俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

犬塚梨乃という少女!

公開日時: 2020年9月25日(金) 07:10
文字数:4,037

「それで彼女を救うってどういうことなんすか?」


俺は店長に連れられて、表の自販機で何か奢るというが、俺は貧乏性が故に水を選んだ。


「依頼料みたいなもんだから、もっと高いものでもいいんだぞ」


「はは、どっか社長から貰うものは貰えてるんで、これで充分です」


思ったより冷たい水で乾いた喉を潤す。しかし、どういう事だろうか?


「あの、リアナを救うってどういう意味なんすか?」


「店でみた写真の少女を覚えているかね?」


あぁ、あの笑顔の写真のことか。本当に眩しい笑顔の少女が写り込んでいた。その子が、とても人を蔑むような暴言を吐くとは思えないんだよな……


「僕も店のモニターから君たちのバトルに目を通していたんだが、リノちゃんは今すごく荒れてるんだ……」


「前は違ったんですか……」


「いや、前々から荒いプレイングの子ではあったんだ。けど今みたいにバトル中に暴言を吐くことなんてなかったし、相手のこともリスペクトしていた」


なるほどな。つまり彼女が今のように荒んでしまったのには何かしらの、きっかけがあったのかも知れない。


「まずは救うとか、そういうのを抜きにリアナ……犬塚梨乃という少女の事が知りたいんです。話して貰えませんか?」


「勿論だ。リノちゃんは僕の姪っ子でね、彼女の両親が仕事で家を開けるもんだから、彼女はウチの店でプラモや玩具に触れることが多かったんだ」


「だがら、旧型のエボリュートにもこだわりがあるんすね」


「そうかもね。けど、やっぱり模型屋で過ごしてばっかりの彼女は、プレイヤーとしての実力こそあれど、友達が少ないんだよ」


友達が少ないか……


「そんな彼女に転機があったのが、この写真の頃だ。店の小さな大会だったんだけど、ギルド戦でね」


店長が写真を改めて見せてくれた。よく見ると写真にはタブレットも写り込んでいて、画面の向こうでは男女のアバターが同様のトロフィーを抱えてピースサインを送っている。


「彼らは、リノちゃんの強さに目をつけて彼女をギルドに招き入れたんだ。リノちゃんがギルドに足りなかった攻めの役目を請け負ったお陰もあって、このギルドは次々に大会やイベントを勝ち抜いていった」


はぁ、とため息をつく店長。写真の裏には大会ごとの梨乃の戦績が記されていた。そして数を重ねるごとに梨乃の戦績だけ、突発している。


「彼女は、元から強かったが、ギルドの為にと必死に実力を高めていった。けれど、段々とギルドのメンバーが彼女についていけなくなった」


「皮肉なもんですね……」


「あぁ、やがてギルドは強くなりすぎたリノちゃんについて行けずに崩壊したよ」


店長は淡々と語り続ける。彼自信もかなり梨乃のことを心配して何かしてやれないかと、歯痒い思いをしていたのだろう。


「その後もリノちゃんの実力に目をつけるギルドは後を立たなかったが、最後にはどんなチームもリノちゃんを持て余す……」


「けど、スノーレディみたいな強いプレイヤーだって、いるはずでは?」


「あぁ、確かにリナちゃんより強いプレイヤーはたくさんいるよ。けど彼らはすでにギルドとして強い絆で結ばれているから、新規のメンバーを呼び込むことが少ないんだ」


「そういうことっすか……」


出すぎた杭は打たれると言えば良いのだろうか? 必要とされたいが為に強くなったというのに、その性で彼女は孤独になってしまったのか……


俺もバイトばっかで友達なんてものは委員長くらいだ。だからその寂しさも知っている。俺にとってその寂しさを埋めてくれるのが、家族なら、梨乃にとってはそれがギルドのメンバーだったのだろう……


「やがて、リノちゃんは自分より弱いプレイヤーが許せなくなってしまったんだ。だから段々とバトルから離れていってね」


「そうだったんすね、なんとなくですが、わかったかもしれません」


確かにソロクエストなら、敵の強さも設定次第では自由自在だし、周りのことを考えずとも自分の強さを信じるだけでいい。


「だからこそ、珍しかったんだ。彼女が誰かのバトルを受けるなんて」


だから、俺に彼女を負のループから救いだして欲しいと言うわけか? けれど彼女がバトルを受けたのは、ほとんど林檎さんのウザさと社長という立場のせいだ。彼女が俺に惹かれてバトルを受けた訳じゃない。


「あの、勘違いさせるといけないけど、俺にはそんな凄い力はありません。凄いのは林檎さんで……」


「いや、君は素組のエクステンドであれだけやったんだ。君が《《君だけ》》のエクステンドを作ったとき、リノちゃんもモデラーとして、そしてプレイヤーとして君と戦わずにはいられないだろう!」


店長に頭を下げた。どうやらこの人は本当に俺が梨乃を救えると信じてくれるようだ。


ったく、林檎さんからの無茶振りですら大変なのに、そんなに頼まれた断れないだろ。


「俺ってお人好しなんすかね?」


「あぁ、親の教育が良かったのかな?」


「そうですね。わかりました、責任もって梨乃を救いましょう!」


両親は困った人を頬っておけない面倒な性格の持ち主だった。そして、それがどうやら少しは俺にも遺伝してくれたようだ。


だが、事態はそう簡単じゃない。梨乃をもっとも確実に救うには、彼女と常に対等な強さでいられるギルドを結成することなんだろうが、そう簡単にそんな強いプレイヤーが見つけられるとも思わない。だとしたら、


「俺が彼女くらい強くなれば、いいんですよね」


「あぁ、僕は君にその力があると信じたん」


そう簡単にもいかないだろうがな。けど可能性はあるかもしれない。先ほど店長が言っていた"俺だけのエクステンド"……。冬美のスノーテンドや、スノーレディのオーバーロードのような機体を俺が作れれば可能性はある!


「店長! 店に戻りましょう!」


「それは構わないがどうするだ?」


「作るんですよ! 俺だけのエクステンドを、もっと強くなった相棒を!」


本音を言えば、素組のままで勝って彼女の"素組野郎"という発言を取り消してやりたい。けど今の俺に必要なのは彼女を否定することじゃなく、同じ土俵に上がることだ。あの発言を撤回させるなは後からでも遅くはない。


「それに何より俺は、もっと強くなったエクステンドと戦いたいんです!」


「ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか! 鋼太郎少年!」


「うわぁ!?」


後ろから、ぬるりと林檎さんが現れた。あまりに唐突に現れるもんだから俺は持っていた水を溢した。ちょうどズボンに掛かって、濡らしてしまう。小学生の頃なら、お漏らしとネタに爆笑していたが、この歳では笑えないかもな……


「あっはは、鋼太郎少年。君……っ君、高校生なってもお漏らしとは!」


前言撤回だ。ここに小学生レベルの女が居やがった……というか笑い声が一人じゃないような気がするぞ。彼女の横の女性も腹を抱えて笑ってやがる。


「はっはは! あっはは! マジかよ、ストーカーで半裸のアバターでお漏らしって、変態じゃねーか」


「あ? 誰だよテメェは、初対面の俺にたいして失礼すぎないか?」


林檎さんの横で爆笑しているのは、金髪にジャージ姿の昔ながらの不良少女だ。待てよ、この少女……店に入ろうとした時の腹パンヤンキーじゃねぇか!


「テメェ! なんでここに!」


「あぁ、リノちゃん。今日はもう帰りかい?」


リノちゃん!? マジで!? 俺の耳が正常なら店長が、このヤンキー少女のことを件の梨乃の名前で呼んだぞ!


「ふふ、紹介しよう! この金髪ヤンキー美少女こそ、我らが次の攻略対象リアナの正体、犬塚梨乃少女だ!」


「マジかよ……」


このヤンキー少女が、あのリアナだったのか。信じられない……いや、言動や目付きの悪さから充分、納得している俺がここにいるぞ。てか、何故か林檎さんと仲良くなってやがるし!!


「おい、鋼太郎!」


「なっ……何だよ」


梨乃が俺の前に仁王立ちする。今にも殴ってきそうな迫力だ。俺は思わず衝撃に備えてしまう。だが、彼女は小さな声で「悪かった」と口にした。


「えっ……いま何て言った?」


「もー、鋼太郎少年。梨乃少女は感情表現が苦手なんだから、あんまり野暮なことをするなよ!」


林檎さんがパンっパンと手を叩く。そして俺たちを向かい合せて強引に握手させた。


「さーて、前回の因縁はこれにて水に流そう。けど鋼太郎少年はこれで納得しろと言われても解せないだろう」


「えっ、いや、解せないというよりは、説明が欲しいんすけど……」


「細かいことは気にしなーい! それよりも互いのプライドにかけて明日の同じ時間に決着をつけようじゃないか!」


林檎さんが俺の耳元で「地区大まで時間がないしね」と耳打ちする。俺たちの最終章は世界大会の優勝だというのに、まだ俺はスタート地点にもたっていなかったことを改めて思い出してしまった。


「鋼太郎、いまある全てを持ってアンタ達をボコボコにしてやんよ!」


俺の目の前に、エボリュートが突き付けられる。どうやら俺は彼女に喧嘩を売られているようだ。それなら……


「上等じゃねぇか! それなら俺達はお前を絶対に救ってやる!」


俺も彼女にエクステンドを突き付けた。俺と彼女、そして互いの機体同士の視線がぶつかり合う。


「何だよ? 救うって……」


「何でもいいだろ、それに俺は今、お前やスノーレディみたいな強いやつと戦いたい」


そしてエクステンドと俺が一番強いってことを証明したいんだ。


「まぁ、面白くなるなら、私は構わねぇよ」


梨乃は俺たちに背を向けて走って行ってしまった。彼女の手には大量のレジ袋が握られていた。あれがエボリュートの改造に用いるためのパーツだと言うのなら、俺もこうしていられない!


「店長! 手伝ってください!」


「作るんだね……君だけの機体を!」


「なるほど、鋼太郎少年もようやくプラモデルを作るのか」


林檎さんは含みのある笑い方をした。彼女も俺に期待してくれているのだろうか? それともメーカーのトップとして、自社の商品に触れて貰えることが嬉しいのだろうか?


「なら私も準備をしておくから、また後でな!」


「あっ……はい! けど準備って?」


「内緒だよ、けど楽しみにしてくれたまえ!」

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