俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

守りたいもの

公開日時: 2020年10月9日(金) 07:18
文字数:4,072

「あっ……えーと、加奈さん?」


「説明しろ」


俺は実の妹の迫力に気圧され、敬語を使ってしまうほど追い詰められていた。彼女は怒りで口調まで変わってしまったようだ。


「説明って何のことだよ……?」


「あの金髪ヤンキーは誰だって聞いてるのよ!!」


「梨乃のことか? 同じギルドのメンバーだよ」


加奈のヤツが俺を睨み付ける。彼女は俺が嘘をついてないか、目を見て図ろうとしているのだろう。


「な、なぁ? お兄ちゃんなんか疑われてる?」


「勿論疑ってる。お兄ちゃん、なんで浮気してるの?」


「浮気だと!?」


はぁ……。また、このバカ妹は勘違いしたのだろうか? そもそも梨乃は俺のこと恋愛対象には見てねぇだろ。めっちゃ殴ってくるし。


「いくら林檎さんが天然のバカで、浮気されてることに怒んなくても、お兄ちゃんのやってることは最低だからね!」


「お前あとで林檎さんに謝れ。失礼だぞ」


加奈はまだ中学生だ。そんな彼女から見れば兄が女性を家に招いただけで(正確には招いたわけではなく、林檎さんに着いてきたのだろうが……)彼女と勘違いする気持ちもわかる。


「お兄ちゃん! ちゃんと説明して、林檎さんと付き合ってるくせに、なんでヤンキー女と浮気するの!?」


「だっーから! 林檎さんとはそもそも付き合ってない! そして梨乃とも付き合ってない!」


「ほんとに……?」


「ほんとだ! 俺の目を見ろ! これが嘘をつく目に見えるか?」


「女たらしの最低クズ男の目に見える」


おいおい、大好きな妹にそんなことを言われたら、お兄ちゃん泣くぞ。


「というか、お前は梨乃のこと嫌いなのか?」


「嫌い……じゃないけど、ヤンキーって怖いじゃん!」


下のチビ達じゃなくて、長女のお前がビビってるのかよ!? 確かに俺も初めて梨乃を見たときは、ビビってしまったが……


「良いか? 林檎さんとも、梨乃とも付き合ってない。そして梨乃はお前が考えてるほど、悪いヤツじゃないぜ」


「信じられない……」


この後も一時間程、妹に疑われっぱなしだったが、なんとか誤解を解くことができた。


「お帰り、鋼太郎少年、加奈少女」


「本日、二度目の帰宅です……」


「何やってたんだ鋼太郎? もうご飯できてるぞ」


「お前が勝手に家に来たせいで、あらぬ疑いをかけられてたんだよ」


なんじゃそりゃ? と梨乃は笑い飛ばしたが、笑い事じゃないんだよ。マジでキレた加奈は怖いからな!


「二人とも早く席に付きたまえ、今日はご馳走だぞ!」


林檎さんが俺たちの手を引いた。食卓にはいつもより、沢山の料理が並んでいる。平凡なメニューから、貧乏人の、俺たちでは手を出せないような、見慣れない調理まで、林檎さんの手作りだそうだ。


「どうだね? 私の調理の腕は?」


「凄いっす……さすがお嬢様育ちですね」


「そうでもないさ。さぁ! たべよう、日はギルド結成のお祝いと梨乃少女の歓迎会なのだから!」


「いただきます」の合図にあわせて皆が一斉に食事に手を伸ばした。どうやら妹弟達の好みに合わせた品々にしてくれくれたらしい。貧乏育ちの俺たちにはちょうど良い薄味の味付けだった。


「何から何まで、ほんとにありがとうございます。林檎さん」


「礼はいいから、鋼太郎少年も食べろ。大会に向けて食って力をつけるぞ!」


「あの……、林檎さんは大人みたいですね」


「私は大人だよ」


だが、俺の隣は大人げないやつが一人いた、加奈だ。ずっと梨乃のことを疑ってやがる。


「おい、加奈……誤解は解いただろ。そんなに敵意を剥き出しにしても……」


「うるさい……私の中ではコウ×リンなの、それを邪魔するあの女を私は許せない」


いや、勝手に兄と雇い主で変なカップリング作んなよ……


「そもそも、林檎さんは料理が上手なの、この特性エビフライだって私の好みを完全に把握して!」


「いや、それウチが揚げたヤツだぞ」


「「えっ!?」」


それには俺も驚いた。加奈の好きな林檎さん特性エビフライは絶妙な衣の付き方が肝で、素人が一日で真似できた代物でもないはずだが……


「いやぁ……なかなか、カナちゃんだけウチに殺気だしてるから、林檎さんに知恵を借りたんだよ」


「そこで私がちょこっと、梨乃少女にエビフライの揚げ方を教えてあげたのさ」


「そっそうなの……けど、これで認める訳じゃないからね!」


佳奈は恥ずかしさに顔を真っ赤にして黙ってしまった。そこをすかさず、梨乃が畳み掛ける。


「それで、ウチの特性、エビフライは旨かったか?」


「はっ、はい……美味しかったです」


「へへ、それは嬉しいぜ」


本当に少しだが、この二人の仲が縮まったように見えた。林檎さんは早速、ビールを開けて酔っ払っている。これは会社まで彼女を背負っていかなければならない、パターンだろうか?


「ありがとうな、鋼太郎少年……私はずっと義父と二人きりだったから、こんな賑やかなのは初めてだ」


「いえ、家族がこんなに笑えているのは貴女が俺を拾ってくれたお陰です」


俺はコイツらの笑顔を守りたい。こんな日々をいつまでも守っていきたいんだ。それが父ちゃんの代わりに俺が出来ることなんだろう。バンズ社への復讐なんて考えるよりは、この笑顔を守ることが、梨乃のようなヤツを笑顔にすることが俺の役目だ。


「林檎さん、梨乃、それから加奈達のお陰で俺は幸せだよ」


※※※


「うー……こうたりょお……おんぶぅ」


「飲みすぎですよ、林檎さん。あと社会的に危ないので、ちゃんとしてください」


先ほどまでの、何処か影のある美人でカッコいい女社長は居なくなってしまったようだ。いま、ここに居るのはだらしない酔っ払い社長だ。


「おんぶぅ……」


「歳を考えろ、28歳」


しかし、こんな社長を放置していても、弟妹の教育に悪い。仕方なく俺は彼女を背負ってタクシーを呼ぶことにした。会社にいけば、秘書さんが彼女を引き取ってくれるはずだ。


「加奈、先に風呂入れ。俺は社長さんを送るから」


「お兄ちゃん、変なことしちゃダメだからね」


「あはは、寧ろお兄ちゃんが絶賛変なことされてる最中だよ……」


酔っ払いスーツの女を背負った、高校生なんて笑い話じゃ済まねぇぞ。


「梨乃、お前も帰れよ。そろそろ帰りの電車なくなるぞ」


「は? 私は今日は泊まるぞ」


「いや、聞いてない」


「うん、言ってないからな」


マジかよ、このヤンキー。いや、最近の高校生は平気で異性の家に止まるものなのだろう、俺の思考は数秒停止した。だがすぐに平常な思考が戻ってくる。


「なわけねーだろ! どんな思考してれば平気で異性の家に泊まるんだよ!」


「まぁ、それもそうか。ごめんなチビ達、ウチも帰らなきゃならねぇわ」


「お前にも平常な思考があって安心だよ。それなら帰りの電車は確か……」


「あっ! けど、ウチな家、いま風呂壊れるから、すこし貸してくれ!」


「あっーもう! しょうがないバカだな。狭いけど我慢しろよ!」


はぁ……今日はとんだ厄日だ。そんなことを夜道を歩きながら考えていた。委員長とは会えないし、林檎さんは人の背中の上で寝てやがるし、おまけにウチの風呂には梨乃がいるし……


※※※


「いい湯だな~ 確かに狭い風呂だけど、私一人が体を暖めるには十分だよ」


梨乃は風呂が壊れたと嘘をついて、この家の風呂を借りていた。嘘をついたのに大した訳はない。ちょっとした出来心でこの家にまだ居たいと思っただけだ。家中の壁が薄いのか、耳を済ませば鋼太郎の弟妹達の声が聞こえてくる。


「ふふ、家族ってのもいいな」


この、家の暖かさは梨乃にとっても心地よいものだった。


「あの……梨乃さん、すこしお話良いですか?」


「おっ! カナちゃん? なんなら一緒に入るかい?」


加奈はしばらく扉の向こうで迷っていたようだが、やがてタオルを巻いて恥ずかしそうに入ってきた。


「ふふ、初々しいねぇ……カナちゃんはきっと良い恋が出来るよ」


「なにいってるんですか!」


加奈も湯船に足をいれた。狭い浴槽では、二人は入るのがやっとだった。


「いやぁ……なんか申し訳ないわね」


「いえ、せっかく遊びに来たんだからゆっくりしてください……」


「そう? それなら」


ピュッと梨乃は指で作った水鉄砲で加奈を撃った。射撃の腕と手先の器用さもあって、妙に性格だった。


「ちょっ! なにするんですか!」


「悔しかったら、やり返してみなさいな」


「私を甘く見るないでくださいよ……!」


洗面器を掴んだ加奈は冷たい水をいっぱいに注いで、それを梨乃に吹っ掛けた。


「つっ……冷たい! これマジで寒くて死ぬやつじゃん!!」


「ふふっ……私はこの家の長女! 私にこの家で勝てる人なんていないのよ!」


「その、言葉忘れんなよ……!」


二人はもう中学生と高校生だというのに、小さな子供のように水を掛け合った。気づけば二人の仲にあった壁はなくなり湯冷めした梨乃は加奈を抱き締め、暖をとっている始末だ。


「ふぅ……お前、兄ちゃんに似て負けず嫌いなんだな」


「ふふ、梨乃さんほどじゃないですよ」


「あはは! けど、結局話ってなんなんだ?」


その、問いに加奈は我を取り戻した。そして、改めて核心を突く質問を投げ掛ける。


「あの……貴女と兄は恋人なのてますか?」


「いや、違うけど」


やけにあっさり否定してしまう、梨乃に拍子抜けしてしまったが、梨乃は続けた。


「恋とかそう言うのはよくわからないけど、鋼太郎は恩人さ」


「恩人?」


「そう。ウチがどんなに間違った道をつっぱしていても、あの半裸バカと天然社長はウチを連れ戻してくれる。お前が進む道はこっちだろって教えてくれるんだ」


「そ、そうなんですか?」


「あぁ、だから私はあの二人と一緒にいるぜ。あの二人の夢のために私は強くなる、そうすれば、鋼太郎も私に着いてくる為に強くなるからな!」


普段は素直になれずに悪態をつく梨乃だが、本当は鋼太郎といるのが楽しかった。"お互いの為に強くなり続ける"それがふたりにとっての絆だ。


だが、加奈はその絆を別な意味で解釈してしまった……


(その、高め合う姿勢はまさしく夫婦!! つまりお兄ちゃんの本妻は林檎さんではなく、梨乃姐さん!?)


「ん? どうしたカナちゃん、逆上せたか?」


「いえ大丈夫です……姐さん」


「えっ……ちょっ! カナちゃん! なんか勘違いしてない!? 絶対変な勘違いしてるよね!」

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