チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク
ほづみエイサク

第三十三話 一周忌と暴走お父さん

公開日時: 2023年9月1日(金) 23:18
文字数:1,745

「ごめん、その日は一回忌なんだ。お祖父ちゃんの」

 

 陸の答えを聞いた瞬間、音流は落胆の表情を浮かべた。

 

 六月のある日の昼休み。陸が浮かない顔をしていると、音流が声を掛けてきた。

 

(お祖父ちゃんがいなくなって一年が過ぎたのか)

 

 長いようで短かった、と陸は感想を抱いた。

 

「何だか浮かない顔をしてますね」

「わかる?」と困り顔をしながら返してから

 

「本当は一回忌に行きたくないんだ」と続けて、愚痴を漏らし始めた。

 

 

 

 お寺に出向いてお経を聞いた後お墓参りをして、ホテルで会食をする。それだけのイベントなのだが、陸には悩みの種があった。

 

 頑固なお父さんである。

 

 お父さんは普段は影が薄く、言葉数も少ない。しかし親戚が集まる席に限って、台風の目に変貌してしまうのだ。

 

 例えば二年前の出来事。祖父の誕生日に、親戚一同を集めてバーベキューをした時だ。

 

 騒動は家を出る前から始まった。

 

 まず声を上げるのは陸の妹だった。その時の妹は小学校に上がったばかりで、いかんせん口が悪く、普段はお母さんがたしなめていた。しかしこの時ばかりは、二人そろって口を酸っぱくして、お父さんに抗議したのだ。

 

 お父さんは、見ているこっちが恥ずかしくなるような、バリバリの若作りをしていたのである。

 

 つま先のとんがった革靴を履き、馬油を塗ったのか疑いたくなるほど顔面をテカテカさせていた。

 

 赤いチェック柄のシャツは、老け顔に痩身そうしんのお父さんには合っておらず、着せられている感が強い。

 

 さらには加齢臭を隠すためか、変な匂いの香水つけていた。まだ適量をかけていればまだ受け入れられたのだが、かなりの量を振りかけており、鼻が曲がるほどの強烈な匂いになっていた。香水を初めて使ったのが丸わかりだ。

 

 そこまでの失敗を重ねながら、当の本人は自信満々な顔をしているのである。巻き込まれた家族にはたまったものではない。

 

 家族全員で反対したのだが、頑固なお父さんはさらに意固地になってしまい、無理矢理車に乗り込んでしまった。

 

 バーベキュー会場に着くと、お父さんは場を取り仕切り始めた。

 

 準備してる最中でも「まだまだ若い奴らに負けん」と言わんばかりに動き回っていたの。、膝を痛めるは、すぐに息を切らせて肉を食べれなくなるは、川に落ちるは、散々な醜態しゅうたいをさらしていた。恥ずかしすぎたのか、妹は他人のフリをしてしまった。身内ばかりで意味はなかったのだが。

 

 それもそのはずである。

 

 陸達家族は他人の振りを決め込む他なかった。

 

 その後も様々なやらかしがあったのだが、語る必要はないだろう。

 

 

 

「まあ、原因はある意味僕なんだけどね」

「どういうことですか?」

「小学生の時、友達とコンビニに寄ったんだけど、偶然お父さんも出くわしちゃって……。一緒にいた友達が僕のお父さんを見て言ったんだよ。『おじいちゃん?』って」

「あー」と音流は納得の声を上げた。

「それから老け顔がコンプレックスになったみたいで……。お父さんは長男なんだけど、兄弟で一番結婚するのも子供生まれるのも遅かったから、叔父さん叔母さんに対抗心を抱くようになっちゃって」

「それはイヤだったでしょうね」

 

 音流の同情に頷きながら、陸は話を続ける。

 

「最初の話に戻るんだけど、一周忌で親戚が集まるんだけど、どんな行動をとるかわかんないんだよ。今、我が家はお父さんを見張るためにピリピリしてる」

「同志の家族は、とても仲がいいんですね」

「そんな話はしてないんだけど……」と予想外の返答に陸は辟易した。

「嫌なところを指摘しても険悪にならないなんて、素敵な関係じゃないですか」

「そうなのかなぁ」

 

 陸はいまいち納得できずに後頭部を掻いた。音流はその姿を見て何を思ったのか、懐かしそうに目を細めて

 

「同志の家の子になりたいですよ」と呟いた。

 

 音流は口にした後に自分が何を言ったのか気づいて、慌てて訂正しようとしたのだが

 

「いや、本当にやめておいたほうがいいよ」と陸はきっぱりと否定した。

 

 音流はしばらく無言で訝しげな視線を目の前のアホに送り続けた。陸は意味がわからない、と言わんばかりに小首を傾げた。

 

 キンコンカンコーン とチャイムが鳴った。

 

 ハッとした音流は「すみません、次は移動教室なので」と言ってそそくさと走り去っていった。

 

 台風のように去っていくその背中に、陸はずっと不思議そうな視線を送っていた。

拙作を閲覧いただきありがとうございます


【大事なお知らせ】


この小説を通して、あなたの心が少しでも満たされましたら、評価・レビュー・応援をしていただけると嬉しいです。


その優しさにいつも救われています

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート