プラモデルを愛してる作者がお送りしまーす!
「あはは……コウ、いや鋼太郎少年よ。何故こうなった?」
「全部、悪いのは貴女ですよ。林檎さん」
俺たちは加奈に連行されて、居間に正座させられている。そろそろ足が痺れてきたというのに、加奈はムスっと俺たちを睨み付けるだけで、何も喋ろうとしない。
「なぁ……加奈、誤解なんだ。俺たちはゲームをしていただけなんだ。その証拠にヘッドギアを被ってただろ?」
「ホントに……? そういうプレイじゃなくて?」
コイツ……兄を何だと思ってやがるんだ。
「誤解だぞ、加奈少女よ。大体、私がそんな変態みたいなプレイをすると思うか?」
「私は林檎さんの事を知らないけれど、変な人だってのは明白ですよ」
「はぅっ! なぁ……鋼太郎少年、君の妹さんは厳しいな」
まぁ、母ちゃんに似たからな。家ではホントに母親のような役割を担当してるし、お袋体質なのだろう。
「私は、ちょっと周りより天才なだけで、決して変な人ではないぞ!」
いや、天才かも知れないが、林檎さんは間違いなく変人だ。さらに言えば勢いで周りを振り回す厄介な変人だ。
「なら、兄と林檎さんは、本当は何してたんですか?」
「だーかーら! クリエイティブ・バトラーズだって。プラモデルに乗ってフィギュアを倒してきたんだ」
加奈は俺たちを疑うように睨み付けた。だから、俺はそんな妹の目をしっかりと見つめた。小さい頃からそうだったんだ。嘘を吐いたか、吐いていないかの押し問答は、お互い目を見れば判る。そういう家族なんだ。
「……私、変人じゃないもん」
林檎さん、アンタは変人と指摘されたのがショックだったからって、俯かないで下さい。折角、解けそうな誤解が解けないんで。
「……分かった、信じる。それよりも、そのクリエイティブなんとかは楽しかったの?」
「あぁ、あんなに楽しかったのは久しぶりだったよ」
「そっか、私も嬉しいよ」
ん? 加奈のやつ、なんだか嬉しそうだが、どうしたんだ?
「鈍いお兄さんだな、鋼太郎少年よ。彼女は君が笑ってくれるのが嬉しいんだよ」
「ふふ、林檎さんは何でもお見通しなんですね。兄をゲームに誘ってくれて、ありがとうございます」
「なーに、礼には及ばんよ。何たって鋼太郎少年にはこれからも我が社の宣伝プレイヤーとして活躍して貰うのだからね!」
えっ……その話ってまだ残ってたの? ほら、加奈も「は?」って顔をしてるし……
「お兄ちゃん……」
「はいっ……!」
凄く威圧的だ。
「説明して? できるよね?」
ヒィィ……さっきから怖いんだが……。
□□□□
俺は、林檎さんにスカウトされるような形でクリエイティブ・バトラーズに誘われ、彼女の会社、姫野コーポレーションを代表するプレイヤーに選ばれたこと、そして俺にはその資格がないことも。
「林檎さんの誘いは嬉しい。けど、俺には、その資格がない、貴方の言うようなプラモデル愛もなければ……」
「鋼太郎少年……」
「私も反対です。兄は学生ですよ」
加奈は毅然として、そういい放った。それは怒った時の母ちゃんのようだった。
「もちろん、鋼太郎少年の学業に影響は出ないようにする、それに報酬も払う」
「お金が絡むなら、尚更認められません。私がバイトすれば最低限の生活もできますし、兄じゃなくても代わりがいるでしょう?」
加奈にはバイトはさせたくない。だが俺以外にもふさわしい人物がいるというのは同じ意見だ。そんな人物たちを差し置いて、半人前の俺がお金を貰うのは相応しくない。
「ふっ、ふふ……流石、鋼太郎少年の妹さんだ。お兄さんと同じで責任感が強いようだね」
「勿論、うちはそういう風に育てられました。私は鋼太郎の妹であると同時に母代わりなんです。だから兄の行動には責任を持たなければなりません」
母代わりって……でも間違ってないかもな。これで林檎さんも諦めるだろう。
「そういうことですよ……林檎さん、他を探して下さい」
「私は……」
「林檎さん?」
「私は! 鋼太郎少年が好きなんだ!」
はぁ!? おい! そんな展開聞いてないぞ!? それに加奈、お前は顔を真っ赤にするな、この天然女社長は突然、突拍子もないことを言うだけだ!
「私は鋼太郎少年の腕に惚れ惚れしていた……彼の製作した刃物は素晴らしい。だがそれは意識して生まれた産物ではなく無意識による産物だと知った」
「なら、俺を選ぶ必要は……」
「それでも! 鋼太郎少年の操縦する姿は本当に隣に立っていて爽快だった。それに、プレイングだって上等だ。頭の回転も早い……」
「けど! それだけなら、兄以外にも」
林檎さんはヘッドギアのカバーを外した。ヘッドギアの中には、スキャンされていたエクステンドが納められていた。
「これはエクステンド」
「この玩具で、兄は戦ったんですね」
「そう、そして彼はゲーム内で勝つために、この子の足を壊すという戦術をとったんだ」
そうだ、俺はエクステンドを壊してしまった。現実のエクステンドが傷ついた訳ではない。それでも、コックピットで味わったプラスチックの折れる嫌な感覚は忘れられないだろう。
「だが! 鋼太郎少年の行動は、私の知る誰よりもプラモデルへの愛に溢れていたのだ!」
「あっ、愛……ですか?」
どや顔で宣言する林檎さん、加奈は少し戸惑っている。俺も困惑しかない。そんな俺に彼女はエクステンドを手渡した。
「鋼太郎少年は、ずっと操縦席で、その子に語りかけていた。その子を勝たせてあげたいと必死に戦ったんだ」
「なんというか、兄らしいですね……」
「ふふ、私の目に狂いはなかったんだよ。鋼太郎少年は、始めた出会ったその子を信じた。そして、その子も鋼太郎少年に応えた。私はそんな二人の姿が好きになったんだ!」
「そっ……そこまで仰るんですか!」
「もう私は彼以外のプレイヤーなんて認められない! 私はプラモデルがこれから大好きになる彼が好きなんだ!」
林檎さん……その好きって言い方止めてください。妹はウブなので誤解します。いまだって平静を装ってるだけで、内心は焦ってるんすよ。ほら目が泳いだ。
「お兄さんを私に任せてくれないでしょうか!」
「わっ……わかりました! これから兄をよろしくお願いします! 林檎義姉さん」
加奈ァァァァァァァ!!
お前絶対、誤解してるだろ! なんだよ、お義姉さんって!!
「さて、これで私は加奈少女の了解も得た。広告料は君の活躍次第だが、将来的には借金を返せるぐらいの大金を払おう」
「加奈? 本当にいいのか、お前誤解してるぞ!」
「林檎さんは変人だけど、悪い人じゃないみたいだし。お兄ちゃん、口では否定してるけど、その何とかってゲームを"やりたい"って顔に書いてあるわよ!」
言われるで気づかなかったな。俺はそんな顔してたのか……。
「ふぅ……ありがとう妹よ。お兄ちゃんも覚悟が決まったよ……」
俺はお前たちの学費を稼ぐため、そして林檎さんの期待に応えるためにやってやる!
「鋼太郎少年、エクステンドの顔を見ろ、その子もお前を選んだようだ。あとは君が覚悟見せるだけさ!」
「わかりました、これからは鋼太郎として! コウとしてお世話になりますっ!」
「よろしい!」
彼女はニカッと笑った。子供のように眩しい笑顔だ。
加奈は父ちゃんと母ちゃんの仏壇に報告している。勘違いした情報をだ。あとで、天国の二人にも真実を話さなくては……。
その日は林檎さんは早々と、帰ってしまった。何やら今回の戦闘でCMを作る為の打ち合わせをするそうだ。加奈の誤解はなんとか解いたが、「もう、このまま林檎さんを、お嫁に貰ったら」なんて言い出す始末、これはこれで先が思いやられるな。
「さてと今日も色々あったが、寝るか……」
俺はエクステンドを机の上から枕元に移した。まるで人形と一緒に眠る幼い妹達のようだ。だが、今はエクステンドと少しでも時間を共有したかったんだ。
「お前は俺の相棒だ、これからお前のことをもっと知りたい……よろしくなエクステンド」
エクステンドはただの玩具だ、意思なんてあるはずがない。それでもコイツは俺に応えてくれたくれたような気がした。手にとってみて、始めて判る。その精密さと脆さが、それでもコイツの動く姿は爽快だった。委員長も、俺にこう言う体験をさせたくてずっと誘ってくれたのだろう。
「そうだ、明日は俺が委員長を誘ってみよう!」
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鋼太郎少年へ!
CMは早々、大好評だぞ! あっという間に拡散されてトレンド入り! そのお陰で我が社の電話はエクステンドを求める声でパンク寸前だよ。なんとか、売り上げも持ち直して、君にも広告料を渡すことができそうだ。
ただ君とエクステンドの武装は相性があまり良くなさそうだ、この射撃出来ない系男子め! という訳で私は君とエクステンドの専用武器を開発することにした。君が上手く使ってくれれば商品化も出来るしな。
と言うわけで、私はしばらく工作室に引きこ もるよ! だから、武器が完成するまではクリエイティブ・バトラーズの世界を満喫するがいい。(ただし、勉学を疎かにせず、妹さんと協力して家事をすること!)
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という旨の書き置きと、ヘッドギアに届いていた。林檎さんにわざわざ言われなくても、わかってるんだがな。
「さてと、待ってろよ……委員長!」
俺はヘッドギアにエクステンドをセットすると、それも教科書と一緒に鞄に放り込んで家を出た。
「すげぇな、このコウってプレイヤー……」
「姫野コーポレーションのプラモデルかぁ、こんど触ってみようかな?」
辺りから、そんな噂話が聞こえてきた。林檎さんの作ったCMの効果は半端じゃないようだ。学校に行ったら皆が俺の動画を開いてやがる。だが、誰もその画面に移っているコウが、この俺だとは気づかない。
「コウ……くん?」
前言撤回……誰だ、気づいたのは? 呼び止められて振り替えると、そこに立っていたのは、俺が探していた人物だった。
「や、やぁ委員長、えっーと、バレた?」
「うん、アバターの目付きの悪さとか、エクステンドを走らせた時に、コウくんの走る癖が出てたから」
「走る癖……?」
「うん、少し体が前に傾いてるの……って! ごめんね、そんなの見てて、私キモいよね!」
たしかに、この時の事を後々思い返すと、委員長はキモい、とまでは言わないが変だった。だが今はそんなことよりも、ずっと誘ってくれた委員長を無視してクリエイティブ・バトラーズをプレイしたことに、何処か罪悪感のようなものを覚えていた。だから.
「ごめん、委員長! なんか、ホントに申し訳ない!」
「ちょっ……! コウくん、ここ廊下だよ! 周り見てるから!」
結局、俺はみんなの前で委員長にまでも恥をかかせてしまった。それでも委員長は何故か嬉しそうに笑うと、放課後にね! と去っていた。
「えっーと……これでいいんだよな?」
授業はあっという間に過ぎて放課後、委員長はいつもより、ウキウキしながら手際よく係の仕事をこなしていく。俺も手伝うと提案したら、彼女も喜んでくれた。
「ありがとうね! 鋼太郎くん」
「あぁ、少しでも役に立てて良かったよ。それじゃあ早く行こうぜ!」
「うんっ!」
俺たちはヘッドギアを装着した。因みに前回の林檎さんとの一件ような誤解が起きないように、専用のゲームカフェに訪れたのだ。ここにはVRMMOプレイヤー向けの個室ブースが用意されているのだ。だから倒れていても誰にも迷惑かけることなくゲームが出来る。
俺の意識はまた電子の海に落ちていく。そして目を開けると俺の戦場、そして理想郷とも言えるクリエイティブ・バトラーズの世界が広がる。
「ふぅ……到着っと、委員長? 何処だー?」
「ここだよーっ!」
空中から声が返ってきた。俺がその方向に目が釘付けになった。空色で彩られたエクステンドが宙を軽やかに駆けていた。
◇宣伝◇
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