俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

二丁拳銃と氷の仮面

公開日時: 2020年9月22日(火) 11:42
文字数:4,656

ふわっと足が浮く感覚。


クリエイティブ・バトラーズへと足を踏み入れる感覚だ。すっかりこの感覚にも慣れて、上半身全裸コウとしての姿にも愛着が湧いてきた。いやダメだ……彼女の変人センスに染まっているということじゃねーか!


「ふふ、見てみろよ! コウ少年!」


今回、俺たちが降り立ったフィールドは中世のコロシアムといった雰囲気だ。すでに林檎さんの、この世界での姿のアップルガールが最前線の席を陣取っている。


「すぐいきますよ」


コロシアムの真ん中には、待機状態の大型の機体の姿があった。恐らくは高難易度クエストのボスなのだろう。そして、それを迎え撃つのは、俺たちが探していたソロクイーンの異名を持つリアナさんのようだ。彼女は機体の二丁拳銃の微調整を行っている。


「どっちも、すげぇ……」


「見とれるのもいいが、席につかないか?」


「ですね、ちょっと待ってください」


俺は他の観客の間を潜り抜け、アールさんの横へ腰かけた。コロシアムには大きな電子時計がある。どうやらボス戦開始まで、あと数分らしい。アールさんはスカウトなんて目的は忘れて、リアナさんの試合を観戦するのつもりなのだろう。


「あの、アールさん?」


「すまん! すこし集中させてくれ。シャッターチャンスなんだよ」


カメラを構えて全力で撮影に徹する彼女に俺の声は届かないようだ。だが、俺もこの試合に期待していた。リアナさんというプレイヤーの戦いをこの目で見れるのだから。


「ねぇ……君?」


そんな、俺の真横から、動画なんかでよく聞く少女の人間的で自然な合成音声が響いた。


「席、空いてなくてね。隣、失礼しても良いだろうか?」


「えぇ……別に構わないっすけど」


「感謝するよ、姫野コーポレーションの代表」


その、やけに芝居掛かった喋り方をするアバターが俺の横へ腰掛ける。氷の仮面で顔を隠した大人びた女性アバターだ。声もアバターに合わせて変更してるのだろうか? 近頃の変声ソフトは凄いな、慣れてしまえば、違和感もない。そして彼女は胸元がガッツリ空いたライダースーツに身を包み、ヘルメットとトロフィーを抱えていた。


「あの、そのトロフィーって……というか、俺のこと知ってるんですか!」


「あぁ、私は君や姫野コーポレーションのファンだからね。そして、このトロフィーはさっき開催されていた、レースイベントの報酬さ」


なるほど、その派手なライダースーツはその為の物だったのか。しかし、姫野コーポレーションのファンということは彼女もエクステンドやエボリュートを愛用してるのか? それにこんなお姉さんが俺、個人のファンってのも嬉しいな。どっかのバカなお姉さんと違って、この人なら常識もありそうだ。


「もしや、君も彼女に興味があるのかい?」


「はい、地区大会に出るために彼女にギルドに入ってもらう必要があるんです」


「なるほどな……というか、君も地区大に!?」


「えっ……えぇ、はい。姫野コーポレーションの宣伝にもなりますしね」


何故か彼女は動揺していた。俺が地区大にでるのがそんなに不味いのだろうか……


「もしかして、貴女も地区大会に?」


「えっ……いや、まぁな! そうだ、この姿なら分かるんじゃないだろうか!」


スキンチェンジと仮面の彼女が唱えれば、彼女の衣装が光包まれ変更される。氷の仮面はそのままだが、今度は落ち着きのある軍服だ。強調された胸元を除けば、その役者染みたロールプレイによく馴染むアバターだった。


「スノーレディ、すこしは有名なギルドのリーダーを努める者だ。君もプレイヤーなら名前くらいは聞いたことがあるんじゃないだろうか?」


「いや……すいません、俺はまだ初心者なので」


「スノーレディだと!!」


うっわ! びっくりしたぁ……


アールさんには急に大声を出さないでもらいたい。にしても、あれだけ二体のプラモデルに夢中だった彼女が反応するなんて、このスノーレディというプレイヤーは何者なのだろうか?


「コウ少年! 紹介しよう、彼女はスノーレディ! 我が社のエクステンドを、長々と愛用してくれいる実力者で、今年の地区大の優勝候補ギルド、スノーデルタのリーダーなのだ!」


出た、オタク特有の早口。要はスノーレディさんはエクステンド使いで、厄介な敵でもあるってことか?


「いやぁ、いつも我が社の商品を愛用して頂き感謝です! この間のファイアーフォース戦も見事でしたね、これからも姫野コーポレーションをよろしくお願いします!」


アールさん! なんで対戦相手になるかもしれない人にゴマをするんですか! そりゃお得意様なのはわかるけど、アンタ社長だろ、プライドとかねぇのかよ!


「うむ、いつも高クオリティの商品をありがとう。そして始まるぞ!」


ビィーーッ! と甲高いブザーが鳴り響いた。


そしてコロシアムの中心の大型なエネミーが動き出す! 間接の軋む音は、怪物の唸り声のようだ。


「そうだった、俺たちはリアナさんのスカウトに来て、彼女の試合を観るんだった!」


「対戦相手はバンズ社の商品、グラトニーだな。七つの大罪シリーズのプラモデルの中では最も巨大な作品だ」


「なぁ、二人はあんなのよりも我が社のエボリュートやエクステンドの方が強いよな……?」


自信なさげに呟くアールさん。もっと自分の会社の商品に自信を持ってほしいが、グラトニーの迫力を目にすれば彼女が不安になるのも仕方ないかもしれない。


バンズ社のグラトニー。名前の元ネタは暴食を司る悪魔だろうか? その大きさは30メートルを越えている。俺のエクステンドや、リアナさんのエボリュートの倍以上の背丈だ。そして、その巨大な腕を振るえば、粉塵が巻き上がり、空気が震える。


だが、グラトニーがその巨腕を振り上げてもリアナさんは動じなかった。というか何処かつまらなそうだ。


「デカイだけか……まぁ、NPCならこんなもんだろ」


俺はその言葉に耳を疑った。それはリアナさんの声だ。彼女の口許につけられたマイクで、その台詞がコロシアム中に拡散された。会場に集まった人たちも彼女の台詞を度肝を抜かれる。


「2発、それで十分なのよッ!」


振り上げられたグラトニーの巨腕を避けた彼女はエボリュートのコックピットへ乗り込む。そして地面に向けて一発の弾丸を撃ち放った。


「上がれぇぇぇ!!」


その小降りな銃から、予想を上回る量のビームが放出された。その勢いを利用して彼女のエボリュートが天高く舞い上がる。そして、もう片方の銃でグラトニーのヘッドパーツを捉えたようだ。


「その巨体なら、ウチの弾は逃れられないだろ!」


グラトニーはヘッドパーツに備え付けられた、マシンガンと両腕の仕込みガトリングで必死にエボリュートを迎撃したが、彼女はその全てを避けてみせた。リアナさんは飛び上がった時、太陽を背にしたのだ。これなら、逆光で敵の目を潰せる。まさに天井が空いていコロシアムというフィールドを、最大限生かした実力者のプレイングだ。


「あれがリアナさん、ソロクイーンのリアナさん!」


彼女のエボリュートの銃が火を吹いた。いや正確には弾丸を撃ち放ったのだ。今度はビームではない、鋭い槍のような特殊な弾丸なのだろう。その弾はグラトニーの目に深々と突き刺さり、爆発を起こす。


「ウチは知ってるからな。グラトニーはその巨体を細かく制御するためにコックピットを頭部に配置しているって設定があるんだろ?」


あれだけ分厚い装甲を持ったプラモデルがたった一発の弾丸だけで、崩れ落ち大爆発を起こした!


2発で充分。リアナさんのその言葉に嘘はなかった。高難易度のクエストをまさか一瞬でクリアするとは……リアナさんの実力は本物のようだ。


「見たまえ、コウ少年。リアナ少女の二丁拳銃を」


俺はアールさんの指差した方向に注意深く目を向ける。エボリュートの両腕に握られた、ハンドガンを模した二丁拳銃は焼け落ちていたのだ。


「なんで……」


「コウ少年も見ただろう、クエスト開始前に彼女が、こまかな設定を弄っていたのを」


「リアナは、元からこの戦法で勝つために、弾をチョイスし、銃のリミッターを外していたと言うわけか。ふふ、去年私なんかと戦ったときより、ずっと強くなってるんだな」


そういう事か。本当に彼女はすごいプレイヤーなようだ。フィールドの特性を生かすセンスも、武器の扱いも一流だ。


「凄いですね、アールさん……ってアールさん!?」


気づくと俺の横にいたはずのアールさんがコロシアムに乗り込んでいた。彼女が指をパチンと弾けば、グラトニーの残骸がデータとなって溶けていく。そしてリアナさんの前にギルド勧誘のスイッチが表示された。やけにYESの三文字が強調されているのもアールさんが運営権限を悪用した結果だろう。


「見事だよ、リアナ少女。明らかに性能が上回るグラトニーの単機撃破、それも秒殺で」


「そりゃどうも、んでアンタは?」


「私かい? 私は姫野コーポレーションの社長、姫野林檎ことアップルガールだ」


興味なさげにコックピットで話を聞いていたリアナさんがハッチを開けた。社長というワードに反応したのだろう。だがその顔は露骨に不機嫌だ。


「んで、そんな偉い人がウチなんかに、なんの用なの?」


「嫌だなぁ、そこにギルド勧誘のスイッチがあるだろ? それをポチッと押して我が社の代表として地区大会に出て貰いたいんだ」


リアナさんはふーん、としばし考えるように項垂れると、NOのスイッチを弾いた。


「なっ……!?」


「ワリィけど、ウチはギルドとか組まないから」


驚愕に目を見開くアールさん。しかし考えみれば妥当だろう。リアナさんはあれだけの強さを持っているんだ、周囲からもスカウトされていたはずだ。それなのに彼女がソロプレイを貫いているのは、何かしらの理由があるのだろう。


「なっ何故だ……ちゃんとコウ少年と同等に扱うし、君のエボリュート愛は本物だろう!?」


「は? なに言ってるの社長さん?」


その可愛らしいアバターの容姿からは想像できないほど鋭い言葉がアールさんを切りつける。


「いいかい、社長さん。世の中が何でもアンタの思い通りに進むと思うなよ、勢いだけのおばさんが!」


「なっ……おば、おばさんだと! 私はまだ二十代後半の美人なお姉さんだ!」


アールさんの眉間にシワがよった。彼女は指をパキパキと鳴らして怒りを露にしている。どうやら、やる気らしい。


「いいだろう、リアナ少女よ。ギルド勧誘を断ったことはこの際どうでもいい! その代わりだ!」


彼女はコロシアムの全観客の前でデュエルモード、すなわち決闘の、宣言をした。コロシアムの反対側から大きな日本刀を腰に指し、格闘用のハンドパーツを嵌め込まれた、俺のエクステンドが入場する。


「当然受けてもらえるよな? 我が社を代表するコウ少年との一対一の決闘を!」


「へぇ……決闘ねぇ、やってやろうじゃない!」


リアナさんは獲物を見定めるように、観客席の俺とエクステンドを睨み付けた。そしてエボリュートのハッチを閉めた。エボリュートのエメラルド色の双眼がギラつく。


「ちょっ! アールさん何を勝手に!」


「尊敬する上司がバカにされたんだぞ! 敵討ちしてこそ、私が雇ったコウ少年だ!」


いや、アンタはもうギルド勧誘とかどうでもよくなってるだろ! ただおばさんという地雷を踏み抜かれただけだろ!


「ふっふ、ならこうしようよ、社長さん! そこの素組野郎が私に勝てたらアンタのギルドに入ってやるよ!」


素組野郎……? 俺のことか、ていうか俺は彼女に舐められているようだ。


「その言葉、忘れるなよ! ソロクイーン、リアナ!」


アールさんはそう宣言して、俺に断ることなもなくエクステンドを起動させた。 

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