俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

殴られたなら

公開日時: 2020年10月12日(月) 07:20
更新日時: 2020年10月12日(月) 07:21
文字数:4,131

地区大会まで残り4日か……


俺が目を覚ましたのは家の床だ。昨日は散々だった。林檎さんは酔っ払ってウザいし、結局も梨乃も泊まっていきやがった。鞄に着替えや歯ブラシを隠し持ってんだ、始めから泊まるつもりで来てただろ……


そして極めつけは……


「お兄ちゃん! 姐さんの妹か、それとも林檎さんの妹、どっちになればいいよ!」


「お前はバカか?」


学校の成績は優秀なんだが、この妹は頭のポリキャップが外れているようだ。


「ふっ……」


「どうしたのさ、一人で笑って気持ち悪い」


「いや、段々と俺も染まってきたんだなと思って」


ポリキャップなんて言葉、数か月前は知らなかった。プラモデルの間接を繋ぎ会わせる軟質な部品なのだが、それを脳内会話に用いるなんてな。そろそろ、俺も林檎さんのことをバカにできなくなるかもしれない。


「おーい、鋼太郎! 学校いこうぜー?」


「お前とは学校違うだろ、つか不良なのに時間を守るのかよ?」


「るっせーな。途中まで道なんだから」


「へいへい、けど次は泊まらせねぇからな。あんま店長を心配させんな」


俺たちは通行人の視線を集めた。まぁ、地元で噂の貧乏高校生と、分かりやすい外見をした不良少女を見れば、各々が色んな詮索をするのだろう。


「はぁ……鉱太郎は凍結トリックわかった?」


どうやら、本人は周りの視線なんて気にならないらしい。いきなり本題を切り出して来やがった。


「うーん……プラモデルってのは大きさも限られてるから仕込めるギミックにも限度があるよな?」


「そうね、プラモデルの内側に仕込めるサイズの冷却装置なんて私も聞いたことないわ」


「そもそも、アレは凍らせてるのか? 氷の演出エフェクトが出てるだけとかいうオチってパターンみたいに」


「それはない。実際に凍らされた私は動けなくなったんだもの」


地区大会までにスノーレディのトリックを暴けるのだろうか? と不安が頭をよぎった。その迷いを俺は頭から追い出す。


(迷うな、俺。俺は勝つと決めたんだ)


「おい、鋼太郎? 顔から殺気が漏れてるぞ」


うるせぇ。これは殺気じゃなくて闘志だ。というか、林檎さんにもよく顔に出てると指摘されるが、俺の表情はそんなに分かりやすいものなのだろうか?


「んじゃ、お互いトリック暴きと改造に励もうぜ!」


「それもそうだな……。絶対勝とうぜ、梨乃!」


※※※


また委員長の席は空席だった。その代わりに彼女の席に座っている生徒がいた。金髪に着崩した制服、学校だというのにギターケースをぶら下げたその生徒の噂を知っていた。


「お前が鋼太郎すか……?」


「そうだけど、何のようだよ?」


彼の名は竜崎京。普段は「○○っす!」と誰に対しても後輩口調で語りかけ、笑顔が眩しい人気なムードメーカーなのだが、今日の彼は俺に敵意を剥き出しだった。声のトーンにも怒気が籠められている。


「そこはお前の席じゃねぇ……委員長のだぞ」


「委員長じゃないっす、冬美、白泉美冬っすよ……」


彼が怒りを露にしている理由が何となくわかってきたぞ。委員長が学校を休んでいる件で彼は俺を疑っているのだろうか? しかし状況がよくないな。相手は隣のクラスの中心人物だ。ここで敵に回すのはあまり良くない。なるべく穏便に事を納めなければ……


「話があるなら聞くから、場所を……」


「気に入らないっす……リーダはなんでこんなやつが……」


リーダー……? 委員長のことか? 彼と委員長の、繋がりが見て来ないんだが……


「あー、気に入らねっす! 世間体を気にしてんのか顔に出てるっすよ、陰キャ野郎……」


「本当に勘弁してくれ……俺には、お前がそこまで激怒している理由がわからない」


「分かるわけも、知るわけないっすよ……放課後、体育館の裏に待ってるっす。ヒメノ・エクステンダーズのリーダー、コウとして来いっす」


彼はそう耳打ちして教室を後にした。竜崎は俺をコウと呼んだ。そのおかげで確信できた。竜崎は何か誤解しているわけではない。100パーセントの敵意を俺とコウに向けていたのだから。


まさか……委員長の一件にクリエイティブ・バトラーズのコウが関わっているか!?


※※※


「逃げずに来たっすね……」


「逃げるわけないだろ……」


委員長が休んでいるのに、ほっとけないだろうが……。


体育館の裏で俺を待っていたのは竜崎だけではない。彼とは犬猿の仲と噂される三鳴境もいた。


「なんだよ……珍しい組み合わせだな」


「当たり前っすよ、俺らはギルドなんで」


「担当直入に正体を明かす、俺たちはスノーデルタのリュウとライコだ」


なっ……!?


確かにギタリストの竜崎と無口な三鳴は以前出会った、スノーデルタの二人と合致している。けれど、まさかこんなに近くに居たとは……


「信じられねぇ……けど、そんな嘘をつく意味もないな。何故、正体を明かした?」


「鈍いっすね……俺たちのリーダー、スノーレディは白泉冬美なんすよ」


「なっ……けど! 冬美にはミフユってアバターがあった筈だ!」


「アレは君を誘うためのサブアカウントだよ」


俺を誘うだと? 何のためにだ?


「女心のわかんねぇクソヤロウに話すことなんてないっす……!」


「落ち着け竜崎……俺らは頼みごとに来たんだぞ」


三鳴は形式こそ竜崎を宥めるようだったが、彼自信もかなりイライラしているようだ。


「頼みにきただと……?」


「地区大会を辞退しろ、そして姫野コーポレーションとの縁を切れ……リーダーはそれが一番報われる」


「は……? 訳わかんねぇよ! そもそもこの前約束しただろ! 良いバトルにしようって」


俺の首を竜崎が掴んだ。呼吸が詰まるくらい、きつく締め付ける。


「だまれっす……」


「がぁっ……何するんだよ……!」


「黙れっす! リーダーがどんな気持ちでお前の前で演技を続けていたか、考えたことはあるのかよっ!!」


委員長の気持ちだと……? もう何がなんだか、わからない! そもそもスノーレディが委員長だということが信じられない……


「リーダーは、スノーレディでいたいと言ったんだ。彼女は現実の自分が嫌いなんだよ」


「嫌いってなんだよ! 自分に好きも嫌いもあるかよ!」


「そうすっよッ! 俺らだってそんなこと分かってるんすよ!」


竜崎は首こそ離してくれたが代わりに俺の上に馬乗りになって、怒鳴り付けてきた。


「いまのリーダーは作り物の自分に逃げている。どっぷり沼にハマってるんだよ……自分の心を満たすために」


「悔しいっすけど……リーダーの心を埋めるのは、コウじゃない鋼太郎しかいないんっすよ」


「なんだよ! コウじゃない鋼太郎って! そもそも……お前らが仲間なんだから、まずはお前らが委員長を満たしてやれよ!!」


「はぁ……三鳴、止めるなっすよ」


「分かってる……」


竜崎が天高く拳を振り上げた。そしてそれを俺に振り落とす。


「お前じゃなきゃ、リーダーを救えねないんっすよ!!」


「がぁっ……!」


口の中が切れたのだろうか? 鉄っぽい味がした。


「いいか!! 全部お前が悪いんっすよ!! お前がコウにならなければ、お前が姫野コーポレーションなんかに関わらなければ、全部リーダーの思い通りだったん筈なんっす!」


また、竜崎が拳を振り下ろした。


「お前が他の女と仲良くしてるとき、リーダーがどんな気持ちだったか? どんな気持ちでお前の前で演技してたか、考えたことはあるっすか!!」


まただ。今度は鼻からぬるりとした感触がした。鼻血だろうか?


「はぁ……はぁ……! リーダーはずっとお前のことガァぁ!!」


「そこまでだ! 竜崎ッ!」


三鳴は振り上げた拳ではなく、竜崎の口をふさいだ。


クッソ……、こんなに顔を殴られたことなんてないぞ。すげぇ痛いし、何より訳がわからない。


けど……俺のせいで委員長は苦しんでいたのか? 俺が彼女を追い詰めていたのか?


もし彼女の笑顔を俺が奪っていたのなら……


「うぉぉぉぉぉ!!」


俺は体を起こして、目一杯の力で俺自身の顔を殴り付けた。


「はぁ……はぁ……、がぁっ! 痛ってぇ!!」


「いや……何やってんすか?」


「俺には、委員長が何を考えているのか、いまいちよく分からない! けど分かりたい! 俺は委員長の笑顔も守りたいんだ……!!」


もし、俺が辞退して、こいつらが言うように委員長が救えるのなら……


俺が彼女を笑顔にできるなら……!


「辞退したあとは、ただ委員長の側にいてやってくれ。彼女が現実に向き合えるまで、支えてやって欲しいんだ」


「訳がわかんねぇけど……その訳もわかるん__」


「よせ! 鋼太郎少年!!」


突如、刃のような鋭い声が俺の台詞を遮った。


「梨乃少女! 任せた!」


「任せやがれ……ッ!」


突如、俺の背後から誰かに組み付かれた。そして無理やり、この場を引きさがらせられる。


「はいはい、アンタはコッチだよー」


「なっ……急になんだよ!」


ボロボロになった俺に抵抗する力もなく、すぐに連れ出されてしまう。だが、直前に聞いた声の持ち主は間違えなく、林檎さんと、梨乃だった。


※※※


「えっーと……竜崎少年と三鳴少年でいいかな?」


「テメェは……」


「姫野の社長がなんのようっすか?」


二人の敵意が林檎に突き刺さる。だが、彼女はそんなもの意に介していないと言いたげに微笑んだ。


「実は鋼太郎少年……いや冬美少女の周りをウロウロしている怪しげな連中がいると部下から報告を受けてね。だから梨乃少女と一緒に彼らを迎いに来たんだよ……」


林檎は少年たちの言動から、おおよその事情を飲み込んだようだ。


「なるほど、竜崎少年は恋と嫉妬、そして三鳴少年は尊敬か……」


「何いってるんすか……?」


「隠さなくてもいいよ。それから、その台詞は私のものだ」


林檎が、竜崎の顔を覗き込む。そして怒りを露にした。


「人の大切なビジネスパートナーを殴って、しかも辞退しろだと? 笑わせるなよクソガキ……」


「馬鹿げたことを言ってる自覚はあるんです、けどそれがリーダーを……」


「ふっ……、君たちのリーダーは鋼太郎少年が好きなんだろ? けど、私や梨乃少女が現れたせいで勝ち目がなくなった、だから甘えて逃げている。要はそういうことだろ?」


林檎の言うことは正確だった。


竜崎達は考えていたのだ。どうすれば以前の彼女を取り戻せるか、現実に白泉冬美という少女を繋ぎ止められるか、必死に悩んだ結果出した結論が、鋼太郎と林檎たちの関係を断ち切らせて、鉱太郎と冬実の出来レースを用意することだった。

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