プライドをへし折るスタイルです
俺は仕方なくコックピットに飛び乗った。そして改めてエクステンドの装備を確認する。
「腰に差した斬刀に、クエスト報酬の格闘ハンド……パラメーターも安定してるし、行けるかエクステンド?」
エクステンドの双眼が俺に応えるように煌めいた。相変わらずお前はいい相棒だよ。
「さぁ、始めようぜ」
「ふんっ、素組野郎が偉そうにすんじゃねぇよ」
リアナさんはやけに不機嫌にそう吐き捨てた。彼女は何故かギルドの話をしてから不機嫌になっているようだ。理由を推測しようにも、今は情報が足りない。だが拳を交えれば何かがわかる、なんてベタな台詞がある。
「とにかく勝つ。それが最低条件だ!」
デュエル・スタート! とアナウンスが入った瞬間__
ガチャリッ!
彼女のエボリュートが銃を構えた。そして構えた、その銃を投げ捨てのだ!
「なっ……!?」
「ビビッてんじゃねーよ!」
彼女のエボリュートが屈み込む。そして脛に増設された装甲が開いた。
「気を付けろ! 仕込みコンテナだ!」
「そんなのアリかよ!」
リアナさんが仕込みコンテナから取り出したのは折り畳み式のハンドガンだ。彼女はそれを構えると地面に向けて撃ち放った。コロシアムの砂が舞い上がり辺りが土煙に包まれる。
「目眩ましかよッ!」
「こんくらいで驚いてるから、お前は素組野郎なんだよ!」
彼女の大胆不敵なプレイングに驚かされるあまり俺は一瞬だけ、反応が遅れてしまった。そして次の瞬間、エクステンドの腹部に衝撃が走る!
「オラァァァァ!」
エボリュートがエクステンドの、腹部にパンチを叩き込んだのだ。彼女はハンドガンを握ったまま俺達を殴り付けた。当然、そんなことをすれば銃は誘爆し、その衝撃でエクステンドは観客席までぶっ飛ばされる。
「うっ……ソロクイーンなんて呼ばれるだけあるな。クエストなんかとは訳がちげぇや」
ガチャリッ!
また、あの嫌な音が響いた。彼女のエボリュートが銃を構える音だ。彼女は腕の仕込みコンテナから、ハンドガンを取り出す。今度のハンドガンは、あのグラトニーを倒した時に使われた、あの槍弾が装填されている。
「案外タフだね、けどこれでゲームエンドだ。さっさとウチの前から失せやがれ、素組野郎」
彼女のハンドガンがエクステンドの胸元に突きつけられる。そこはエクステンドの心臓、即ちコックピットがある設定の場所だ。
「クッソ……」
「諦めるな! コウ少年ッ!」
「言われなくて分かってますよ!」
俺をアールさんの声援に応えるように、腰に差した20センチ……いや今この世界のサイズで言うなら8メートルの刀に指をかけた。
そして牽制する要領で抜刀! リアナさんもその動きに気付いたのか銃口を腕に向け直す。だがもう遅い! この距離は俺の間合いなんだよ!
「エクステンド・抜刀斬!」
ガチャン! ガチャ……ガチャ
抜刀した……そう思った。だが現実は違った。鞘に引っ掛かったのだ。
「は? なんだよそれ、ウチをバカにしてんのか?」
「いや、これはなんと言うか……」
やらかした、という言葉しか出てこなかった。物理的に8メートルなんて巨大な刀をこんな不安定な体制からうまく抜刀出来るわけがない。漫画みたいに上手くいかないな、こんなことなら鞘なんて装備させるんじゃなかった……
「クッソ、こうなりゃヤケクソだ!」
リアナさんが再び、俺に銃をつきつける。だが、彼女にも呆れていたせいで一瞬の隙ができた。俺は抜刀を諦め、鞘ごと腰からパーツを外してエボリュートに叩きつける。
「キャッ! この野郎……ッ!」
「ヘッ……バカとハサミは何とやらだぜ、このバカデカい刀も十分使えるんだよっ!」
俺は刀を長ものの要領でふりまわした。鞘がエボリュートに握られハンドガンを弾き飛ばす。
「やってくれんじゃん……」
「当たり前だ。俺はそう簡単には倒せないぞ」
エボリュートが後退して、最初に投げ飛ばした銃を拾うと、それを構えた。
俺も、今度は引っ掛からないよう、刀を平行に構えて鞘から引き抜く。
「「行くぜ!」」
俺たちが動いたのは、ほぼ同時だ。だが、わずかに彼女の方が早かった。エボリュートの弾丸がエクステンドの装甲を引き剥がす。
止まったら、撃ち倒されてしまう。止まるな! 絶対に止まるな!
「外装ならくれてやるよ! その代わり頭を寄越せェェ!」
彼女の早撃ちの技術は凄まじい。だが一発一発の威力ではエクステンドの外装を貫けても、コックピットまでは届かない!
「エクステンド・8メートル・一刀両断、必殺剣!」
ブースターを全て、機体を浮かび上がらせることに集中させる。そして俺は空へと舞い上がった。太陽を背にするようにだ。
「なっ……テメェ! その技はウチの!」
そうだ、悪いがお前のグラトニー戦を参考にさせて貰うぜ。格闘用のバンドパーツでしっかり握ったと刀がの斬撃がエボリュートに降りかかる。その威力があればいくらソロクイーンと言えども一撃で破壊できるはずだ!
「やった!」
「いいや、コウ少年……やってない!」
なっ……何だと? 俺は刀を振りかざしてエボリュートに突っ込んだ。確実に仕留めた筈だ。手応えもあった。それなのにまた俺の、いやエクステンドの耳元でまた彼女の銃を構える音が聴こえた。
「やられたのはテメェだよ……」
ひんやりとした銃口がエクステンドの首もとに突きつけられる、この感触はプラスチックじゃない……
「金属か?」
「よくわかったじゃないか。メタルパーツで銃口を補強してんだよ、じゃなきゃウチの早撃ちに銃口が耐えられねぇからな」
「はぁ……降参だよ」
どうやら俺が感じた手応えは地面を突き刺したときのものだったようだ。我ながらバカな勘違いだよ。彼女は俺の攻撃なんて軌道を見なくても、経験と勘で回避したんだ。
「あばよ……素組野郎」
「なぁ、最後に教えてくれよ? その素組野郎ってどういう意味だ?」
「マジでわかんねぇのか……」
リアナさんがエクステンドの足元を撃ち抜いて無理やり地面に押し付ける。念には念を入れてって訳か。抜かりのない女だ。
「素組ってのはな、プラモデルを説明書通りに組み上げるあげるしか出来ないこと、つまりテメェみたいな雑魚のことを言うんだよ!」
なるほど……そう言うことか。
いや俺は素組すらしていないぞ。このエクステンドは俺が組み上げた物ですらない。それに悔しいが彼女のエボリュートは相当改造されているようだ。最新型のエクステンドの方が性能があるはずなのに、ここまで一方的にやられたんだから。
「教えてくれてありがとう。俺の敗けだよリアナさん……」
「はぁ……どいつもこいつも、雑魚ばっか! 全く嫌になる! 誰か私を満足させてよ!」
リアナさんはそう怒鳴って、エクステンドの首を撃ち抜いた。首を接続する軟質パーツが吹き飛び、エクステンドの首が宙を舞う。俺はその様子をただ動かないコックピットから眺めることしか出来なかった。痛かったよな、ごめんな相棒……
はぁ……はぁ、と荒い呼吸を繰り返すリアナさん。そんな彼女も彼女のエボリュートも何処か悲しそうだった。彼女たちが俺たちに背を向けて立ち去ろうとする。そんな彼女を大声で呼び止める人物がいた。
「雑魚はアナタよ! リアナ少女!」
「まだウチに文句があるのかよ……社長さん」
アールさんだ。彼女はエクステンドの首もとに駆け寄ると、砂ぼこりを払ってくれた。そしてリアナさんを睨み付ける。
「雑魚はアナタよ……プラモデルとは作り手が楽しむ為の物で改造してあるか否か? 塗装してあるか否か? なんて関係ないわ!」
「そんなの技術不足を取り繕うための弱者の言い訳だろ?」
「そんなことない! プラモデルや他の玩具だって、その持ち主の思い出や愛がたっぷり詰まってるんだ! それを素組と蔑むアナタが私は許せないっ!」
「チッ……うるせぇよオタクが! 理想論ばっか並べんじゃねぇ!」
エボリュートの銃口がアールさんを捉える。ここはゲームの世界だから死ぬことはない、それでも俺は彼女を庇おうとエクステンドの操縦ハンドルを握りしめた。
「クッソ! 動け! 動いてくれよ相棒
!」
「もう二度とウチの前に現れんな、ウチは弱いやつが……中途半端なヤツが一番っムカつくんだよ!!」
リアナさん……いやリアナがトリガーに指をかけた。仮想現実とわかっていても恐怖でアールさんは動けなくなる。
一瞬の無音……
そしてリアナのエボリュートが凍り付いた!
「氷解剣術・一式! 武装凍結」
「なっ……何をしやがった!!」
コロシアムにもう一体、プラモデルが乱入してきたのだ。
「すまない、私は君たちの問題に口を出す気はないが……ソロクイーン、君の言動は少々目障りだ」
黒塗りのエクステンド……違うな、エクステンドの原型は殆ど残っていない二対のナイフを携えた改造機。それを操るのはスノーレディさんだった。
「残念だよ……君は何故、去年私に負けたのか分かって無いようだな!」
「うるせぇ……今のウチは去年とは違うんだよ!」
銃を投げ捨て、スノーレディさんの黒いエクステンドに殴りかかるリアナ。だがスノーレディさんは攻撃を容易く捌くと、エボリュートの間接をそのナイフで切りつけた。
「さすがだなぁ……スノーレディ、アンタならウチに付いてこれるかもな!」
「笑わせるな、私のオーバーロードは、常に貴様の前にいる」
オーバーロードと呼ばれた機体がエボリュートを切り裂いた。断面は白く染まり、まるで凍り付いたようにエボリュートが動かなくなる……
「クッソ! スノーレディ……なにしたんだよ!」
「凍らせたのよ……一度頭を冷やすことね、そして昔の貴女を思いだしなさい」
「うるせぇ……うるせぇよ!」
スノーレディさんが溜め息をついた。そしてレイピアを抜き、動けないエボリュートに突き刺す。
「氷解剣術・二式 内部凍結」
オーバーロードがレイピアに仕込まれたトリガーを引く。そして次の瞬間、エボリュートが真っ白に染まった、全身にヒビが入り、バラバラに砕け散る。
「なっ……バカな!」
「消えなさい、ソロクイーン。貴女の本質はこんなものじゃないのを私は知ってるわ」
「ざっけんな……ウチはまだやれる!!」
「次に再戦するときには楽しいバトルにしましょうね」
真っ白な冷たい風が吹き荒れると同時にスノーレディさんは消えてしまった。ログアウトの演出の様だが、大したものだ……
「大丈夫か! コウ少年!」
「えぇ……けどすいません、負けちゃいました」
アールさんが心配そうにコックピットで項垂れる俺を覗き込んだ。観客たちはスノーレディさんに歓声を送り、惨敗したリアナが放心状態でコロシアムの真ん中に突っ立っている。
「敗北を恥じるな、君はよくやってくれたよ」
アールさんは何処に短いメッセージを送ると、俺をコックピットから引っ張り出す。
「なぁ、コウ少年。今回は私のチョイスミスだ。責任を取るためにもこらこからは別行動を取らせてくれ」
彼女は俺の耳元で旅館の部屋番号を伝えると、リアナの元に駆け寄った。そして
「少し時間を……いや、君たちの言葉に合わせよう。ちょっとツラ貸せや、不良の金髪少女!」
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