俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
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ヤンキー少女と俺の機体

ヤンキー少女とギルド

公開日時: 2020年9月20日(日) 08:42
更新日時: 2020年9月20日(日) 08:43
文字数:4,314

新章です!


ヤンキーガールってカッコ可愛いよね!

派手な金髪にジャージ。そして、耳には銀のイヤリングをぶら下げた昔ながらのヤンキー少女が、小さな模型店に訪れていた。彼女の名は犬塚梨乃、ネット状ではソロクイーンの2つ名を持つ凄腕のプレイヤーだ。そんな彼女に馴染みの店長が親しげに声をかける。


「やぁ、リノちゃん! 学校帰り?」


「うん。早速で悪いんだけど、工作ルーム借りていい?」


「構わないよ。地区大会に向けたプラモデルを作るのかい?」


「いや……ウチはギルドに属してないから、今年はモデラー賞を狙うの」


「そうかい、おじさんはバトルしてるリナちゃんがカッコよくて好きだったんだけどな……」


「もうバトルは楽しくない……誰もウチに付いてこねぇ」


梨乃は工作ルームの扉を乱暴に閉めると、飲食禁止の張り紙を無視して炭酸で喉の乾きを潤す。そして鞄からヘッドギアを取り出し、備え付けの3Dプリンターに接続させた。


「さーてと……使う部品は、この新規関節と外装をっと……」


手慣れた様子でクリエイティブ・バトラーズ内のクエストで入手した設計図のパーツを次々と出力していった。工作台には工具箱を広げ、姫野コーポレーションの古いプラモデル、エボリュートを分解していく。


「さてと、やりますか!」


デザインナイフでエボリュートの装甲に実在する兵器を参考にしたデザインの溝を堀っていく。スジ彫りというテクニックのひとつだ。


「ふぅ、こんなもんか……?」


梨乃の入れた線は真っ直ぐでズレもない素晴らしいものだ。けれど彼女にとって、その線は納得いかないものだった。プラ板やメタルパーツを駆使して、さらにリアリティーとオリジナリティを追及するが、上手く納得する仕上がりにはならない。


「やっぱウチ、モデラー向いてないかも……」


次々と印刷されていくパーツを、小分けにしながら彼女はスマホでクリエイティブ・バトラーズのホームページを開いた。このホームページには人気プレイヤーやモデラーの作品が紹介されているのだ。


「やっぱり、先人の知恵を借りるのが一番だぜ」


ホームページに乗っている作例はどれも、プラモデルやフィギュアに興味がある人間なら、実物を見たいと思わせる魅力に溢れている。バトルやギルド戦を前提にカスタマイズされたフィギュアや、原作の名シーンを再現したジオラマに梨乃はついつい目を奪われてしまう。


「ウチもこれくらい作れたらな……」


そんな作例達の中にひとつ気になる作例があった。ギルド・スノーデルタの作品だ。


「スノーデルタか……強かったなぁ」


リーダーのスノーレディを中心に構成されている実力者揃いのギルドだ。その実力は本物で地区大会まで勝ち上がってくるほどだ。


一年前の地区大会で梨乃とスノーレディは対峙している。そこまで一撃も受けることなく勝ち進んできた梨乃のエボリュートの首に、スノーレディの操るプラモデルが刃を突き付けたのだ。


「あの試合は結果的にはウチらの勝ちだったけど、個人としてはスノーレディに指一本触れられなかったんだっけ……」


氷の仮面を被った姿のスノーレディの迫力は生涯、忘れないだろう。そんな彼女達のギルドが地区大会で使うであろう機体が公開されていた。


「機体名はオーバーロードか、前は空色のエクステンドに雪原をモチーフにしたマントを羽織らせていた機体だったけど、今回はまた凄い改造してるな」


スノーレディの操る機体、オーバーロードの改造前はエクステンドのようだが、全身のカラーが空色、白、黒に変更され、全身の装甲も強化されている。そして、凄いのはオーバーロードだけではない。他の2人の機体はフジミヤ社のプラモデル、ハウンドを改造しているようだった。


「ふふっ、リュウさんは相変わらずバンドマンをイメージした改造してるんだ。ギターライフルもまた作ったのね、射撃下手な癖に」


リュウというのはギルドのムードメーカーのような明るい人物だ。彼も凄腕のプレイヤーなのだが、肝心なところで操作をミスすることに定評がある。前の地区大会でも、そのミスが勝負を分けたというのに、今年も同じ戦法が許されているのは、彼がギルドのメンバーから愛されている証拠だろう。


「いいなぁ……ウチも、もっと自由にバトルがしたかったな」


スノーデルタは作品の他にバトルの映像も公開されていた。サムネイルをスノーレディの横顔と彼女の愛機、オーバーロードが飾っている。梨乃はその動画が気になって仕方がなかった。


もはや、自分の作業なんてそっちのけでイアホンを嵌めて動画を再生してしまう。


□□□□


「ヤベェ……! ヤベェ……!」


動画の冒頭に写し出されたのは対戦相手に追い詰められるリュウだ。


対戦相手のギルドはファイヤーフォース。特撮の戦隊ロボを操る映像会社の宣伝ギルドだ。ファイヤーフォースの名前の通り、彼らの操る玩具は消防車が変形する玩具を原作のデザイナーの意見を交えながら改造している。だから、その完成度も折り紙付きだ。


「覚悟しろ! 悪の怪人め!」


「怪人じゃねーし、て言うか声が本人じゃん!」


「問答無用だ!」


ファイヤーフォースのリーダー、ファイヤー1号のロボが、リュウのハウンド・アールに渾身の一撃を叩き込む。後退し、射撃姿勢を取り直そうとリュウは機体を起こすが、ロボの放水攻撃にギターライフルを弾き飛ばされてしまった。


「あっー! 俺の魂ともいえるギターちゃんが」


「さぁ覚悟しろ、ギター怪人! 必殺のファイアーキック!」


ロボが、キックの体勢に入る。大きく飛び上がり渾身の蹴りを放つのだ。だが!


「だーっから、俺はギター怪人じゃねぇよ……泣く子も笑顔にする無敵のバンドマン、リュウ様だ!」


ロボは空中で固定されたように動かなくなってしまった。いくらファイヤー1号が操縦ハンドルを動かしても機体は軋むだけだ。


「なっ何故だ、俺のロボが動かないだと!? お前、何をした!!」


「俺さ、最近アメコミのタランチュラマンにハマっててさ、糸で相手を絡めとるなんてカッコいいだろ? だから真似させて貰ったぜ!」


リュウのハウンド・アールの指先に視線が集まる。貸すかに煌めく透明の糸がそこにはあった。ギターの弦を模したワイヤーだ。強固なワイヤーが絡み付いたロボは、抜け出そうともがけば、もがくほど動けなくなってしまう。


「いくら射撃が下手な俺でも、動かない的なら余裕でね」


弾かれたギターライフルを構え直したハウンド・アールが、狙いを定める。


「とどめだぜ!」


「ふふ、甘いぞ! タランチュラマンにハマっているのは貴様だけではない!」


「なんだと!」


ハウンドRに消防車のホースが巻き付いた。アメコミ好きの設定を持つファイヤー2号の操るロボの仕業だ。


「大丈夫か、1号?」


「助かったぞ、2号! さぁ合体して形成逆転というこうか!」


ファイヤーフォースの逆転BGMが会場を盛り上げる。二体のロボが変形し原作のファイヤーダブルへの合体形態に変形する。


「はぁ……アホみたいなことやってんじゃねぇよ」


そのクールな一声がBGMを遮った。そして、一筋のビームが二体のロボを貫く。


「こちらはライコ……ハウンド・エルで敵を始末した」


ビームを放ったプレイヤーはライコ。オールバックの髪型にスーツを着こなすアバターのプレイヤーだ。ギルドでは主に参謀の役割を果たしている。


ライコの操るハウンド・エルはビームライフルでリュウのハウンド・アールに絡み付いたホースを精密な射撃で焼き切っていく。彼の狙撃なら、この地区で右に出るものはいない。ライフルもプラ版から自作した一級品らしく、彼の代表作、レーザー戦車を制作した際の経験が存分に生かされている。


「いやぁ、助かったぜライコ!」


「テメェが油断しすぎなんだよ……それよりリーダーは?」


「それならアッチで、無双してるぜ」


ライコとリュウが戦っていたフィールドの反対側では、スノーレディのオーバーロードが、ファイヤー3号のロボをナイフで切りつけていた。


一撃、一撃を踊るように刻み込んでいくオーバーロードの技は1

年前よりも熟練されている。ファイヤー3号もなんとか彼女に追い付こうとブースターを点火させるが、彼女の刃を受ける度に機体の動きが鈍くなる。


「なっ……なぜ、こんなに動きが鈍いんだ。まさか貴様もタランチュラマンのファンでワイヤー攻撃を!?」


「違うわよ。私が好きなのは、とある男の子だけなの」


「なら、何故だ! なぜ俺のロボの動きがこんなに鈍い!」


「さぁ? 凍ったんじゃないの?」


スノーレディが仮面越しに微笑んだ。彼女が切りつけたロボの傷口はまるで、凍り付いたように白く染まっている。だが、クリエイティブ・バトラーズに相手を凍らすなんて技はない。理論上はプラモデルの内部に冷却装置を仕組めば可能だが、オーバーロードにそんな仕掛けがあるようには見えなかった。


「ぐぬぬ……こんな氷なんて我らの正義の炎が焼き尽くしてやる!」


「あら、ダメよ。凍った状態で動いたりしたら、割れちゃうから」


「そんな脅しが通じるか!」


ファイヤー3号が必殺の構えに入る。消防車のラダー部分を剣に変形させた、クリムゾンスマッシュの構えだ。だがスノーレディは動じない、ナイフを納め余裕の表情を浮かべている。


「消えなさい……貴方とのバトルはつまらないわ」


ピキッ……とロボの全身に亀裂が入る。その亀裂も白く染まっていた。亀裂はすぐ広がり、跡形もなく崩れ落ちてしまう。


「まさか……正義が敗れるだと」


「正義なんて寒いわね、今の流行りは恋よ、どんな氷も溶かすような熱い恋が私を突き動かすの」


□□□□


「すげぇ……今年のスノーレディ、凍らせるなんてどうなってんだよ!」


梨乃はただ、ただスノーレディやギルドのメンバーのハイレベルなバトルに夢中になっていた。1年前にスノーレディと刃を交えた経験がある彼女でも凍り付けのトリックには見当が付かなかった。


「私も彼女みたいなバトルが出来たら……みんな私を認めてくれたのかな」


作業台にバラされたエボリュートを眺める。なんとなく納得いかない理由がわかってしまった。


「クッソ……何がモデラー賞を目指すだよ、どうしてバトルを意識した改造をしてんだよ!」


彼女は胸のドロドロとした感情を炭酸で洗い流そうと、ラッパ飲みした。そして散らかした工具を乱暴に鞄に詰め込む。


「クッソ……ウチはもうギルドなんて組まないんだ! バトルだってパーツのためなんだ!」


涙目になった梨乃とエボリュートの目が合う。正確にはそういう錯覚なのだろう、だが彼女から見たエボリュートは泣いているようだった。


「クッソ……ばかやろう、何がリアナには、もう追い付けないだよ、バカ野郎……お前らが弱いのが悪いんじゃねぇか!!」


彼女は他者の弱さを攻めた。そして自らの強さを呪うのだった。

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