みんながアホで良かったとザザは思う。よくもこんな穴だらけのプレゼンで工事の承認が下りたものだ。一応質問を受けた時用の資料は準備してきたが、結局何一つ使わなかった。良いプレゼンには必ず質問がある、とは前世の学長のお言葉であったか。まだまだ俺のプレゼンには精進すべき点があるらしい。
ともあれ、ザザにとって最も重要な下水道の整備問題がようやく解決した。
ポケットに物を入れていたら一緒に奈落の底へ落としそうなあのボットン便所から、清潔感溢れるピカピカの陶器の洋式便所に変わるにはまだ幾ばくかの時間を要するであろうが、汲み取り式から水洗式に変わるのは非常に良いことだ。なんやかんや訳の分からん理屈をこねて、無理矢理草案を通した価値はある。
これで、あのざらざらの紙やすりみたいなトイレットペーパーさえ今世から消滅してくれれば言うことなしなのだが。
「やることはまだまだ山積みだけど、こういう忙しさはやる気が出る」
誰にでも呟く。そう、やる気が出るのだ。
この後は、各家庭が洋式トイレを導入しやすいように、補助金制度を整備しなければならない。陶器工場には、需要増を見越して事前に生産量アップを働きかけておこう。そうだ、どうせ掘削するなら、北側は融雪装置の火魔法を組み込んだ道にしてもいいかもしれない。魔法と言えば、下水処理施設は水魔法による浄化レベルを上げなければ需要増に対応できない可能性がある。早急に対応策の草案を作ろう。せっかくだ、他国の技術も調べて、導入できるものがあれば採用するのもいいだろう。有益な技術は世界中に転がっているのだから。
仕事が楽しいと思ったことは、人生においてただの1度もない。だが、こんなにやる気を持って仕事に取り組んだことは、おそらくこれが初めてだろう。
やる気とは、すなわち原動力だ。
現代日本において生産性が上がらないのは、原動力が失われているからに他ならない。
どれだけ働いても給料が上がらず、誰かに認められることもない。やって当然、できて当たり前、そんな風潮が社員のやる気を削ぎ、結果的に全体の生産性を下げている。
ところが、この異世界はどうだろう。
頑張った成果が直接お金に結び付くというのは日本においても存在したシステムだが、そのお金というのは市民からの税金だ。直接的な感謝の声、目に見える形の応援。御恩と奉公という言葉が昔あったように、いただいたものには適切な対価を返すべきだし、返したいと思えるのがこの大日本帝国だ。
この国に生まれ落ちて20年の年月が過ぎた。
ザザは、ようやく不遇なトイレ事情から改善されるのである。
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