「――続いては、世の中に広まる新しいものを発見するコーナーです!今回はこちらの方に来ていただきました!」
「こんにちは、行政改革ギルドのザザ・ナムルクルスです!」
「こんにちは!ザザさん、本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますー!」
「お、お嬢!!お嬢!!!」
『何よ、こんな朝から電話して』
「テレビ付けてテレビ!!」
『テレビ?』
「早く!!!」
『分かった分かった、朝からマカオはうるさザザ君!!!』
「でしょう!?」
「ザザさんと言えば、最近どんどん新しいマナーを考案されては世間に普及されているとか」
「その通りです。これまで、この大日本帝国には不要なマナーが多く溢れかえっていました。不要なマナーというのは、業務や学業をする上で不合理なものです。最近提案したものであれば、新入ギルド員や社員は『始業の30分前には会社に来て先輩のデスクを掃除する』という文化を粉砕するマナーで『自分のデスク周りは自分で綺麗にする』というものです。どうです?どう感じますか?」
「ええと、至って普通のことだと思いますが……」
「その通り、至極当たり前だと思いませんか?ですが、大日本帝国の企業の中には、未だにこういった悪習を若い社員に強要する文化が根強く残っているんです。それを国のトップである俺が否定し、こうして世間に周知することで、少しずつギルドや会社に勤めている人の認識を改革したいと思っているんです」
「なるほど、素敵なことですね!さて、今回はマナー講師でもあるザザさんが提案している新しいマナーを紹介していきたいと思います!」
『ザザ君がテレビに出てる?……ああ、生放送のやつね。出たかった?』
「カイリキさんは知ってたの?」
『勿論、上司だからね。あれだけ騒がれたから、ここまで来たらむしろ徹底的にやろうと思ってね。僕からザザ君に提案して、ハーフ君のコネクションを上手いこと使ってテレビにねじ込んだんだ』
「な、なるほど。でも良かったのかしら?アタシたちはともかく、カイリキさんたちギルド長は立場上大変なんじゃない?」
『まあ、元々今のギルドや会社にいびつなマナーが多いのは僕も知ってるからね。せっかくすべてのギルドの機運が高まったことだし、これを利用しない手はないよ』
「最近はテレワークも増えてきましたね。行政改革ギルドとしては望ましいことです。ですが、そんな仕事を効率的にしようというテレワークに不要なマナーを持ち込んだ輩がいるせいで、業務が無駄に滞ることがあるそうなんです」
「というと?」
「例えば、『通話を終える時は、頭を下げながら通話終了ボタンを押さなければならない』というマナーが生まれたそうです。他には『テレワークでもばっちり化粧をしなければならない』とか『テレワークでもスーツを着て仕事をしなければならない』という身だしなみのマナーもあるらしいですね。『オンライン会議で会議では上司より先に退出してはいけない』っていう話も聞きました。なんじゃそれは、と。本来効率的に仕事をするためにテレワークを実施しているのに、結局負担が変わらないんじゃ意味がないわけです」
「なるほど、確かにそれは負担になるかもしれませんね。小さいお子さんがいらっしゃる家庭ですと、化粧にスーツで子供の世話なんて非合理ですし」
「その通りです。まあ、例えば会議等で外部の人と顔を合わせる場合などは最低限の身だしなみは整えるべきではある、というのが俺の見解です。さすがに寝起きで髪ぼさぼさの状態の『今起きました(笑)』みたいな人間と商談の話はしたくないですから」
「TPOを守るなど、あくまで基本的なことはすべき、ということですね。他に広めていきたいマナーなどはありますか?」
「『メモはスマフォンで取るのがマナー』というのを広めていきたいです。正しくはスマフォンでメモをしてもよい、ってくらいのニュアンスですが」
「メモというと?」
「上司や客先相手の場合、メモを取るなら手元のメモ帳に手書きしますよね?目上の人の前でスマフォンを取り出すのがマナー違反だという傾向があるからです。ですが、これだけスマフォンが普及した今、それでは時流にそぐわないと思うんです。だって、そういったICT技術をふんだんに使って業務効率化しよう!って国が言ってるんですよ?」
「確かにそうですね!今の時代、スケジュール管理ツールを使っている人も多いですし、メモ帳に書いたらスケジュール管理ツールに内容を転記する手間がありますもんね!」
「他には『メールやFAXを送った後、電話をしてメールが届いているかの確認をしない』っていうのも広めたいですね」
「いいですね!!私もアレ無駄だなーと思いながら仕事してたんです!」
「まあ、『そもそもFAXを使うのがマナー違反』だと俺は思いますけどね!」
はっはっはっはっは!!!
「ザザさん、本日はどうもありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「……次のニュースです。ナゴヤバシリシネ区で、馬車20台以上が絡む事故が――」
「お疲れ様、ザザ君。悪いね、いつもメディアに出てもらって」
「別に良いですよ。俺は喋るの得意なんで」
時刻はAM11時、ザザは行政改革ギルドに戻ってきていた。その最中、道を歩いていると多くの人から声をかけられた。朝の放送見たよ、言ってくれてスカッとした、俺もマナー違反だって思ってた、今時FAXはないよな、等々。皆が思っていても声に出せないだけ、という状況はままあることだ。上司からの評価が下がるかもしれない、給料に響くかもしれない、声をあげても状況が変わらないかもしれない……。様々なマイナス要因が積み重なって、社会的地位の低い人間の貴重な声を奪っているのが今の大日本帝国の現状だ。
だからこそ、ザザという行政改革ギルド員――すなわち国の機関の人間――が声を大にし、しかもメディアを通じて帝国民全体に伝達することがどれだけ大きな意味を持つのか。今頃、大日本帝国にはびこるブラック企業の社長たちは戦々恐々としているに違いない。とはいえ。
「でもザザ君、これで終わりじゃないからね」
「分かってますよ、改善に終わりはありませんから」
ブラック企業の社長たちは、あの手この手で社員を食い物にしようと画策する。人間、悪いことを考える時ほどIQが上がるものだ。だからこそ、新しいマナーを大々的に公表した今こそ、訳の分からないマナーに虐げられている人間が声を上げようとしている今こそ、その声をしっかりと聴いて対策を考えなければならない。それが、ザザの所属する行政改革ギルドという組織なのだ。
「まったく、終わりを設定せずに仕事してるのなんてウチだけですよ」
「文句言わない!ほら、手を動かす!」
「へーい」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!