「座りなさい」
私は二人をの向いの豪華な椅子に腰を下ろした。彼らの前には来客用の椅子が並んでいる。
二人は一瞬、躊躇したが私が引かないのに気が付いたのか、恐る恐る座る。
「で、お嬢様は俺らになにを求めてるんです?」
しばらく見つめあった後、ケインが眉間にしわをよせて訊ねてきた。その口調は厳しい。
ワルドはあちゃーという顔をしている。
私は、あくどい笑みを浮かべて微笑んだ。
ケインはさらに渋い顔をしながらため息を吐いた。
「お嬢様、俺らは騎士隊を除名になり、最前線に送られた者たちです。そんな俺たちがお嬢様の
お役に立てるとは思えないんですが…」
そういってケインは自身の右腕を見た。
そこにあるはずの腕は肩口から存在しておらず、騎士服の袖がふらふらと揺れている。
ワルドも悲しげな顔をして自身の左手を見た。彼の指は半ばから食いちぎられており、機能していない。
「役に立つかどうか、決めるのは私だわ。無礼よケイン」
「っつ、無礼で結構です。死に場所をもとめて戦っていた私を、前線から引き戻したのはあなただ。
今日死ぬか、明日死ぬか、覚悟を決めていたのです。ここで殺されてもなにも問題ない」
吐き捨てるように言うケインは、自棄になっているようであった。まあ、実際この状況下で、かたわになった
彼が生き残れる可能性はとてつもなく低い。転職は難しいし、魔物と戦うにしても片手ではいつまでもつか…
「なるほどね…ワルド、あなたも同じなの?」
ワルドは静かに目礼し、自分の意思を示した。
「では、ここは無礼講といきましょう、幸い、ここは私と私が招いたものしか入れない魔法がかけられているしね。
あー、堅苦しかった」
突然態度を変えた私の貴族らしからぬ態度に彼らは目を見開いた。
「ま、どうせ、お父様がここに来る前に隷属の契約書の主を私に変えているから、あなたたちは私に
逆らえないしね」
そういうと、二人は黙り込んだ。
「…で、俺らみたいな半端ものの、しかもどこかしら先のスタンピードで欠損した者たちを集めて、
お嬢様はなにがしたいんです」
あきれたようにワルドがため息をはいて疲れたように聞いてきた。
「あら?そちらがあなたの本性?そのほうが胡散臭い笑顔をしているよりにあっているわよ」
「はー。そうですか…、で、俺の問いには答えてくれるんですか?」
「ええ、いいわよ」
この世界には魔力が存在する。
生きとし生けるものすべて魔力を持っているが、それを放出する器官をもっているのはほんの一握りである。
それこそが王侯貴族である。
本来、王侯貴族しかその臓器はもたないはずなのだが、ここは愛人等がまかりとおる世界。しかし、妻の子ではなければ
認知されないのである。
ゆえに、本来の貴族よりは劣るが、魔力を扱う器官を備えたものが市政にあふれていた。
それらを半端ものとよび、悪辣な貴族の血を引いている彼らは、完璧には平民にもなじめず、貴族の騎士や侍女侍従等として
飼い殺しになっているのであった。
つまり、かれらは本来、専属等になることはめったにない劣ったさげすむべき存在である、というのが貴族的認識であった。
余談だが、この圧倒的な魔法力があるため、この世界では平民による革命はめったに起きない。
ゲームでも、スタンピートによって貴族の大半が食われたあと、ようやく革命ができたのだ。
「貴族の騎士だと、いろいろ思惑が絡んで面倒だし、思うように動いてくれないでしょ。私がやりたいことを
考えると、純粋な平民は弱すぎるわ。あなたたちだったら、もうすぐ死亡する予定だったし、お父様の監視も
ない。都合がよかったのよ」
「あー、なるほど。なかなか…」
その言葉に続く言葉は下種い、だろう。
ケインも険しい顔だ。
「それで、あなたたちにしてほしいことは、まず、私を鍛えること。それと、東の森に行くことになるから、その護衛ね」
彼らを気にせず、そう告げると、怪訝な顔をした。
「貴族のお嬢様にどうして戦闘術が必要なんだ?それに、東の森は結界内だからまだ魔物は弱いが、それでも危険だぞ
お嬢様が死んだら、俺らに責任が来るんだが、なぜそんなところにいくんだ」
理由はもちろんあるが、今はまだいうときではない。
「…暇なのよ。まあ、道楽ね」
二人はさらに言いつのろうとしたが、私が席を立ったことで言葉を飲み込んだ。
「話はここまで。二人とも、ここでの私の態度等、ほかのものに言わないように。私が彼らにあかすまでね」
二人は黙って一礼し、小屋を出て行った。
そろそろ、専属侍女がしびれを切らしているころだろう。
私も早足に、その場を後にした。
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