メラニンスポンジにリアルの私も救われています。トップコート溶剤というものがあるのですが、そっちにはなかなか手が出ません……
さて、雑談はここまで! ぜひ本編をお楽しみください!
「来いや……コウ!!」
「やッてやんよォォォ!!」
俺はコックピットの中で吠えた。彼女の挑発に乗るようにだ。俺は操縦ハンドルを名一杯押し出す! 敵は黄色に黒のストライプが入った機体、エボリュート二式だ。彼女の機体の特徴的な四ツ目のセンサーが煌めく。
だが……俺だって負けらんねぇ! そうだろ、エクスコード!
※※※
時はすこし巻き戻って話をしようか。
俺は店長にある程度の部品を見繕って貰った。オリジナルの機体を作るといっても何から始めればいいかわからない俺に店長が持たせてくれたのはプラ板だった。
「プラ板ってアレですよね、小学生が絵とか描いてチンってやつ」
「いや、プラモデル用にもあるんだよ。何枚も重ねて部品を延長したり、切り出して装甲をつくるんだ」
そういって店長がやけに本格的な白い板と専用のカッターを渡してくれた。思ったよりも分厚いその白い板に俺は戸惑ってしまう。
「大丈夫、慣れれば自由に形が作れるか
ら」
「けど、これらって具体的にどう使えば……?」
「それこそ、モデラーのセンス! と言いたいけど、君のエクステンドって刀を持たせてたよね。それなら格闘用に装甲をつけたり、足回りを強化してバランスを安定させたりとか!」
店長がぐいぐい迫ってきた。林檎さんといい、委員長といい、このおっさんといい、プラモデルに関わる人ってのは迫力があるな。けど、俺はそんなこの人達が好きなのかもしれない。うまく言えないけど、自分の"好き"という気持ちに素直だからか?
「それからコレは心中線といって、フィギュアの間接なんかにも使われるんだ、それからコレは塗料マーカーといって」
「ちょっ! ちょ! 店長ストップ、ストップ!」
ちょっと感慨にふけている間に俺の買い物カゴは店長のオススメする改造道具でパンパンだ。この人、商売上手、いや押しつけ上手だ!
「あの……これ全部でいくらっすか? そんなには買えないですよ」
「構わんよ、君がリノちゃんを救ってくれる投資だと思えば安いもんだ」
「やめてください、勝たなきゃいけない理由が増えてしまうので」
結局、こんなたくさんの機材をタダで讓ってもらうのも申し訳ない。ツケという形にして貰った。しかし問題はここからだ。俺は店を出るとすぐにバスに飛び乗る。
「さてと……ここからだ。問題点は判ってる」
俺は機材の裏の説明を読みながら、俺のエクステンドの問題点を考慮していく。全体的の性能の低さ、そして使いこなせなかった刀を使いこなせるようになる。大きくすればこの2つだろうな。
「ふふっ、待っていたぞ! 鋼少年!」
「林檎さん! なにやってるんすか?」
旅館の入り口では林檎さんが出迎えてくれた。和服姿の彼女は黙っていれば、大人の魅力があるのだが、100均のレジ袋を片手に引っ提げて、はしゃぐせいで台無しだ。
「何か買ったんですか?」
「秘密兵器だよ! ジャーン、四角いスポンジ!」
彼女が自信満々に取り出したのはメラニンスポンジの詰め合わせだった。そんなもの何に使うのか? と俺が聞く隙も与えず彼女は俺を引っ張って自室に連れ込んだ。そして新聞紙を引くと、エクステンドをひったくた。
「ちょっ! 何をするんですか! そもそもアンタは仮にも女性なんだから、こういうのは……」
「なーに、ガキみたいな事を言ってるんだ。私にそんなイヤらしい気持ちはないぞ」
いや、俺はアンタからすれば高校生のクソガキだろうがな! こっちは旅館の一室に連れ込まれてるんだ、意識するなという方が無理がある! 待て……ちゃんと俺の部屋、予約してるよな!?
「これだから、童貞は……」
「仮にも社長なんだから、下品な言葉を使わないでください!」
「ちぇ……せっかくスポンジ買ってきて挙げたのに……」
彼女は露骨に不機嫌そうな態度をとる。そしてエクステンドの腕を外すと、スポンジの袋を開けた。
「待って、待って! スポンジで何をするんかすか、それって水回りを磨くものですよね!?」
「そうだよ。けど、この子で擦ればプラスチック独特のテカテカを消せるんだ」
「それって何が変わるんですかね?」
「やればわかるさ、質感が全然違うから。ツヤ消しというテクニックさ」
そうすると彼女はひたすらにエクステンドの腕を磨き始めた。彼女が誇らしげに磨いたパーツと磨く前のパーツを見比べされる。
「すごい、委員長のスノーテンドみたいに、プラスチック独特のテカテカが消えて綺麗な質感になってますよ!」
「そうだろう? ちなみにゲーム内ではツヤ消しをしてるだけで防御のステータスが上がるんだよ」
プラモデルはクリエイティブ・バトラーズの中でも妙な立ち位置で、ステータスはフィギュアなんかよりも低くなっているらしい。けれど、そこに作り手の改造や作業にボーナスが付くそうだ。
「そういうことは、もっと早く説明してくださいよ」
「すまん、すまん。それじゃあ、私はスポンジでひたすら擦るとするよ」
「いや、それくらいは自分で出来ます」
俺もスポンジを取り出して作業に入ろうとした。だが彼女は俺の手からスポンジを奪うと、代わりに俺の買ってきたプラ板とカッターを握らせた。
「何のために私が君を部屋に案内したと思ってるの? 私が細かな仕上げをやって挙げるから、君はエクステンドを改造に全力を尽くしなさい」
「わかりました。出来るか自信はないけど……」
「なーに、やるだけやればいい。君が初めてエクステンドに乗った時を思い出せ」
あのときの感覚か……。徐々に熱を帯びていくような、男の子としての遺伝子を呼び起こされるようなあの感覚。
俺はカッターを片手にプラ板を切り出していく。全体的な装甲を作るイメージだ。これまでのバイト人生のお陰で手先の器用さと無駄な知識だけはあるんだ。
「待ってろよエクステンド……今お前を改造して、誰にも負けない機体にしてやる」
俺はインターネットでロボットの画像を検索しながら、イメージを固めて装甲を切り出していく。慣れない作業は想像以上に体力と精神力を削られたが、その度に横の林檎さんが手を貸してくれた。
「ふぅ……下半身はこんなもんだろ」
「うん! いいんじゃないか? めちゃくちゃカッコいいぞ」
我ながら上手くいったんじゃないか? 作業開始から二時間。エクステンドの足回りの改造が完了した。といってもプラ板を張り付けただけなのだか、重心が下半身に寄るように大きな装甲を増設したので、原型からデザインが大きく変化した。
「よっし……! 次は上半身だ!」
「合格だよ。これは君がここまで頑張った御褒美だ」
林檎さんが俺に顔を近づける。そして優しく微笑む彼女のせいで俺は不覚にもドキッとしてしまった。顔は赤くなっていないだろうか!? 彼女の唇と俺の頬はほとんどなかった。
「ちょっ! 林檎さん! なに考えてるんですか!」
「ふぅーー!」
へ? 彼女は俺の砲に息を吹き掛けた。まるでチリを払うようにだ。
「プラスチックを切ったり磨いたりしてたんだ。小さな削りカスやゴミが出るんだよ」
「それが……ついてたんですか?」
「そゆこと、もしかして期待させてしまったか?」
「いえ、俺は普通の女性が好みなので」
平静を装って嘘を吐く。内心は心臓バックバクなんだよな……
よく見ると俺の顔や手先はプラスチックのカスでひどく汚れていた。それが気にならないほど夢中になって作業をしていたのだろう。林檎さんが新聞紙をひいていたから机は汚していないが、彼女もプラ粉まみれだ。俺は思わず吹き出してしまった。
「全く、君は失礼だな。そんなに笑わないでくれよ」
「からかわれた、仕返しです」
「悪かったって……けど、御褒美があるのは本当だ」
彼女は100均の袋をガサゴソと漁り始めた。そして、その中から取り出したのは100均の商品とは思えないほど厳重に密封された小降りのケースだ。
「ここまで、頑張った鋼少年へ。君にこれを使って欲しい」
「これは……」
彼女がくれたケースに収まっていたのは金属のパーツだ。プラモデルの部品というよりは俺の工場なんかで作る部品の様にも思えた。
「ほら、新幹線で言ってただろ? 新しいエンジンを作ってるって、それを君のために急ピッチで製造したんだ」
「まじっすか! てことは、準備ってのは……」
「社員に作らせたこの部品を受け取りにいってたんだよ。君に可能性を託すために」
「本当にありがとうございますっ!」
「礼なんていらないさ、私と鋼太郎少年、そしてエクステンドの勝利の為なんだから」
彼女はビールの缶を開けて、俺にはリンゴジュースを飲むように迫った。受け取った帰りに偶然、100均を見つけたから、スポンジと一緒に買ってきたものらしい。
「すこし早いかもしれないが、私たちの世界一に乾杯しようじゃないか?」
「いや、流石に気が早すぎますよ、けど乾杯ですね」
林檎さんの笑顔は綺麗だった。自信過剰で、たまにイラッとすることもあるが、俺はこの人が好きなのかもしれないな。
「林檎さん……このパーツ、しっかり使いこなしますよ!」
俺は手の中で相棒の心臓とも言えるエンジンを弄んだ。所々に何やら凹みがあるがわかる。もしやこれは……
「気づいたようだね、鋼太郎少年」
このパーツの凹みが俺のエクステンドの腹部に埋め込むためのものなんじゃないか?
「思った通りだ……綺麗にハマった」
またエクステンドの雰囲気が変わった。たった一つの部品を、付け替えてもこんなに印象が変わるなんて、プラモデルの改造というのは奥が深いんだな。
「残るは腕と武装だが、あの剣使いにくいなら、無理して使わなくていいんだぞ?」
「大丈夫です。それについても改造案はあるので、それにこのエンジンのパワーなら使いこなせる気がします」
俺は下半身の改造の要領で、頭と腕を仕上げていく。腕は近接用により頑丈に、頭の角を大きくして、頭突きなんかを戦闘に混ぜてみるのもアリかもしれない。
「背中なんかにはスピードを上げるための羽を付けるなんてどうでしょう!」
「すっかり沼にハマったね、鋼太郎少年。だが時計を見ろ……」
彼女が指差した時計の針はなんと午前2時を回っていた。本当に夢中になりすぎていたようだ。携帯の通知なんかも貯まっている。
「羽根をつけてみたい気持ちも分かるが、今日はここまでだぞ」
「そうっすね……1日24時間が短く感じて来ました」
「仕方ないさ、限られた時間で一番いいものを作れるのが大人なんだから、むしろ短さを楽しんでこそだぞ」
彼女はちゃんと俺の部屋も予約してくれていた。林檎さんは俺を部屋から追い出すと、すぐに爆睡したようだ。
「ありがとう、ございました」
結局、俺は自室にもどっても作業を続けた。鞘には抜刀の為のとある仕掛けを施していると、もう朝日が昇っていた。
「結局一睡もしてないな……けど、完成したぜ。俺だけのエクステンド、いや! 今日からお前はエクスコードだ!」
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