俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

ようこそゲームとプラモの世界に!

公開日時: 2020年9月4日(金) 02:33
更新日時: 2020年11月1日(日) 19:30
文字数:5,585


目の前には広がるのは草原だった。だだっ広くて草が生い茂る草原だ。これがゲームの中の作り物だというのに俺は驚きを隠せなかった……


「すげぇ……これが、ゲームの中なのかよ」


向こうには、ファンタジーな雰囲気のレンガ造りの村が見える。だがこの世界は、一口にファンタジーとは言えないようで、空には浮遊する近未来的なデザインの車が飛んでいる。アバターの外見も、獣人からアンドロイドまで本当になんでもアリなようだ。なんと言えばいいんだろうか……僕の考えた最高の夢の贅沢空想ワールド! という幼稚な表現もっとも似合う光景が俺の目の前に広がっている。


「おーい! 鋼太郎しょーねん!」


やけに目立つアバターがこちらに手を振っていた。真っ赤なドレスに身を包んだ少女のアバターだ。リンゴを模した髪飾りでその長い髪を束ねた彼女は間違いなく、俺を無理矢理この世界に引きずり込んだ張本人、姫野林檎で間違いないだろう。


「林檎さん……っすよね?」


「うむ! だが、この世界での私は我が社のイメージキャラクターの一人アップルガールよ!」


林檎さんのアバターには彼女の言うように、姫野コーポレーションのロゴが刻まれていた。その容姿を自慢するよう俺の周りをくるくると回って見せた。ちょっとウザいが、まぁいいだろう……


「どうだね? 可愛いだろう?」


「いや、いい歳した大人が何やってるんすか?」


「む! ここはゲームの世界なんだからそう言う野暮なツッコミは控えて貰おうか!」


「ていうか、林檎さん」


「アップルガール!」


マジかよ……この世界では林檎さんのことはアバターネームで呼ばなければならないのか。てか成人女性にガールって、とりあえず長いし、ツッコミ所しかないな。


「略して、アールさん」


「まぁ……それで良しとしよう、何だね、鋼太郎少年?」


顔に、「解せない」と書いてあるな。本来なら、こっちがその顔をするはずだぞ。


「色々突っ込みたいんですが、俺は何故ここに連れてこれたのですか?」


「おやおや、これまた失礼。私としたことが今日は感情が先走りしすぎているな、よろしい説明しよう!」


林檎さんことアールさんがパチンと指を弾くと彼女のもとに二人のアバターが現れた。林檎の被り物にスーツを着た奇妙で可哀想なデザインのアバターだ。きっと姫野コーポレーションの社員なんだろう。彼らは大きなスクリーン画面を何処からか引っ張り出して、そそくさと去っていく。


「ふふ、このスクリーンを見なさい!」


写し出された画像には『姫野コーポレーション・世界一計画!』と銘打たれていた。アールさんをデフォルメしたような小さなキャラクターが淡々と、今の姫野コーポレーションの売上があまりよろしくないことを説明していく。


「このように我が社は、めちゃくちゃピンチなのだよ……そこで私はとある事を閃いたの!」


「はぁ……?」


アールがぐいっと顔を近づけた。そして俺をジロジロと見ながら、何やら手元の端末で操作を始めた。とっても嫌な予感がするぞ……!


「ちょっ……、アールさん話の途中っすよ」


「ふふ、だからだよ。アバター作成」


彼女は俺の耳元で囁くように呟いた。不覚にも少しドキッとしてしまう自分が恥ずかしい……って俺の体が謎の真っ赤な光に包まれてるんだが!?


「私は我が社の宣伝を、このクリエイティブ・バトラーズの中ですることを閃いたの。さすれば必要になってくるのだよ!


『我が社を代表し、誰もが憧れるプラモデラー兼、誰にも負けないプラモ乗りが!』


「いや! いや! おかしいでしょ!」


「何もおかしくなんてない、少年は私に選ばれたのだ。君はもう、この世界では鋼太郎ではない。我が社の危機を救い、世の中に姫野のプラモデルブームを起こす英雄……その名もコウだ」


その名を呼ぶと共に俺のアバター『コウ』が完成してしまった……。どうやらあの光はアバターの外見を初期設定から改編する為の物だったらしい。俺は鎧風の真っ赤な装甲を下半身に纏い、上半身は裸で背には姫野コーポレーションのロゴマークが刺青として入っているド派手なアバター格好にさせられた。先程のリンゴの被り物をした社員よりはマシだが、これはこれで嫌だぞ!


「ふふ、さすが私のセンス。胸を張れ少年、めちゃくちゃカッコいいぞ!」


「少年漫画の主人公感が出すぎて逆にダサいっす……周りからも俺ら浮いてるし、上半身に関しては全裸ですよ?」


「それは私のセンスが飛び抜けているからだよ」


確かに飛び抜けている。頭のおかしい方向にだが……。どうやら、この人の勢いは俺のような凡人では、ほとんど止められない。


アールさんは、何かを誤解して俺をスカウトしているらしい。彼女は俺に才能とプラモデル『愛』があると称した。だが、そんな心当たりなんてない。プラモデル未経験が才能や愛なんて微塵も持ち合わせていないなんて考えればわかるだろ?


「アールさん、俺このゲーム今日が初めてっすよ。ていうかゲームなんて、家が貧乏だから触ったことすらないんですが」


「大丈夫! 皆、生きていれば初めてのことを経験するのは当たり前、言わば少年は今、クリエイティブ・バトラーズ童貞を卒業したのだよ!」


「全然わけがわかりません、あと少女のアバターなら童貞とか言わないで下さいッ!!」


彼女は俺に初心者なんて関係ないと言いたいのだろう。この短時間だが、俺はなんとなく、この人が分かってきたぞ。俺が不満を口にしても彼女の耳には届いていないようだ。また端末を操作し始めたと思うと今度は俺の腕をぐいっと引っ張った。そしてワクワクが押さえきれない、といった様子で空中を指差す。


「さぁ! 来るぞ、来るぞ」


「今度は何なんすか……?」


「そのクオリティに感動するがいい! これこそが我が社の愛と技術が詰まった自慢のプラモデル、その名も『エクステンド』だ!」


彼女がエントリーと口にする。その瞬間、空の彼方で、白と黒のボディーが煌めいた。5メートルの巨体が俺たちの前に着地する。その風圧と迫力はとても玩具とは思えなかった。エメラルド色の双眼と角張った機械的なフォルムのプラモデルが今、


降り立ったのだ。


「すげぇ……」


その圧巻さに俺は語彙力を奪われた。驚愕のあまり開いた口が塞がらない。


「そうだろう! そうだろう! 私がありったけの愛を注ぎ込んで企画から設計まで担当したエクステンドは、カッコいいだろう!」


「すげぇ……すげぇっす!!」


子供のように、アールさんは騒いでいる。だが俺も彼女を咎められないな、俺も一緒になっては騒いでいるのだから。俺はどうやら、いとも簡単にこのプラモデルに魅せられてしまったらしい。即落ち2コマってのはこういうことを言うのか? 男の子の遺伝子が俺の中にもあるらしく、このプラスチックの鉄人の勇雄しさに俺は興味を持たずにはいられないのだ。


「これがプラモデルなんすね……」


「あぁ、すごいだろう? この子は、コウ少年のために私が用意した! 君にはエクステンドと共に我が社の命運を託すそう!」


エクステンドが俺たちに手を差しのべる。コックピットハッチが開かれ招いてくれているのだ。中には窮屈だが、モニターやハンドル、あと用途のわからないスイッチが詰まったコックピットが相棒となるパイロットの搭乗を待ちわびている。俺は思わずエクステンドへと飛び乗ってしまった。アールさんの要求を断らなければならない筈なのに、俺は気づけばクリエイティブ・バトラーズと、このエクステンドというプラモデルに夢中になってしまったのだ。


「歩いてみないか?」


「いいんですか……!」


「あぁ、クリエイティブ・バトラーズの良いところは操作が簡単な所だ。感覚的な操作で初心者でもすぐに愛する玩具を分身のように動かせるぞ」


俺は半信半疑になりながらも操縦ハンドルを握った。この世界のアバターは脳信号を参照して体を動かす感覚リンクが採用されているらしく、プラモデルも操縦ハンドルを通して全く同じ原理で動のだ。


エクステンドが小股に一歩、大股に一歩と俺のイメージ通りに動く。エクステンドは俺に応えてくれる! 地面を蹴って走りだし、そのまま跳躍すればエンジンに点火し空中を自由に飛び回ることだって出来た!


「すごいじゃないか! コウ少年、これなら経験を積めば、それなりになれるぞ。やはり黒川ニッパーの製作者……ただ者ではないな」


林檎さんが手を降ってくれた。先程まで同じくらいの背丈の彼女がモニター越しに見ると、とても小さく感じた。



これが、クリエイティブ・バトラーズ! めちゃくちゃ楽しい!



だけど……いくら楽しくても、アールさんが誤解している以上、俺はコイツを受けとる訳にはいかない。


「あの……この玩具に乗るのはめちゃくちゃ楽しいです、それこそ感動しました! けどやっぱり俺にはこの役目は相応しくないです……」


「おや? どうしたのかね」


エクステンドを草原にスッと着陸してみせた。俺はコックピットから降りるとアールさんに軽く会釈をしてログアウトしようと端末を操作する。素っ気ないかもしれないが、これ以上、この世界にハマると帰れなくなる気がした。


「ちょっ! ちょっと待ちたまえコウ少年 これは私とお義父さんの約束がかかっているんだぞ、広告料だってちゃんと払う、ほらお金に困っていると聞いてるぞ!」


「だったら尚更、俺は相応しくないですよ。俺みたいな高校生が会社からお金を貰うなんて……そもそも売り上げ、下がってるんでしょ?」


お金は喉から手が出るほど欲しい……けど責任も背負えない。下手をして昔みたいに"黙されて"いらぬ借金を増やすわけにいかないんだ。


きっとあの誤解を解けば彼女も諦めるだろう……


「アールさんは何か誤解しているようですけど、プラモデルなんて俺は触ったこともないんです」


「なっ……なんだと!?」


「だから……貴女の言葉を借りるなら、このエクステンドも、会社の宣伝も、ちゃんとプラモデルに愛を持った人に任せるべきです」


「待って……待ちたまえコウ少年!」


「楽しかったです、ありがとうございました、この経験を俺は忘れません。これからも応援していますね」


アールさんもこれまでの饒舌が嘘のように、言葉に詰まってしまったようだ。何か言いたげにしているが、言葉が纏まらないといった様子だ。俺はログアウトのボタンに指を当てる。そして次の瞬間、俺はコウから鋼太郎へと、


非現実から現実へ戻るはずだった。


「キャァァァ!!」


だか、彼女の悲鳴が俺を鋼太郎ではなくコウとして留まらせた。思わず振り替えると、そこには騎士風のフィギュアに殴り飛ばされるエクステンドと、それに巻き込まれてしまったアールさんの姿があった。


「アールさんっ!?」


「大丈夫だ……心配……いらないよ、少年」


無様に横たわるエクステンドを何処かで嘲笑う声が聞こえた。そこに立っていたのは銀髪にサングラスをしたアバターだ。恐らく、この騎士風のフィギュアを遠隔で操っているのだろう。


「ハッハハ、だっせぇなぁ。姫野コーポレーションの製品はこれだからダメなんだよ」


「何なんだお前! いきなり現れて、人の玩具を殴り付けるなんて!」


「待て! コウ少年、私は彼を知っているぞ」


「ほう? 俺を知ってんのか、アップルガール」


「えぇ、貴方の名はグラナダ。そして姫野コーポレーションやその他のプラモメーカーのアンチ……」


「へへ、プラモなんてだっせぇ商品でクリエイティブ・バトラーズの世界に入ってくるじゃねーよ!」


グラナダのフィギュアが剣を抜いた。そしてエクステンドの胴を切りつける。エクステンドは何とか備え付けのシールドで防御するが、体制が悪い、完全にダメージを防ぐことはできなかった。


「確かにエクステンドは素晴らしい商品だ。整形色による色分けに、簡単に組める独特なフレーム構造は、プラモデル入門に相応しい、だが!」


「褒めてくれて嬉しいな……けど『だが』と付くのはロクなことじゃないと相場が決まっている!」


「そうだ! プラモデルとは、そもそも組む手間がかかる! それに完成度の高さがステータスに反映されるゲームの仕様がある癖に、完成度を高める工作機材は高価格で手が出せない」


「くっ……そこらへんは……!」


「わざわざ時間と金をかけるよりも既製品のフィギュアの方が優れているのだよ!」


大降りの一撃がエクステンドの左腕を切り裂いた。バランスを崩したエクステンドの正面にグラナダのフィギュアが剣先を突き付ける。


「返す言葉があるなら返してみろや、姫野コーポレーション様よぉ?」


「おのれ……確かにプラモデルは手間や時間がかかる。だが、その掛けた分の愛着は、どんな玩具にも勝るのだ!」


「商品の愛なんて持ち主次第だろうが!」


またグラナダのフィギアの剣が振り下ろされる。エクステンドを切りつけ、そのまま袈裟斬りにした。激しく火花を散らし、辺りにプラスチック片が飛び散る。


「クッソ……!! やめろぉ!!」


「なっ! 少年、危ないぞ!」


気づいた時には俺は走り出していた。グラナダのフィギュアの攻撃をなんとか跳躍して避けると、倒れたエクステンドに駆け寄りコックピットに滑り込んだ。


「はぁ……はぁ、死ぬかと思ったぁ!」


「ゲームの世界だから死にはしないよ。けど無理をしたね、コウ少年」


はは……それでもチビりそうになったぞ、最近のゲームの迫力を舐めすぎていた……。だが俺だって男だ。ビビって隠れているわけにはいかない!


「アイツの行いは目に余ります。それにアールさんには、この素晴らしい世界を、見せてくれた借りがあるんだ! だから1回だけです!」


俺は操縦ハンドルを握りしめた。そして足元のフットペダルを踏む。ブースターを吹かせて勢いよくエクステンド。、立ち上がらせるのだ! 目障りなグラナダのフィギュアの剣を弾き飛ばして、鎧が凹むくらいの正拳突きを撃ち込んでやった。そして粉塵を振り払い、俺が操る、エクステンドがいま初陣を切りつけてやるんだ!


◇宣伝◇


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