俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

クラス委員長は空色!

公開日時: 2020年9月6日(日) 15:47
更新日時: 2020年11月8日(日) 21:11
文字数:4,655

空中から委員長のエクステンドが飛来する。草原の華々とよく似合うブルーカラーの色合いに、俺は思わず目を奪われた。


「すごい、綺麗だ。コイツもエクステンドなのか?」


「ううん、その子はスノーテンド。私の"専用"モデルよ」


コックピットから委員長が飛び降りてきた。足取りを弾ませながら、俺の方に駆け寄ってくる。


「この世界では始めましてだね、コウ君! 私のアカウントネームはミフユだよ」


「よろしくな、委員長……じゃなくってミフユ」


なるほど、委員長の本名は冬美だから、前後を入れ替えてミフユか。彼女のアバターは、何処かの女社長と違って雰囲気とマッチしている。


「フユミのアバターは綺麗だな」


「えっ……! ちょっと恥ずかしいよ!」


彼女のアバターは空色の軍服を纏い、メガネもより未来的なデザインのものを付けている。しかし何処か違和感があるな……


なんというか胸元の膨らみが委員長らしくないと言うか、大きすぎると言うか……


「こら! ほんとに恥ずかしいからジロジロ見ないでよ」


「悪い、つい気になったから。けど委員長にミフユの姿はよく似合ってるよ」


「そう? 嬉しいかも!」


ミフユは口許を隠すように笑ってみせた。というか……俺のアバターって上半身が半裸なんだよ。これじゃあ、ただの変態にしか見えねぇんだけど!


「コウ君のアバターはなんというか、個性的というか力強いね……」


「あはは、フォローありがとう……けど俺も思う、このアバターを作った人のセンスは変人だ」


うん、いつかプライベート用のアカウントも作成しよう。ちゃんと恥ずかしくないものを用意するんだ。


それにしても、ミフユのスノーテンドは俺のエクステンドとパーツこそ同じだが、別物のようだ。


「なぁ、ミフユ。この青いエクステンドは専用って言ってたけど、ゲーム内のイベントとかで、入手したのか?」


「ううん、塗装よ、パーツもすこし削ってシャープにしてる。専用モデルや特別なカラーを作れるのもプラモの楽しみだから!」


流石の俺でもプラモデルはスプレーや専門的な機材で色の変更が出来るのは知っている。だが、こんなに鮮やかに塗れるのには驚きだ。ミフユの持つ技術の賜物なのだろうか?


「けど、色を変えても、こうはならねぇだろ……なんか質感とか違うし、ミフユのプラモデルは何処かリアルだ」


スノーテンドの装甲の質感はプラスチックが持つ独特の光沢がない。それに部品の影が明確になって、メリハリが付き引き締まった印象がある。


「確か、コウ君はプラモに、触った事がないんだよね。だったら少し教えてあげるね」


「ほんとか! 頼む、出来れば俺にも出来るやつを」


ミフユは、端末から何枚か画像を選んで見せてくれた。スノーテンドの製作過程の写真だ。そこには影が曖昧なプラモと黒いペンが写っていた。


「影が濃いのは、スミ入れをしてるの」


「スミ入れ? イカの下処理にみたいな?」


「コウ君は寿司屋でもバイトしてたから例えが独特だね。けど違うよ、スミ入れっていうのは、模型用のマーカーで、隙間をなぞることを言うの」


「今度、教えてあげるよ」とミフユは言ってくれた。たしかにパーツの隙間をマーカーでなぞるくらいなら俺でも出来そうだ。


「それから質感はトップコートってスプレーで変えてるんだ。」


「トップコートって言えば爪に塗る奴か?」


妹達が欲しがってのを聞いたことがある。ネイルを長持ちされる役割があるらしいが、そんな物をプラモデルに塗るのか?


「まぁ、普通の人ならそう思うよね。けど違うの、トップコートっていうのは艶を消したり、塗料を剥がれにくくするスプレーのことよ」


「そんな専門的なのか……」


「ネイルと原理は変わらないんだけどね、こっちはスプレーを吹かす上での準備がいるから、初心者にはまだ早いかも」


スミ入れにトップコートか……たった2手前だと言うのに、エクステンドとスノーテンドの完成度には明確な差があった。それは俺のような素人でもわかる。


ミフユ専用機・スノーテンド、このプラモデルはいったい、どんな動きをするのだろうか? 俺は興味が押さえきれなくなった!


「ミフユ! さっそくで何だが、俺と手合わせしてくれよ」


エントリー! という俺の声に応えるようにエクステンドが現れる。今度は空からではなく、草原に隠された出撃ゲートからゆっくりと登場する演出だった。どうやら出撃にもパターンがあるらしいな。


心が踊るぜ、さぁ行こう、エクステンド!


「まって、コウ君!」


ミフユがコックピットに飛び乗る俺を制止する。彼女は、先走る俺にクリエイティブ・バトラーズの楽しみ方も教えてくれるそうだ。


「たしかにプレイヤー同士の対戦もこのゲームの醍醐味よ、けどプレイヤーが協力して攻略するクエストは報酬が凄く豪華なの!」


「報酬……? ゲーム内で使えるアイテムとかか?」


「まぁ、それもあるけど、このゲームの運営はバンズ社を始めとした、大手玩具メーカーが合同で行っていて、店で使える商品券なんかを配ってくれるわ」


それなら商品券を使って、妹や弟に玩具をプレゼントできるじゃないか!


「それから……」


ミフユは俺のエクステンドの腕を見渡す、そしてそのまま背後に回った。何かを探しているのだろうか?


「コウ君のエクステンドはまだ、武装がないようね」


「あはは、まぁそうだな……」


なるほど、ミフユは俺の武器を探していたのか。林檎さんから貰ったエクステンドの背中にはマシンガンが装備されていたが、どうにも肌に合わずにこっそり外しているのは、内緒にしておこう。


「クリエイティブ・バトラーズの世界ではクエストを達成すれば、3Dモデルの設計図も手に入るのよ」


「3Dモデル……?」


「お店に備え付けの3Dプリンターに読み込ませれば、武器を作ることができるの、当然難しいクエスト程、手に入るの商品は豪華になるから」


よく、練られているんだな。


てか、こういう説明は林檎さんが俺を宣伝担当に選んだときに、するべきじゃないか? という疑問が浮かんだが、今は胸にしまっておこう。


「ん? どうしたのコウ君、難しい顔して」


「おっと! 悪い、少し考え事というか……不満というか」


「うーん……よくわからないけど、まずは私とクエストを回って報酬を稼ごうよ! コウ君の武器探しも兼ねて!」


武器探しか……林檎さんも何かを作っているらしいし、前に使った短剣のような隠し武器のような物、または近接を想定した盾のような武器を見つけたいな。


「ここから、クエストを選べるよ」


「ありがとう……待て、いっぱいあるけど、どらがいいんだ?」


「たぶん、コウ君が欲しいのは近接特化の武器だから、難易度的にもこれだね!」


ミフユは無数のクエストの中から、中級の難易度の物を選んでくれた。簡単だったという意見や、初心者向きという意見が多くあるクエストらしい。


「クエスト名は突破戦線……?」


「そう! 廃墟街のジオラマを舞台に無数の罠やモブを潜り抜けて制限時間内にゴールを目指すの!」


「ゴールを目指すってことは、敵を回避する技術も必要になるわけか」


「コウ君は頭の回転が早いね。このゲームは作戦を立てるのも醍醐味だから、協力してクリアしよ!」


ミフユが俺の手を取った。そしてクエストの募集欄に俺と自身のアカウントネームを登録していく。


「行くよ! 転送するまでに機体に乗って」


「お、おう! 頼りにしてるぜ!」


コックピットにカウントが表示された、10から始まったカウントが減る度に、緊張が走る。俺は操縦ハンドルを握りしめ、前回の感覚を思い出そうとする。


「3……2……1」


「ミフユ兵長、スノーテンド発進します!」


キャラになりきって、そういう風にするのか、なら俺もだ。


「コウ、エクステンド! 出撃する!」


俺達の機体に妙な輪が掛けられる。これがワープゲートなのだろう。カウントが0を告げると同時に俺たちの視界は光に包まれた。


「クエストスタート!」


視界が晴れると同時に、そこは草原から廃墟街に変わっていた。辺りには戦車や戦闘機の残骸が散りばめられている。恐らく戦争をイメージしたフィールドなのだろう。


「よく出来てるな、本物みたいだ」


「コウ君! よそ見しないッ!」


ミフユが鋭く指示を飛ばした、次の瞬間だ! 廃墟ビルを突き破り、緑色のプラモデルが斧を構えて切り込んできた。


「ぐぅっ……!」


俺は、緑色のプラモデルに弾き飛ばされてしまった。攻撃力は低く設定されているようで、前回ほどのダメージではない。だが容赦はしてくれないようだな。緑色のプラモデルのモノアイが怪しく光る。


「これ使って!」


「助かるっ……! これで!」


ミフユが投げ渡したのは小降りなナイフだ。扱い辛そうだが、俺にはこれで十分だ!


俺はモノアイのプラモデルの頭を弾き飛ばした。攻撃力があの程度なら耐久も低く設定されているよな!


「ナイスだよ、まずは一体だね!」


「ミフユのお陰だよ、このナイフ借りてていいか?」


「それも良いけど、倒した敵から武装を貰うのもアリよ!」


彼女は倒した機体から斧を奪うとそれを装備した。そして背後に忍び寄っていた二体の軍人のフィギュアを切り倒した!


「マジか……ミフユって、もしかして強い?」


「勿論! 私は強いわよ」


スノーテンドは空中に飛び上がると、ヘリの模型のミサイルを回避しながら、確実に一体ずつ墜としていく。


「私は空から、貴方を援護するから、ゴールを目指しましょう!」


「おう! じゃなくてロールプレイをするなら……了解です、兵長殿!」


「フフ、生きてここから出たら結婚しよう、コウ一等兵」


え……えぇ!? ちょっ委員長!? 唐突に洒落にもならないことを言わないでくれよ……!


「じょ……冗談だからね! 役になりきってるのよ! 昨日そういう外国の映画みただけよ!」


「あはは……てか、それ死亡フラグじゃ?」


スノーテンドはブースターを吹かせながら凄まじさスピードでゴールを目指していく。俺を援護するという話はどこへやらだ……俺は彼女についていくのが、やっとだった。


「ミフユの腕だけじゃないな、あのスピードは。プラモデルの出来映えでも性能に差が出るのか、すげぇな、スノーテンド……」


けど、お前も負けてねぇよな、エクステンド。


俺は目の前のモブの攻撃を避けると、背後からナイフを突き立てた。そして、その機体の装備を奪い取る。


「これは……」


奪い取ったのは大型のチェーンソーだった。ホッケーマスクの怪人のフィギュアから奪い取った武器だから威力も充分だろう。


「コウ君、その武器は確かに強力だけど、重いし、一体の敵を切断するのには時間が掛かるよ」


だからゴールを目指すのが目的なこのクエストには不向きだと彼女は言いたいのだろう。だが、


ミフユ、あんまり俺を舐めるなよ? 知識と経験、技術では劣っていても、発想でフォローしてやるよ。


「エンジン全快っ! 突っ走ろうぜ、エクステンド!」


俺はチェーンソーを突き立てた。ここが廃墟街なら道路だって脆いはず……!


ギィィィィィん!


チェーンが巻き取られる勢いで、エクステンドは加速する。俺とエクステンドはチェーンソーで地面を切り裂きながら、火花を散らして爆走する。


「あと……もう少しッ!」


無論、そんな間違った使い方をすれば、すぐにガタが来る。だが、充分に勢いがついた。俺はチェーンソーを投げ捨て、ゴール目指して、背面に取り付けられたすべてのブースターを点火する。


これで一気にゴールまでの距離を稼いだ。制限時間まで余裕もある。


「しばらくはここでモブを倒してスコアを……」


その為に俺はナイフをもう一度構えた。だが……


真っ直ぐなレーザーがエクステンド腕を貫いたのだッ!!

◇宣伝◇


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