明くる日。
行政改革ギルドでは、ヘルプデスクを一旦閉鎖して準備期間に当てることとした。各ギルドには一斉に通知を出しており、問合せ件数の増加に伴い少人数の行政改革ギルドでは対応できない旨を連絡済みである。一度ギルド内で対応を考えてから、再びヘルプデスクを再開することとしたのだ。
「それにしても、こんなに電話がかかってくるなんてね」
とカイリキは頭を悩ませている。だがそれもやむを得ない。ヘルプデスクは、ギルド内で発生する大小様々なシステム関係の困りごとについて相談できる窓口として機能することを期待されている。難しい質問は勿論、ザザ達IT強者にとっては赤子の手をひねるように簡単な内容すら質問する連中の他、『とりあえず電話して聞いてみよう』という輩が非常に多いため、絶えず電話がかかってくる有様となっている。
それに、問題なのは電話の量だけではない。そこに取られる拘束時間も非常に長い点も挙げられる。ヘルプデスクに求められるのは、幅広い豊富な知識と相談者の意図を汲み取って分かりやすく説明するスキルだ。したがって、分かりやすい回答をしようと真摯な対応をすれば、ヘルプデスクの業務量は膨大となって運用の負担が大きくなりがちだ。
ギルド内システムと一口にいっても膨大な量がある。例えば、冒険者ギルドを始めとして使われるのが、毎日クエストをこなしているかどうか確認する勤怠管理、武具などの消耗品や経費の精算業務、魔獣討伐のための出張申請といった『基幹システム』だ。商人ギルドや生産ギルドでは、販売管理・営業支援・電子商取引といった『業務系システム』を利用するし、市民管理ギルドはグループウェアや情報共有のような『業務支援系システム』を使用する。用途ごとに様々なシステムがあり、ギルドや企業規模が大きくなるほど扱うシステムの種類も多くなる。したがって、それぞれのシステムについて寄せられるあらゆる質問に迅速に答えらえるよう、常に最新の知識を習得し勉強しておく必要がある。
また、業務を円滑に進めるためには、突如として発生するトラブルにも臨機応変に対応しなければならない。トラブルシューティングを行いながら、デジタル化や新システムの導入は勿論、行政改革ギルドとしてのコア業務も進めていかなくてはならないため、対応範囲が広くその分大変になりがちだ。結果的に時間に追われることも多く、IT知識がほとんど無いポンコツ相手と電話応対をすれば、その貴重な時間がさらに失われることになる。
では、それを踏まえた上でどのような対応をすれば業務効率化になるだろうか。ザザが真っ先に思い付いたのは――。
「対応のマニュアル化、か」
「その通りですカイリキさん。まずは、ギルド内ポータルサイトからスムーズにマニュアルを参照できるように整えましょう。よくある質問はFAQとして用意しておいて、利用者が自力で問題を解決できる環境を整えれば、簡単な疑問程度なら個人で解決するはずです」
ザザの言葉に大いに頷いたのはハーフだ。
「あは、ギルド内ポータルを作成するのは大変ですよ。利用者目線でわかりやすいサイトにしないといけませんから。ボクもYo!tuberになりたての頃は大変でした。せっかく自分のサイトやページを作成しても、トップページから目的のページにアクセスできなかったり、再生数の多いメインコンテンツにリンク出来てなかったりと問題がいっぱいでしたもん。『もういいや、他のYo!tuber動画を見よう』なんて思われたら、サイトを作った意味がないですからね」
「俺もそう思う。ヘルプデスクのポータルの場合、専門用語が多くて利用者が一読してもスムーズに理解できないようじゃ、結局“ヘルプデスクに聞いた方が早い”なんて思われて問合せ件数の削減には繋がらない」
「ザザ先輩の言う通りです。シンプルでわかりやすい画面構成にして、ITリテラシーに関わらず理解できる簡潔な文章にしましょう」
ということで、後日“よくある質問”のポータルサイトがプレオープンした。全ギルドにその旨を一斉通達し、基本的にはこちらのサイトを確認して、それでも分からないことがあれば電話をするようにと記載して送信している……のであるが。
「電話が止まらない……」
それにも関わらず、行政改革ギルドには頻繁に問合せの電話がかかってきていた。受話器を置いて一段落ついたマカオがザザに話しかける。
「どの電話も似たような内容ばかり……ザザちゃん、どうにかならないの?」
「そうですね……今回のように似通った質問が頻発している場合、一時的な回避策を案内するだけではダメですね。問合せの内容やFAQの検索ログを振り返って分析することで、根本的な問題点をあぶり出した方がいいかもしれません」
「根本的な問題?」
「今日……というか、今もひっきりなしに鳴ってる電話の話になりますが、我々はせっかくポータルサイトを作ったじゃないですか」
「そうね」
「にも関わらず『サイトを見てもよく分からんから教えてくれ』っていう問合せが多いですよね?それなら、質問の多い項目のFAQを改善したり、メールで『ポータルサイト見ろ!』って注意喚起を出したり、自己解決のためのフローのリンクを貼ったりして、問合せ件数の削減を目指した方がいいかもしれません」
「なるほどその通りだわ、碌に画面も見ずに電話すんな!ってカイリキさんに言ってもらえばいいのね!」
「多少語弊はありますがそうです。――カイリキさん。特に市民管理ギルドのオヤジとババアからの電話が多いので、カイリキさんの方から注意してもらってもいいですか?」
「分かったよ。これで電話が減ったらいいんだけどね」
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