チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク
ほづみエイサク

第九話 日向ぼっこで死のうとする少女②

公開日時: 2023年8月9日(水) 19:06
文字数:2,063

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 最初に食べ終えたのは音流だった。砂糖をたっぷり入れたコーヒーをチビチビ飲みながら、サンドイッチを食べる楓をじっと見ている。

 

 そのサンドイッチはコンビニのそれとは比べ物にない大きさだった。楓の顔よりも大きく見える程だ。しかしただボリュームがあるだけでなく、パンは耳までしっとりとしており、零れんばかりの卵ペーストが挟まれている。それが二切れも皿に乗っており、楓は一切れでお腹いっぱいと言いたげな表情だ。

 

 音流は物欲しげに残った一切れを凝視していた。もっと幼かったら指をくわえていただろう。それに気づいた楓が

 

「よかったら食べる?」と提案すると

「いいんですか!?」と目を輝かせてサンドイッチに食らいついた。

 

 その動作がまるで子犬のようで、楓の表情が自然と柔らかくなっていく。

 

 そんな女子二人の横で、陸はまだ半分残っているレアチーズケーキを堪能している。

 

 それから5分後。陸がようやく食べ終わったことで主題に戻る。

 

「じゃあ、一から説明するね」とまずは楓が事の顛末を話し始める。

 

 

 

 それは先週の出来事だった。楓がいつも通り校舎内で困っている人を探し回っていると、グラウンドの端で寝ている音流を見つけた。その顔は険しく、まるで悪夢を見ているのかと思えた。声を掛けると、音流は楓の顔を見るなり目を大きく見開いて言い放った。

 

「日向ぼっこで死にたいんです!」

 

 言うや否や楓の手を取り、爛々とした瞳を向けた。

 

 

 

「一目見てピーンときました。この人は噂の青木さんだって」と音流が胸を張りながら補足した。

 

 噂とは青木が『なんでも頼み事を聞いてくれるやつ』と呼ばれているものだ。

 

「それじゃあ、話を戻すね」

 

 

 

 爛々とした瞳のまま、音流がさらににじり寄った。

 

「日向ぼっこで死にたいんですけど、うまくいかないんです。助けてください!」

 

 楓は二つ返事で承諾した。

 

 しかしいくら頼みごとを聞き続けた歴戦の女子中学生だったとしても、日向ぼっこで死ぬアイデアなんて浮かぶべくもなかった。

 

 それでも頭を捻って考え続けたのだが、楓は何も思い浮かばなかった。

 

 それどころか悩べば悩むほど挙動不審になっていき、姉である君乃が『何かある』と勘づいてしまった。

 

 それからの出来事は知っての通りである。

 

 

 

 ひとしきり話を聞いた後、陸は最大の疑問を投げかけた。

 

「なんで日向ぼっこで死にたいんだ?」

「日向ぼっこが好きだから。それ以上でもそれ以下でもないです」

 

 音流はこともなげに言い切った。コーヒーカップを傾ける姿には、ただならぬ覚悟が宿っているように見える。

 

「人はいつか死ぬんです。それなら好きなことで死にたいじゃないですか。ウチにとってそれが日向ぼっこだった。それだけのことです」

 

 陸は手元のミルクと砂糖を混ぜたコーヒーに視線を落とした。薄茶色のその液体の水面に苦々しい自分の表情が写っていた。

 

「ねえ、日向さん。本当に死ぬわけじゃないんだよね?」

 

 慎重に言葉を選んだ楓の質問に、音流は大げさな手ぶりで否定する。

 

「違います違います。すぐに死のうとしてるわけじゃないです。ただの予行練習です。将来いざ死ぬというときのために、今のうちに考えておきたいんです。日向ぼっこで死ぬ方法を」

 

 陸はふと考える。なんの苦悩もしていない中学生が自分の未来の死について考えるだろうか、と。しかも具体的な方法も含めて。

 目の前の日向音流という少女からは苦悩が見えず、

 

(構われたいだけ?)

 

 そうだとしてもあまりにも頓珍漢すぎる、とすぐに思い直す。

 

 結局は訳がわからず、青木の同類か、と思考放棄した。

 

「そっか。じゃあ、これは『人助け』になるよね」

 

 楓は目をつむって、自分自身に言い聞かせるように呟いた。それは虫の羽音ほどにだったのだが、音流は耳ざとく聴き取った。

 

「もちろん! ウチは凄く助かります!」

 

 音流に手を取られてブランコのように振り回された楓は困惑しながらも顔を赤らめた。その光景を見て、陸は仲間外れにされた気分になり

 

「実際、どうやって日向ぼっこで死ぬつもり? 直接の死因が日向ぼっこじゃないとダメなんでしょ?」と茶々を入れた。

 

 そんな陸の意地悪をはねのけるように音流は

 

「その通りです!」と指をさしながら叫んだ。

 

 思わず陸の体がビクリと跳ねた。

 

「日向ぼっこかぁ」と右上を見ながら呟いた。

「お、興味がありますか。いいですよ、日向ぼっこ!」

「いや、そうじゃないんだけど……」とあまりの勢いに気圧されて陸はどもった。

「興味が出たらいつでも声を掛けてください」

「あ、うん」

 

 考えれば考える程"日向ぼっこ"という言葉が分からなくなってきて、スマホで検索することにした。

 

 いくつかの辞書サイトを巡ったのだが、どこもほぼ同じ意味だった。太陽光に当たり体を温める行為。それ以上でもそれ以下でもない。

 

(太陽光で体を温めて、人が死ぬ? ありえないだろ)

 

 テーブルの上にスマホを伏せて、陸は不貞腐れたように頬杖をついた。

 

「日向ぼっこで死ぬなんて、無理でしょ」と陸は断言した。

「ムリかな……?」と楓は歯切れが悪そうに言った。

 

「ウチは諦めません! なんとしてでも!」

 

 音流だけが高らかに宣言したのだった。

 

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