俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

負けられない喧嘩

公開日時: 2020年10月2日(金) 23:16
文字数:4,244

俺はバスの中で一件一件、メールを確認していた。機能は作業に夢中で読めてなかったからな、眠気覚ましにも調度良かった。メールのほとんどは妹弟達からの連絡にクリエイティブ・バトラーズの告知だが、そんなメールのなかに珍しい人物から届いたものがあった。



「これって委員長からだな」



「なんだいラブレターかい?」



「やめてください。けど、普段は委員長からメールなんて来ないんだけどな」



俺はメールの中身を見て驚愕した。彼女のメールは先日のリアナとの戦いを見ていたという書き出しから始まった。そしてひとつのファイルが添付されている。



「このファイルって……」



「どれ? 私にも見せてくれよ」



林檎さんも、そのファイルの内容に驚きを隠せなかったようだ。だが俺たちの表情は徐々に笑みへと変わっていった。



「こんなものを貰ってしまっては負けられないな、鋼太郎少年」



「えぇ、なんで皆、俺に負けられない理由を増やすんでしょうね」



※※※



「逃げずに来やがったな……半裸野郎」



「当たり前だぜ、リアナ! 俺達はお前をぶっ倒す!」



「やれるもんならやってみろよ」



ギラギラと輝く彼女の視線と俺の視線がぶつかる。フィールドは夕日が輝く荒野、クリエイティブ・バトラーズの中でも真剣勝負の際に用いられる定番の場所だ。映像として配信こそされるが、直接現場でこの戦いを見届けるのはレフリーも努めるアールさんだけだ。



「期待してるよ、コウ少年」



「任せてくださいよ、俺はもう絶対負けません!」



「リアナ少女はこれで名誉挽回してみせろよ」



「言われるまでもねぇよ! さっさと始めようじゃねぇか!」



彼女の荒々しい口調に答えるように夕日を背にしてエボリュートが現れる。黄色の塗装に黒のストライプが入ったその塗装はまるで彼女の危険さを表す警告のようだ。全身の装甲は刃のように鋭さを増し、ヘッドパーツは特徴的な4つ目の機体が俺を見下す。



「エボリュート二式・リアナ、ここに見参!」



「初めて俺自身もプラモデルを改造したから、改めてよく分かるぜ」



エボリュート二式に秘められた力がビリビリと伝わってくる。だが俺だって怯む訳にはいかないんだよ!



「来い! エクスコード!」



「へぇ……素組のクセに結構成長したな」



俺の新しい相棒、エクスコードがエボリュート二式の前に着地する。全身をプラ板で教化し、攻撃力と防御力を上げた俺の自慢の改造機だ!



「それでは、始めようか。両者スタンバイッ!」



アールさんが点に向けて信号銃を構えた。あれが撃たれるのが開戦の合図だ。俺は生まれ変わった相棒の操縦ハンドルを握りしめた。新しいエンジンに入れ替えたお陰で細かな出力も調整できるようになったが、その分操縦も複雑化した。

改めてハンドルを弄って、機体の全身をほぐす。多少、操作に癖があるがなんとかなりそうだ。



バァァン!!



「「オラァァァア!!」」



信号弾が天高くで弾けた。それと同時に俺たちがとった初手は全く同じだった。


頭突き、自分の目の前の敵に渾身の頭突きをぶつけ合った。互いの角がぶつかり合い火花を散らす。



「ちょっとは頑丈になったか?」



「当たり前だッ! 油断してんじゃねぇぞ!」



俺は一歩、下がって、蹴りを繰り出す。だがエボリュート二式は自分も足を上げて威力を相殺した。俺は拳を繰り出すも、彼女は簡単に腕をつかんで捻り上げる。



「ぐぅぅ……」



「確かに機体は進化しているな……けどお前自身はこの間から何も成長してねぇな!!」



「それはどうか、試してみろよッ!」



「上等じゃねぇか!!」



彼女の鋭い拳がエクスコードの顔面を捉える。だが俺にはその攻撃がわかっていた。彼女の拳をいなしてカウンターパンチを叩き込む。



「へっ! 初手は俺が取らせてもらったぜ!」



「野郎……私の動きがわかったのか?」



「友達に教えてもらったんだよ! アンタの動きにはある程度、癖があるってことをな」



そう、委員長が送ってくれたメールのお陰だ。彼女は俺の走る癖なんかも覚えるくらい観察力に長けていた。そんな彼女が俺に役立ててくれと届けてくれと送ったメールのファイルには、リアナの過去の映像から動きの癖が分析されたデータが入っていた。俺でもすぐ実戦で使えるくらい、分かりやすくまとめられたそのデータには「絶対勝ってね」と一言が添えられている。



「この決闘は委員長の為にも負けられねぇんだよ!」



「ははっ……動きは研究されてんのか、ちょうどいいハンデだ!」



リアナの猛攻が始まりやがった。彼女はブースターを逆噴射させて一気に俺たちから距離をとる。そしてホルスターに納められていた2丁拳銃を抜いた。どちらも大型化され強化されているのが一目でわかる。



「一発殴ったくらいで調子乗んなよ! 動きがわかったくらいで勝った気になるんじゃねぇ!!」



エボリュート二式の2丁拳銃が容赦なく火を吹いた。とても避けきれる量じゃない弾幕に俺たちは防御を強いられてしまう。必死に前腕で弾丸を防ぐが、弾は貫通性に特化したものを使っているようだ。増設したプラ板が無惨に剥がされて行く。



「これなら、避けられねぇだろ!」



「しまっ!」



彼女に懐に潜り込まれてしまった。銃を降り上げて、エクスコードに叩きつける。そして防御が解かれた俺たちを2丁拳銃の弾丸が容赦なく襲った。



「がぁぁァ!!」



「ざまァ見やがれ!」



エボリュート二式の大胆な回し蹴りがエクスコードの頭部をとらえた。左目を潰され、画面の左半分の映像が乱れてしまう。




「これで左半分からの攻撃なら見えねぇだろ」



「クッソ!!」



リアナが繰り出す、近接と二丁拳銃を織り混ぜた攻撃が左半身を集中的に狙ってきた。ある程度の攻撃には予測がつく。それでも、分かっているというのに防御が追い付かなかった。



「これでどうだァァァ!!」



彼女の裏拳が俺の防御を上回る威力でエクスコードをぶっ飛ばした。防御に使った左腕には大きくヒビが入り、勢いよく広野の砂に突っ込んだせいで、転ばされてしまった。


俺はエンジンの出力を40から60まで繰り上げて反撃を試みる。だが……



「ほら、ゲームオーバーだ」



「まだ…まだ終わって……」



「終わりなんだよ」



ガチャン


また、あの音だ。彼女が銃を構えるあの金属音だ。エクスコードが顔を上げた瞬間、銃を押し付けられたのだ。だが俺は帯刀している20センチ斬刀に手を掛け無理やり立ち上がった。



「まだッ! 終わらせねぇよ!!」



「そんな姿勢で、その刀を抜いても、また鞘に引っかかるぞ!」



リアナの言う通りだ。だが、俺だって同じミスはしない!



「エクスコード・鞘割れ式抜刀!」



俺の命令に合わせて鞘が二つに割れる。もともと、この鞘は二つのパーツが刀を挟むような形で鞘としての体裁をなしているんだ。だから接続部を削って、鞘を脆くすれば!



「コイツ、やりやがったな!」



無理な姿勢からの抜刀時に鞘か負荷に耐えきれず二つに割れる! 鞘が二つに割れればむき出しになったメタルパーツの刃が相手を斬り倒すんだ!



「ぶっ倒してやんよ!!」



俺の刃がエボリュート二式を切りつける。だが、さすがはリアナだ。すぐに防御に移って致命傷を避けやがった。


ギリッ……ギリッとガードした腕に俺達の刃が食い込む。



「はは、はは! 楽しくなってきたじゃねぇか! コウ!」



「あぁ! 最高だよ、こんな高揚は始めてだ、だからこそ俺は……」



「だからこそウチは……」



「「負けたくない!!」」



リアナが無理やりバックして刀から逃れた。再び彼女の2丁拳銃の弾丸がエクスコードを振り掛ける。彼どうやら実弾をエネルギーでコーティングできるようだ。銃口に負担は掛かっているようだが、その威力は厄介だ。


俺は多少のダメージ覚悟で刀を大きく振り回した。腕を狙って銃を捨てさせるためだ。



「その戦法は前にも見たぞ!」



「チッ……そうだったな」



リアナは刃が届く前に銃を捨てて、エクスコードの足元に滑り込んだ。そのまま彼女の鋭い蹴りがエクスコードの腹部に突き刺さる。ダメージ箇所から全身にヒビが入り、機体のバランスが崩れた。



「ウチが素手なんだ、まさか男の癖に素手の女の子に獲物を抜くわけないよな?」



「そんな自己中な!」



彼女が俺の刀を両腕で掴んだ。そして刀に膝蹴りを打ち込む。本来日本刀とは平からでも力をかけなければ折れずに衝撃を逃がして曲がるのだが、俺の刀はプラスチックだ。そんな衝撃の掛け方をすればメタルパーツを仕込んでいようが、簡単に折れてしまう!



「チョロイぜ!」



俺はすぐに刀を捨てて反撃に転じようとした。だが彼女は刀を伝ってさらにもう一撃エクステコードに打撃を入れる。



「この女ァ!!」



「ウチはリアナだ!!」



俺はてっきり彼女が最も得意とする近接は不良のようなステゴロの殴り合いだと思っていた。だが彼女は蛇のようにエクスコードにエボリュート二式よ腕を絡ませ、そのまま締め付けてきた。



「クッソ、絞め技かよ!」



「勉強不足だったな、コウ! まぁ……最近は使ってない格闘パターンだからな」



彼女の締め付けがキツくなり、バキッとエクスコードの左腕が折れた。そのお陰で俺は彼女の拘束から逃れることができたが、エンジンから供給されるエネルギーが割れ目や損傷部から漏れだし始めた。



「クッソ! 機体の出力が」



「オラオラァ! どうした? ウチに勝つんじゃないのかよ!」



当たり前だ……勝つに決まってんだろ!



「来いや……コウ!!」



「やッてやんよォォォ!!」



俺はコックピットの中で吠えた。彼女の挑発に乗るようにだ。俺は操縦ハンドルを名一杯押し出す! 彼女の機体の特徴的な四ツ目のセンサーが俺を威嚇するように煌めいた。


だが……俺だって負けらんねぇ! そうだろ、エクスコード!



「出力アップ60から80へ!」



俺は拳を真っ直ぐ突きだした。彼女の反撃の拳とぶつかり合う。



「温いな?」



「それは……どうかな?」



エクスコードの拳はエボリュート二式に受け止められる。そして殴った俺の方がダメージを受けた。拳が砕けてそこからさらにエネルギーが漏れる。



「最後はあっけないな……コウ?」



「そいつはどうかな? エクスコード・モード解放クリムゾン!!」



「は? モード解放だと! そんな機能はこのゲームに存在しねぇよ!」



「ないなら作る、それが俺たちモデラーだァァァ!」



俺はエンジンのリミッターを外した。全身のひび割れからエネルギーが溢れ出す! だがそれでいい! 俺は流れ出したエネルギーをエクスコードに纏わせるイメージで機体を動かした。流れ出すエネルギーがエクスコードの外装をしっかりとコーティングして、機体は紅色に燃え上がる!



「エクスコード・クリムゾンバースト!」

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