俺達のエクスコード!

貧乏高校生! 女社長とゲームとプラモで世界を目指す!!
雪年しぐれ
雪年しぐれ

紅は闘士のごとく

公開日時: 2020年10月7日(水) 07:18
文字数:4,326

「エクスコードが紅く燃えている……」


その光景はアップルガールことアールにとっても驚愕の光景だった。真っ白な装甲のエクステンドが紅く煌めいている。


「私聞いてないわよ! 何をしたんだ、コウ少年!」


「ふふ、面白いわね……コウくん」


「はうっ! あっ……貴女は!」


アールの後ろに一人のプレイヤーがログインしてきた。やけに芝居がかったロールプレイと氷の仮面で素顔を隠す実力者・スノーレディだ。


「私もこの勝負を見せてもらっても構わないかな、社長さん?」


「勿論、構わないけど……」


間もなく開催される地区大会に向けて彼女にも機体の整備や、戦略の再確認など、やるべき準備に追われている筈だ。そんな彼女がわざわざ時間を裂いてまで、コウに興味を持つのは意外だった。


「深い意味はないさ、一つはリアナくんのことが心配だったから、そしてもう一つは……」


「もう一つは?」


「コウくんのことが好きだから」


スノーレディは清々しい笑顔でそう言い切った。そして彼女はそのアバターには似合わない体育座りでちょこんと腰掛ける。


「スノーレディ、貴女の仮面の下って……」


「仮面の下? 何をいってるのかしら、

私はスノーレディ。他の誰でもない、この世界に生きる一人の戦士だよ」


※※※


「クリムゾン・バーストだと」


「行くぜ! 相棒!!」


エクスコードの蹴りが炸裂する。とっさにリアナはガードするが、燃えるエクスコードはリアナのガード姿勢を自身の足の装甲もろとも、打ち崩した!


「なっ……お前! 捨て身か!?」


「かもな……想像よりダメージがでかい」


機体の装甲が徐々にエネルギーの熱に耐えきれず溶けているのが分かる。エネルギーを完全に解放したのだから、攻撃力はリアナのガードを上回り確実にダメージを稼げてはいる。しかし、攻撃を放つ度に発生する衝撃と負荷は、エクスコードの装甲を破壊する、言わばこの状態は諸刃の剣なんだ……


初陣だってのに、こんなにボロボロにしちまって悪いな……けど、もう少しだけ俺と戦ってくれ、エクスコード!!


「まだまだ、俺たちの勝負はここからだぁ!!」


「テメェ……まだスピードが上がるのか!?」


俺は全身のブースターを焼き切れんばかりの勢いで吹かした。一撃、一撃を放つ度に装甲が壊れてしまうのなら、装甲が壊れるまでの僅かな時間でさらに、もう一撃殴ればいいんだ!


「もっと! もっと! もっと、前に出ろォ!!」


「はは……あはは!! ウチとエボリュート二式がそんな簡単に勝ちを渡すわけねぇだろ!!」


鋭いカウンターが俺たちの喉仏にヒットした。コックピットへ映像を送るコードが集中している重要な部分への打撃だ。断線して、カメラアイが使い物にならなくなる。要は視界が奪われたのだ。俺はすぐに熱センサーに切り替えるも、その間にできた僅かな隙はリアナの勝利へ繋がるものだった。


「行くぜ! エボリュート! ウチに着いてこいやぁ!!」


「エクスコード! センサー切り替えの1秒を堪えてくれ……!」


凄まじい衝撃の乱打が俺たちを襲った。全身の装甲が崩れ落ち、リアナの一撃は内部フレームまで破壊する。熱センサーに切り替わるよりも早く、コックピットのハッチが壊された。亀裂から光が差し込み、そこからエボリュート二式の構えを伺うことができる。


「その構え……どっかで見たことがあるぞ」


一般的なキックボクシングの脇を締める構えじゃない。やや脇のパーツが開き気味なのだ。よく観察すると、彼女のエボリュート二式の間接はこの構えを取るために延長されているのがわかる。


「ムエタイだよ。ウチは常にあらゆる近接を学習し、強くなる! アンタやスノーレディをぶっ倒して世界最強になってやるんだから!」


ムエタイ……その名称には聞き覚えがあった。まだ、俺がバイトを始めたばかりのころに、先輩がその技を見せてくれた(俺をそれでハンドバッグにした)ことがあった。


「思い出した……立ち技最強の格闘技として名高いヤツだろ?」


「そうよ、このエボリュート二式の最大の改造目的は、ムエタイを扱えるほどの間接強化と感度向上」


蹴りやパンチの他に肘打ち、膝打ちを取り入れた、反撃の隙を与えない格闘技。そして、それを操る為の改造ってわけかよ……


クリエイティブ・バトラーズはゲームの世界だ。本来格闘技というのはマスターするまで、長い時間と努力を有する。だが、この世界は知識と、その動きができるフィギュアやプラモデルを使えば簡単に使い手になって楽しむことができるのだ。彼女はそれを承知したうえで幾つもの格闘技に精通しているのだろう。


「なぁ、コウ……降参する気はあるか?」


「野暮なこと聞いてんじゃねぇよ」


降参した方がいい状況だって、勝ち目がないのだって誰の目にも明らかだし、それは俺が一番わかってる。それでも俺には託された思いや願いがあるんだ。それらが俺の手を突き動かしてくれた。


「そう来なくっちゃなァ!!!」


「歯ァ食い縛りやがれ!! リィアナァァ!!!!」


俺はエクスコードの壊れた左腕に全身のエネルギーを集中させた。そして彼女のコックピットがある胸部への軌道を確実に捉える。


だが、リアナに俺の拳は届かなかった。直前で腕が負荷に耐えきれず、バラバラに砕けたのだ。


「なっ……」


「ここまでのようだな……楽しかったぜコウ」


リアナとエボリュートの渾身の一撃が俺たちにトドメを刺した。


「勝負ありっ! 勝者……リアナ少女!!」


アールさんがもう一度、信号弾を撃った。その狼煙を眺めながら、俺は負けてしまったということを痛感する。


「あーあ……また、負けちまった」


あと1歩で届いたというのに、その、1歩が届かなかった。悔しい……けど、それよりも俺の中の何かが、まだ熱を帯びたように燃えていた。


「楽しかったな……お前もそうだろ?」


エクスコードもボロボロだ。初披露だというのにここまで壊されては、この無口な相棒は納得しないだろう。それでもコイツがバトルを楽しんでいた様にも感じた。その証拠にエクステンドのエメラルド色の双眼は誇らしげに空を眺めていたのだから。


「大丈夫か、コウ?」


「はは……完敗だぜ」


誰よりも先に駆け寄って、倒れた俺を起こしてくれたのは意外にもリアナだった。彼女は「ナイスファイト」と俺を称賛してくれた。


「まさか、最後の最後でムエタイとは……結構予想外だった」


「いやウチからすれば、あの紅くなるやつ、クリムゾン・バーストだっけ? あれの方が予想外だったわ」


あぁ……あれか、土壇場で思い付いたら見事に成功したんだよな。


「あれは咄嗟のリアナの真似だよ」


「は? 私の真似?」


「ほら、リアナの弾丸ってエネルギーでコーティングして威力を高めてるだろ。それの応用というか、俺は漏れ出したエネルギーを使って機体の全身に纏わせたんだ」


まぁ、ゲーム側の過剰演出やエネルギー量が違いすぎたせいで、まるっきり別物になったんだがな。リアナが気づかないのも無理はないだろう。というか、俺自身があんな無茶が成功したなんて今考えると信じられない。


「いや、いやおかしいだろ! どうしてそんな発想が思い付くんだよ!」


「いや、なんか……隙間からエネルギー漏れてて勿体ないなって思って」


「貧乏か!!」


「うるせぇ! 貧乏だよ!」


吹き出して笑うリアナ。そんな彼女に吊られて俺まで笑ってしまった。


「いやーいい雰囲気だね、少年、少女達」


「アールさん!? 相変わらず急に割り込んできますね」


満足した表情で微笑むアールさん。そしてその後ろには、スノーレディさんまでいるし!?


「見事な試合だったよ、コウくんそれに、リアナ」


「あっ、ありがとうございます」


二人も俺たちを称賛するように拍手を送ってくれた。まさか、スノーレディさんまで来ているとは思わなかったが、彼女も俺たちの試合に満足してくれたようだ。スノーレディさんはリアナにやさしく微笑んだ。


「よかったな。見つかったんじゃないか?」


「は?」


「君が属するべき場所はコウくんやアールさんの所じゃないかのか?」


「そっ……それは……」


リアナがうつむいた。顔をすごく真っ赤にして頭から白い湯気が出ている。


「私もリアナ少女と共に世界を目指したいぞ」


「けっ……けど、ウチ酷いこといっぱい言ってるし……」


アールさんも畳み掛けたようだが、彼女はなかなか心を開いてくれない。やがて思考がオーバーヒートした彼女は立ち上がると逃げるように駆け出した。


「勝負はウチの勝ちなんだから、この話は無しだよっ! なーし!」


恥ずかしがりやで、素直になれないのは彼女らしいというか、なんというかだな……


仕方ない!


「待て! リアナ」


「なっ……離せって!」


彼女は抵抗する素振りこそ見せたが、明らかに本気じゃなかった。(本気なんて出されたら俺は生きて帰れないのかもしれないが……)ホントに手がかかるやつだ。きっと引き留めて欲しいのだろう。だから俺は彼女に頭を下げた。


「俺は確かに負けたけど、ギルドにはどうしてもリアナが必要なんだ!」


「そっそんな事、言われても……」


「頼むリアナ! 俺たちと一緒に世界を取ろう!」


これでダメなら諦めるしかないが……どうだ?


「ねぇ……コウ。今はウチ達って互角だけど、私はまだまだ強くなる。それでもちゃんと着いてこれる?」


なるほど、そう来たか。それなら答えは決まってるぜ。


「当たり前だ。俺はお前にも負けたくなんてないからな!」


「そう、それなら」


リアナはギルド勧誘画面のYESを叩いて笑った。あの写真の笑顔で笑ったんだ。勝負には負けてしまったが、彼女を救うという店長との約束は果たせたんじゃないだろうか?


「ふふ、ようやくリア少女も仲間入りか、私は嬉しいぞ!」


「そうっすね、けどアールさん、ギルドは3人必要なんすよね? あと一人は検討ついてるんですか?」


「ギクッ!?」


おい、ギクッって言いやがったぞ。まさか無計画なのか……


「ま、まぁ、私の計画では本来初日でリアナ少女をスカウトして、それから3人目を探す予定だったんだ」


「いや! なんでいつも貴女はそんなに無計画なんですか!? 仮にも社長でしょ!」


「ええーい! うるさい、ギルド・ヒメノ組結成!」


「いや! 勢いで誤魔化すなよ!」


「それにギルド名もダサい!」


えっ……確かにダサいけど、そこをツッコミのは違うんじゃないか?


「ギルド名はそうだな、私たちは姫野の宣伝約なんだし、ヒメノ・エクステンダーズ!」


「それだわ! 採用させて貰うわね!」


俺の疑問は何処へやら二人は盛り上がってギルド登録欄を操作している。


けど、ヒメノ・エクステンダーズか。悪くないな。商品名にもなっているエクステンドという単語はextendと書き、拡張や広げるといった意味を持つ。姫野コーポレーションの宣伝役である俺たちにとっては一番のギルド名なんじゃないだろうか?

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