樹が、阿紗子には潤一郎が離れぬように幾度も長い時間をかけて行為を行っているのを見たらこの瞬間に命が宿ったのは間違いないだろう。仮に饗庭の血筋が望月じゃなかったとしても幽幽がYouTubeにアップロードをしたあの生前の望月兄弟を映し出す動画には100%間違いなく強い霊能力を示す根拠が映し出されていた。間違いなく饗庭君は望月の血を受け継いでいる。そうじゃなかったら除霊なんて出来ないはずだ。エネルギーが強くなければ出来ないことだ。」と話し、「支倉君、君は間違いなく潤一郎の血を引いていると俺は思っている。君の御祖母ちゃんは間違いなく潤一郎の愛人だったんだ。あの映像から見てもわかることじゃないか。DNA検査の結果が判明したらすぐにでもわかることじゃないか。」と語った。
鬼塚の話に支倉は「ハハハ。仮にサタン様の元で行った淫乱パーティーで俺達の親が生まれたのならば、俺と饗庭はサタン様の申し子とでも言いたいのか?」と語ると、鬼塚は「そういうことじゃない。だって君たちの頭に666の痣など無いじゃないか。だから俺は悪魔の子ではないと言いたいんだ。」と熱弁した。
支倉は鬼塚の言葉を聞いて、呆れかえって話し始めた。
「頭に666の痣?オーメン(1976年アメリカ上映/リチャード・ドナー監督作品)の見過ぎじゃないのか?残念ながら俺と饗庭の頭にはそのような痣はない。俺達はダミアンじゃないからね!」
支倉の返した言葉に鬼塚が感心するような口調で話し出した。
「支倉君も饗庭君も凄いね。1970年代の古い映画を知っているとは感心したよ。」
鬼塚の言葉に支倉が答えた。
「今の子の御時世なら、AmazonプライムでもNetflixでもU-NEXTでも、古い映画を見ようと思ったら見れるよ。何ならティングラー 背すじに潜む恐怖(1959年アメリカ上映/ウィリアム・キャッスル監督作品)からサイコ(1960年アメリカ上映/アルフレッド・ヒッチコック監督作品)やナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生(1968年アメリカ上映/ジョージ・A・ロメロ監督作品)だって俺達知っているからね。」
その言葉を聞いた鬼塚が「そんな古い映画まで知っているなんて思ってもいなかった。」と話すと、支倉は「古い映画程、その当時にしか出せない撮影手法を知ることが出来るから面白いんだよ。」と語る。
2人で話し合っているうちに、饗庭からLINE電話がかかってきた。
「親父が生きていた時に聞かされた話になるんだけど、染澤家の先祖代々の墓なら嬉野市内の願徳寺にある境内の墓地にある。俺が警官になってから改めて調べた結果、去年に潤一郎の母親のセツさんがお亡くなりになられた際は成年後見人だった反町さんの指示の元で先祖代々の墓にセツさんの遺骨は埋葬されたとも聞いたが、潤一郎に関してはどこに埋葬されているかは俺にもわからない。聞いた限りでは、犯罪人である以上先祖代々の墓に埋葬するわけにはいかないとセツの指示の元違う場所に埋葬されたらしい。少なくともあの多久市内の呪われた屋敷の敷地内ではないことは確かだ。無縁仏の可能性もあると思い願徳寺の住職に話は伺ったが、残念ながら無縁仏として供養されている人のリストに潤一郎の名前は無かった。遺骨が埋められた場所は墓地ではない可能性が高い。それしか言えない。」
その言葉を聞いた支倉は「どこかに埋めたって一体どこに埋めるんだ?嬉野隧道か轟の滝とでも言いたいのか?」と話すと、饗庭は「いやいや、それは俺に聞かれても分からない。あくまでも可能性だけの話だからね。有り得るとしたら、彼の故郷でもある嬉野市内に、仮にセツさんが亡き息子のことを偲び埋めた可能性は捨てきれない。ただ死んでしまっている以上、セツさんの御霊を呼び出すことが出来るイタコでも呼ばないと、遺骨が埋葬されている場所までは辿り着けないだろう。」と語った。
饗庭の言葉を聞いた支倉が、8mmフィルムで見た映像を語りだした。
「日本にコールドケース(=未解決事件)ばかりを扱う捜査機関があれば、この事件は間違いなく再捜査されたに違いなかった。時効という法律に阻まれ、解決した事案であれどこの事件はキチンと捜査をしていなかったらこうなった。指示書って何だ?悪魔が筆記道具を見つけ手書きでメモ用紙に記したのか?そんなことは果たして世の中に有り得るのか?俺は”悪魔のせい”だと認めたくない。」
支倉の言葉を聞いた饗庭が「俺はまだ石川にいるし、帰ってきたらすぐにでも8mmフィルムはチェックしたい。事件のことについては、法律が変わらない以上、俺達の手で出来ることは、闇を明るみにすること。それぐらいだ。犯人も死んでしまっている以上、再捜査が出来たとしても被疑者死亡で書類送検するしかない。残念ながら時効という制度が無くても、この事件で逮捕をすることはできない。でもその代わりにあの世で閻魔大王の裁きを受けているに違いない。この世で受けられなかった裁きをあの世で受け、そして八熱地獄に堕ちるか或いは八寒地獄に堕ちるか、いずれにしても死後に裁きを受ける。そう割り切って考えるしかない。」
饗庭との話をし終えた後、支倉は納得がいかない様子で鬼塚に語り掛けた。
「仮に俺の祖父が潤一郎だったら、潤一郎は冤罪だったって事だよな。にも関わらず実の息子を殺したセツは先祖代々の墓に入ることが出来て、殺された息子は殺人事件の犯人として墓に入れずどこに埋葬されたか分からないだと、世の中こんな非情な話が果たしてあるのか。一体どこに埋められたんだ、セツにも同じ目に遇わせたい。」
鬼塚はその言葉を聞き、こう話した。
「今は復讐をすることなど考えないほうがいい。潤一郎に関しても、母親から見て悪魔を熱心に崇拝するなど気違いな一面はあったし、不気味だったに違いないだろう。しかしそれでもやっていい事と悪い事はある。冷静になり、悪魔を呼び出すなど危険な行為を及んだ潤一郎のことを深く考えすぎないほうがいい。潤一郎はあの土地に住む人間を呪い、祟り、そして襲う。怨霊でも何でもない、悪魔そのものだからね。」
その言葉を聞いた支倉は鬼塚を見て「そうかもしれない。」と答えるにとどまった。
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