合体ってええよな
「なっ!?」
エクステンドの腕が融解する! 高熱のレーザーだった。状況が呑み込めない
「しくった……!」
ワンテンポ遅れてレーザーの2発目がエクステンドを貫かんと煌めいた。俺は反射的に目を閉ざしてしまう……。きっと次の瞬間には高熱のレーザーがコックピットを貫き、ゲームオーバーになってしまうだろう……
「やらせないっ!!」
だが、レーザーを遮るように空色の機体が俺の前に割って入ってきた。
「コウくん! 大丈夫っ!」
「なんとか……! けどミフユがそのままじゃ!」
ミフユは無策に俺を庇ったわけではないようだ、倒したプラモデルを盾のようにしている。しかし、それだけではレーザーは防ぎきれなかった。盾にしていたプラモデルが爆散し、スノーテンドも吹き飛ばされてしまった。
「やってくれんじゃねぇか!!!」
俺は弾き飛ばされたスノーテンドを抱き抱えるように物陰へと隠れた。スノーテンドの綺麗だった空色の塗装は熱で剥がれ落ち、完全に防ぎきれなかったレーザーであらゆるパーツがダメージを受けていた。
「やっちゃったなぁ……"未完成"とはいえ、防御力もスピードも思ったより出なかった……」
俺たちは廃墟ビルの中に身を隠す。ここはセーブの役割を果たすポイントらしく、襲われることもない。俺たちはコックピットから降りて機体の損傷具合を確認していく。俺のエクステンドは片腕こそ壊されているが、他は大したダメージを受けていない。
「ありがとう、ミフユ。なんとか俺のエクステンドはまだ動けそうだ……けど」
そう問題はミフユのスノーテンドだ。パーツが溶け落ち、フレームが剥き出しになっている。これでは下手に稼働させると彼女の機体は壊れてしまうだろう。
「ううん、大丈夫だよ。熱耐性の作りが甘かっただけだから……やっぱり多少の可動域を犠牲にしてでも装甲をもっと積めば……いや、それではスピードが……!」
機体をこんなにボロボロにされているというのに彼女は、改修点を次々とメモしている。彼女のその姿勢からは、本当にこの世界と真剣に向き合っていることと、プラモデルが好きだということがハッキリ伝わってきた。
「にして、あのレーザーは何だったんだ……」
俺たちにこんなに痛手を負わせた高熱のレーザー。あの攻撃力はこのクエストに見合っていないはずだ。1撃目で俺を仕留められないことから推測するに、射撃の精度こそ完璧ではないか……
「それでもやっぱり難易度に合わないんだよな……」
「乱入クエスト……ってやつかも」
ミフユがボソッと呟いた。
「乱入……そんな物まであるのかよ」
「うん、一定確率でクエストに現れプレイヤーを妨害する敵なの、けど倒した際のボーナスも大きいわ」
ミフユは所持しているアイテムのうちの一つ、双眼鏡でレーザーを撃ってきた方を眺めていた。
「なるほどね、戦車系の改造機だわ。昔モデラー雑誌の大賞を受賞した名作のデータを使ってるのかな? コウくんも見てよ!」
ミフユはやや興奮ぎみに俺に双眼鏡を手渡した。きっとプラモデルが大好きな彼女のことだ。名作に出会えたことが嬉しいのだろうな。それに俺もどんなプラモデルなのか、心の何処かで嬉々としていた。
大きな主砲を持った戦車のプラモデルだ。ベースこそリアルな戦車のプラモデルを使ったんだろう。けど、その主砲はSFチックな大型のレーザーライフルに交換され、エネルギーパイプが電源と思われる部品に繋がれている。
「俺みたいな素人でも判るぞ、あれは凄いな」
「そうだよね! コウくんにも判るよね!」
ミフユは近くで作品を見たいとウズウズしているようだった。敵から発見されないギリギリのところまで、建物から身を乗り出している。なんか林檎さんみたいだな。プラモデルやメカが好きな人間はみんなこうなのだろうか?
けど俺は彼女達に抱いた印象は軽蔑ではなく羨ましいという物だ。好きになものに夢中になっている姿は輝いていたからかもしれない。
「さてと、どうするコウくん?」
ミフユは一呼吸おいて俺を試すように問いを投げた。何故だろう、段々ミフユの雰囲気が委員長の物からかけ離れていく。普段はおとなしい彼女が、今はこの状況を楽しんでいるように見えた。
「どうするって?」
「これからよ、このクエストはゴールすればクリアだから、戦車の主砲を避ければクリアできるの」
なんだそんな事か。たしかに彼女のいう通りだ、だが、俺は頭で"おかしなこと"を考えていた。
「ごめん、俺、変な事を考えてるぞ」
「奇遇だね、私も」
俺たちはレーザー戦車の方を向いた。そして下品だと分かっていても俺たちは中指を立てて嗤った。
「「あの戦車を墜としてやるよッ!」」
思わず俺たちは吹き出してしまった。まさか、あの委員長が中指を立てて暴言を吐くなんてな。彼女も俺がここまで好戦的になっているのが面白いのだろう。
「ふふ、ははは! 気に入ったよコウ一等兵!」
「ありがたきお言葉です、ミフユ兵長! ですがどうやって勝ちましょうか?」
「安心しろ策はある」
ふたり揃ってロールプレイにのめり込んだ。俺の芝居は少し嘘臭いがな。しかし策か……委員長はどんな策を思い付いたんだ?
「まずレーザー戦車の弱点だが、鈍足だという点が挙げられる。要は接近できればいいのだよ」
「けど、レーザーで妨害されるってわけか……じゃなくて、ですね!」
ミフユは俺のエクステンドの腕の間接を凝視する。そして、パチンと指を弾いた!
「やれる!」
彼女はスノーテンドに飛び乗ると、その腕にナイフをワイヤーで締め付け、埋め込んだ。ナイフの刃先が掻爪のように腕に固定されたのだ。簡易の武器腕というやつだろう。そして、その武器腕を俺のエクステンドの欠けた腕に無理やり嵌め込んだ。
「合体したのか……?」
「合体じゃないよ、互換性があるだけ。私のスノーテンドはギルド戦、つまり仲間と戦うことを前提に改造をしてあるの」
倒されたり、動けなくなっても、武器や予備パーツとして仲間をサポートするって訳か。献身的で真面目な所はこの世界でも変わらないようだ。彼女は使える部品を次々と取り外しエクステンドへと装備させて、その細身な体をエクステンドのコックピットへと滑り込ませた。
「完成! エクスノーテンドよ!」
空色と白のボディーの俺たちの相棒は少々、ツギハギで歪な所もあった。だが、それでも俺たちの思いがギッシリ詰まった機体になったのだ。
「エクスノーテンド……悪くない!」
彼女曰く、無理に装備を一つの機体にまとめたせいで乱れたバランスを調節するために、コックピットに乗ったらしい。あくまで彼女が担当するのはバランスの制御だけ。レーザー戦車を倒せるかは俺次第らしいと念を押された。
「やってやんよ……!」
「その粋だよ、コウ一等兵!」
俺たちはエンジンをスタートさせた! スノーテンドのバッテリーを装備したせいだろう。そのスピードの速さに一瞬、操作が追いつかない。
「任せて!」
ミフユがブレーキを踏んでくれた。機体は、なんとか減速しバランスを取り戻す。すこし危なかったが俺も今ので感覚を掴めた!
「そろそろ、射程に入るぞ、構えろコウ一等兵!」
「分かってる!」
あのレーザーは、そう何度も撃てるものではないらしい。撃てても一発だ。それを耐えればチャージという隙ができる。あとは、そこに武器腕のナイフを……!
「コウ一等兵! 射程に入った、これより、レーザが照射されるまでの秒読みに入る!」
3、2、1のカウントダウンと共に砲口が煌めいたのがはっきりと見えた。
「凌いでやるよ!!」
俺は操縦ハンドルに全体重をかけて引いた! 機体は急旋回し、重力の負荷で全身が軋む。スノーテンドの装甲を装備してなければ、この負荷には耐えられなかっただろう。
「ぐぅぅう……!!」
俺は機体を、加速させレーザーを避けたのだ。だがレーザー戦車も光線を放ったまま、砲身を回転させ俺たちを再び捉える。
「負けるかよぉ! この機体には俺とエクスノーテンド、そしてミフユとスノーテンドの勝ちたいって気持ちで出来てるだァァァ!」
避けきるのは不可能だった。それでも……! それでもなァ!!!!
俺は……いや俺たちはエクスノーテンドが耐えてくれることに賭けた。敢えてレーザーに飛び込み、全速力でレーザ戦車を目指す!
「「届けェェェ!!」」
俺たちはその手を伸ばす、勝利を掴み取るために全力で手を伸ばす!
「見事だ! コウ少年、そしてミフユ少女!」
俺たちの刃はレーザ戦車に届いた。そして爆発に巻き込まれて、俺たちはゴールへと吹き飛ばされた。だが、俺は見逃さなかったぞ、戦車の姫野コーポレーションのロゴマークを!
「はぁ……はぁ……もしかしてこれって」
「そうよ、コウくん! 私たちの勝ちだよ!」
ミフユが抱きついてきた。コックピットの中ではステージクリアのBGMが俺たちを称賛してくれたが、そんなものが聞こえなくなるくらいにミフユは、はしゃいでいる。
「ちょっ……ミフユ! 苦しい!」
へ? と疑問を浮かべる彼女。だがすぐに冷静さを取り戻したらしい。顔を真っ赤にして、コックピットから飛び出した。
「ごっ、ごめんね! 私、嬉しくてつい……」
「いいよ、ミフユがこのゲームをどれだけ愛して楽しんでるか、充分に分かったから」
「お恥ずかしい……今日はサブアカウントだったから大人しくいようと思ったんだけど……」
サブアカウント? そういえば、スノーテンドは未完成だとも言っていたな。彼女は何者何だろうか……
「ふふ、若いっていいねぇ……コウ少年は鼻の下が伸びきってるぞ!」
「伸びてない! ていうか……やっぱり貴女でしたか、アールさん!」
ププッと人を小バカにしたような腹立たしい声の主を俺は知っている。そう、戦車の爆発に巻き込まれたのは俺たちだけじゃない。遊び半分で戦車のCPUを操ってたい彼女も吹き飛ばされてきたのだ。昔のギャグ漫画みたいなアフロヘアーの悲惨な姿になっている。それでも尚、余裕たっぷりな彼女は羞恥心というものがないのだろうか?
「コウくん……この人は?」
「アップルガールこと、アールさん。姫野コーポレーションの社長で俺を宣伝役に選んだ張本人だ」
「初めまして……いや、この雰囲気から察するに君は学校で会ったメガネの美少女ちゃんじゃないか!」
「もしかして……姫野林檎さん!」
アレ? この二人って面識あるのかよ。その方が話は早いけど。てかアールさんは、なんで雰囲気でアバターからリアルの人が判るんだよ……!
アールさんはことの顛末を話してくれた。クリエイティブ・バトラーズの運営には姫野コーポレーションも関わっているらしく、今回は運営側の人間としてゲーム内にログインしていた彼女が俺たちを見つけたのが始まりらしい。
クエストに挑んでいる俺たちを見つけたアールさんはイタズラとして、運営の権限を乱用し、乱入クエストを発動させたそうだ。彼女は俺の実力を見るためのテストと称しているが、その真偽は定かではない。恐らくは悪ノリだろうが……。
「いやぁ……にしてもエクスノーテンドかっこよかったよ! そうだ、コウ少年に提案なのだが、ミフユ少女とギルドを結成してはどうかな?」
「確かに、同じエクステンド使いなら、姫野コーポレーションの宣伝にもなるからな……」
俺はミフユさえ良ければと、彼女に手を差し伸べた。だが彼女は気まずそうに目を剃らした。
「ありがとう、誘ってもらえて凄く嬉しい……けどさっきも言ったとおり、ミフユはサブアカなの……それに本アカではもうギルドに属しているから」
そうだったのか、それなら仕方ない。にしてもギルドか……
今回みたいに誰かと強力するのも悪くないな。いつかは組んでみたいな。
□□□□
ゲームからログアウトした冬美に近づく一人の少年がいた。鋼太郎と同じ制服を着た金髪のチャラチャラとした少年だ。
「いやぁ、お疲れ様っす! 委員長!」
「龍崎くん……どうしてここに?」
龍崎と呼ばれた少年も、クリエイティブ・バトラーズにログインし、冬美と鋼太郎の活躍を観戦していたようだ。彼はニヤニヤしなが冬美にちょっかいを掛ける
「どうでしたか? 愛しの鋼太郎くんとのラブラブタッグは!」
「うるさい、そういうのじゃないから! それよりもアンタは何してるの?」
「監視っすよ、委員長が鋼太郎のギルドに行って、俺たちを見捨てないように」
「バカね、私が裏切るわけないじゃない。それに本当の私と、今の冬美は別人なの」
「まぁ、そうっすね……《スノーレディさん》」
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