鋼太郎のメンタル固いな……( ̄▽ ̄;)
地区大会、開始まであと7日……
それまでに3人以上のギルドを設立する。スカウトするのは、かつて全国大会まで登り詰めたエボリュート使いのソロプレイヤー・リアナさんだ。
「怖い顔をせず、笑っていろ、相手にも印象が悪いぞ」
「緊張してるんですよ、というか俺らはどうして新幹線に乗ってるんですか?」
そう、俺たちは土曜の早朝から新幹線に乗っている。俺は流れて行く景色を眺めながら眠気を噛み締める。向かい合って座っているのは林檎さんだ。彼女は何やらタブレットで何かを確認しているようだった。
「ふふ、いい質問だね、鋼太郎少年」
「勿体ぶらないでくださいよ、ギルドへのスカウトならメール機能で十分でしょ?」
というか、本来ギルドとは事前に身内で組むか、インターネット上で勧誘をするものだと思うんだが……
「それはナンセンスだよ。私を君を選んだときのように、その人、本人と会いたいんだ。その為に社長という立場を利用して非合法な方法で住所なんかを特定したりしてるんだよ」
後半は聞かなかったことにしておこう。この人なら冗談ではなく本当に法に触れるようなことでもする。けど、彼女の妙なこだわりは相変わらずのようだ。
俺たちが目指すは少し都会から外れた町、鑢河原だ。昼間のうちに合流、及びスカウト。そして夜は林檎さんの借りた旅館で親睦を深めようというスケジュールらしいが、まだ着きそうにない。あと1時間くらいはこのまま、ゆったりと旅を楽しめそうだ。
「林檎さん、大阪着いたらちょっと土産屋、寄っていいですか?」
「構わないよ、妹弟へだろ? 既に欲しいものリストも調査済みだ!」
林檎さんがポケットからメモを取り出す。そこには自分の部下や親族だけでなくウチへ向けて購入する予定のお土産がしっかりと書き記されている。それも妹弟たちの欲しがりそうなものにしっかり目星をつけていあ?。
「あはは、もう完全にウチのチビどもと仲良くなったんすね」
なんか、俺の兄としての立場が危うくなってないか? アイツら、俺よりも林檎さんに懐いてるんじゃ……
「どうした、今度は顔色が悪いぞ? 酔ったか?」
「いえ……すこし悩み事を」
「ふーん、やはり最近の少年少女は悩み事が多いのかね? 恋のことなら相談に乗れるんだがな」
いや……アンタのような変人に恋のようなデリケートな相談は絶対したくない。
「好きな女の子へのお土産も忘れるなよ。私のオススメは簡単に作れるマスコットのプラモデルだ」
「いや、好きな子にプラモデルを贈るのは違います。けど……委員長なら喜びそうだな」
「彼女はプラモデルも喜ぶだろうが、この辺りの名物の和菓子も食べたがってたよ」
はは、この人は一体どこまで調べているのだろうか……
というか、林檎さんは何してるんだろうか? 普段は雇われの俺に対しても目を見てしっかりと話す彼女が、今日はずっとタブレットと睨みあっているのだ。
「ん? さっきから、そんなにジロジロ私を見るなよ」
「いや、何してるのかと思って……」
「なーに、社長として働いてるだけさ」
林檎さんはタブレットを器用に一回転させて画面を見せてくれた。そこには、車のエンジンのようなパーツの設計図があった。
「あれ、姫野コーポレーションって車やらの開発にも関与してるんですか?」
「いやだなぁ、うちは先祖代々の玩具メーカーだよ。実はクリエイティブ・バトラーズは《バンズ社》を中心に多数の玩具会社が連携して運営しているんだ」
バンズ社、その名前には聞き覚えがあった
「バンズ社っすか……確か、玩具やゲームだけじゃなくて航空や造船なんかにも幅広い分野で展開している大企業ですよね?」
「そそ。それでウチの姫野コーポレーションも一応、バンズ社と連携してるから運営としてある程度のパーツやクエストは自由に追加できる権限があるんだ」
「俺は貴女が運営にいるということが、すごく不安なんですが……」
「相変わらず、失礼だね。まぁ……かなりギリギリなものを作っているけど!」
てへペロと舌を出す林檎さん。やっぱり言わんこっちゃない。だが、どこかで俺はこの人の作るものが、気になって仕方がない自分がいるのも事実だ。
「ところで鋼太郎少年……」
林檎さんはタブレットから目を離し、今度は俺の目を覗き込んだ。まるで俺のなかの何かを見定めるような目だ。
「どうしたんですか?」
「いや、これは知る人ぞ、知る噂なのだが……」
林檎さんが顔を近づけて耳打ちする。
「バンズ社は確かに素晴らしい企業なのだが、黒い噂があるんだ」
「黒い噂……?」
「例えば、軍事産業に関わってるだとか、ライバル企業のトップを監禁してるとか……けど私が言いたいのはそれじゃない」
彼女の緋色の目が俺のなかに渦巻く感情を見透かす。
「君を調べるにあたって、両親の工場の経営が危うくなって、多額の借金を追わせたのはバンズ社の社長の思惑なんじゃないか? って真実が見えてきたんだ」
「そこまで調べてるんですね」
そうだ……
ウチの借金の殆どはバンズ社のせいだ。証拠なんかは完全に消されているが、幼い頃、苦悩する両親たちの姿は、俺の目に焼き付いていやがる。
「なぁ、鋼太郎少年。単刀直入に聞くが、大会に勝ち進めば、バンズ社の息が掛かった相手と戦うことになるかもしれん。その時、君は復讐を望むか?」
《《復讐》》
その二文字は常に俺に付きまとっていた。
両親が死んだとき。
妹弟が苦悩しているとき。
俺たち家族の犠牲の上に立っているバンズ社が憎くて仕方なかった。けどさ……俺は兄貴だ。家族を守る立場なんだ。
「俺は復讐なんて興味ありませんよ。もう俺だって高校生です、そんな事に囚われるくらいなら、いっぱい稼いで、借金返して、少しでも家族や俺の大切な人を笑顔にしたい」
「ふふ、君は大人なんだな」
林檎さんは俺の答えに優しく微笑んで、それ以上なにも聞かなかった。改めて考えたが、やはり俺は復讐なんて、興味はない。ただ可愛いチビ達や普段、世話になってる委員長、そして俺をこうして雇ってくれている林檎さんの為に尽くすだけだ。
「さて! 湿っぽい話はここまでだ。さぁ、新たな仲間を迎えに行こうか!」
どうやら新幹線が到着するようだ。ここから目指すは町の模型店らしい。俺は足早に席を立つ林檎さんの背中を追いかけた。
※※※
ドンっ!
「おっと、すいません……」
駅の出先で俺は誰かにぶつかったようだ。咄嗟に俺は頭を下げる。
「ふんっ……」
俺とぶつかったのは同い年くらいの少女だった。それもただの少女じゃない。ギラギラと輝く金色に染められた髪に、制服の上からジャージを羽織っている。なによりその鋭い目付きは、彼女がヤンキーやレディースといった類いの人間だということを教えてくれた。
「えっ……と、そのぉ」
「んだよ、アンタ?」
うわぁ、ガッツリ絡まれちったよ。けど、この少女よく見れば唇の端から血を流している。それにその白い肌には擦り傷もあった。
「君、そのケガはどうしたんだよ!?」
「るっせ、喧嘩だよ。男3人返り討ちにしてやったぜ」
あ、ほんとだ……。道の目立たないところに銀髪の男達が伸びている。そして幸いなのかは判らないが、ヤンキー少女は俺なんか構わずバスに乗ってしまった。
「何なんだ、あの女……」
「おーい! 鋼太郎少年、早くきたまえ。遅れるぞ!」
バスの入り口から、林檎さんが俺に手を降っている。そう、偶然にもヤンキー少女の乗っているあのバスだ。
俺は乗るときに、ヤンキー少女にジロッと睨まれたが、そんなのは無視だ。厄介ごとには巻き込まれたくない。
「なんだね、鋼太郎少年。旅先でも美少女から見つめられるとは」
「あれはそういう目じゃないですよ。殺意がこもった視線です」
バスに乗って数分、立ちながらイヤホンを耳に突っ込んで過ごした。その間も怪しむようなヤンキー少女の視線が俺を突き刺す。そろそろ緊張に耐えられなく寸前で、通る声のアナウンスが終点を告げてくれた。
「ふぅ、たすかった……」
「さて、あともう少しだぞ」
「はい、それから林檎さんは変なこと言って相手の機嫌を損ねないでくださいね」
「私がいつ他人の機嫌を損ねたと言いたいのかね?」
どや顔をする、林檎さん。その顔が絶妙に腹立つんだよな……
さらに歩いて数分。目的の玩具に辿り着く。ソロプレイヤー・リアナさんは、この店からクリエイティブ・バトラーズにログインしているらしいから、ここで彼女を待ち伏せる作戦なのだそうだ。
「ところで、その写真とかはないんですか?」
「5年前の古いものなら、これだぞ。なかなかの美少女だろ?」
写真に写っているのは黒髪の少女だった。やや、つり目だが、照れそうに写真に写って小さくピースする彼女は可愛らしかった。
「真面目そうな子ですね、しっかり話せば仲間になってくれそうです」
「ふふ、それに我が社の古いプラモデルでもあるエボリュートを繰り返し改造して愛用してくれてるんだ。きっと清楚な良い子だよ!」
そうかもしれない。兎に角、このリアナさんに会うのが楽しみだ。俺は期待を乗せて店のドアに手をかける。だが、その手が誰かの手とぶつかった。
「おっと……すいません」
「は?」
あれ、この声どっかで聞いたことがあるぞ。それにこの刺し殺すような眼光は……
「なに? アンタってウチのストーカーきなんか?」
あのヤンキー少女だ。まさか彼女が模型店何かに出入りしているとは、なんか似合わないな……
「いや、ストーカーって訳じゃなくて、ここで人を探してるんだ」
「ふーん、年上彼女とストーキングデートねぇ……」
全然、聞いてくれやしない。確かに、彼女から見れば、駅からずっと同じ道を辿っている俺達はかなり怪しいのかもな。それに林檎さんの真っ赤なスーツはかなり人目を集めるのだ。
「まぁ……好きにすればなァ!」
ヤンキー少女が腹にズドンっと鋭いパンチを撃ち込んだ。少女の拳とは思えない威力の一撃だ。俺は思わず膝をついてしまう。
「これに懲りたら、私を付きまとうな! この変態っ!」
ゴミを見るような目で俺を睨み付けると、ヤンキー少女はヘッドギアを株って店内のゲームブースに姿を消した。彼女もクリエイティブ・バトラーズのプレイヤーなのだろうか?
「大丈夫か、鋼太郎少年!?」
「えぇ……けど、凄い痛いっす。」
俺の腹にはアザができていた。情けない話だが、俺は林檎さんの肩を借りて入店する。そして店のソファーに腰掛け、リアナさんが訪れるのを待った。
「ねぇ……林檎さん、来る気配がないんですけど、やっぱり、メールかなんかでアポを取るべきだったんじゃ?」
「馬鹿者、いきなり来た方がサプライズで嬉しいだろ?」
馬鹿者は貴様だ! と怒鳴り付けようと思ったが、今は腹痛でそれどころじゃない。仕方なく俺は写真を持って、店長に話を聞くことにした。
「あの、俺らこの少女を探しているんですけど、何か知りませんか?」
「ん? 何だね君たち……」
疑いの視線を向ける店長。まぁ無理もないか、腹を押さえた高校生と、如何にも変人みたいな女性が、人探しをしているんだ。「怪しむな」という方が無理がある。信用して貰えるためにも林檎さんが、名刺を差し出してくれたが、大丈夫だろうか?
「私は姫野林檎、そしてこっちは我が社の宣伝役の鋼太郎なのだが、世間ではコウといった方が伝わるだろう」
店長が、まだ疑念に満ちた目で俺たちを睨み付ける。だから俺はエクステンドを見せた。これで少しは信じてくれるだろう。
「確かに、その写真の少女はウチの常連さ。けど彼女になにか用かね?」
「いえ、そんな大したことではありませんよ。ただ彼女に我が姫野コーポレーションが世界一を取るための計画に荷担して貰うだけです」
クスりと笑う林檎さんは、自信に満ち溢れていた。既にリアナさんをギルドに迎え入れることが確定しているような自信だ。
「なんか自信満々ですね」
「そりゃそうさ、アレを見ろ。私にあんな物を見せてしまったら、彼女が堪らなく欲しくなってしまうんだ」
林檎さんが指差したのは、店に飾られた一枚の写真だ。どうやら店舗で行われた小さな大会のようで、写真の真ん中には、トロフィーとプラモデルを大切そうに抱えるリアナさんが写っている。そして彼女の笑顔はとても眩しかった。彼女にもあるのかもしれない。林檎さんが求める『プラモデルへの愛』という感情が。
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