朝の通勤時間帯。大日本帝国の首都トウキョーでは、今日もたくさんの馬車が行き交い、活気ある大日本帝国を作るために国民が勤務先に向かっている。その非常に混雑する一角、道路のど真ん中を占拠する一団がうごめいている。一団は全員がヘッドライト付きヘルメットに編み上げブーツ、フルハーネス型の安全帯を着用したフル装備の強面の男たちである。腰にはドライバーやウォーターポンププライヤ、コンベックス他といった作業用具が取り付けられていて、いかにも職人といった風体である。
ここは大日本帝国の大都心。行政改革ギルド企画・発案のもと建築ギルドが設計等を行った『蓄電池トラム』の地下鉄路線開発ポイントである。現在値には駅を設置する予定である。そこに集まった先程の彼らは、ほぼ全員が筋骨隆々でムキムキのスーパー職人であり、建築ギルド並びにカイリキ推薦の魔法工事業者である。そのさらに真ん中、拡声器を片手に音頭を取っている貧弱そうなひょろひょろがザザ・ナムルクルスである。
「じゃあ今日から地下工事ということで、皆さんよろしくお願いします!」
「「「あぁあい!!」」」
「改めまして、俺はこの工事の統括現場管理を担当するザザ・ナムルクルスと申します!直接的な現場管理は各建築・衛生の業者さんにお任せすることになりますが、間接的なサポートは俺までお声がけ下さい!作業環境の向上、安全対策・安全装備の購入・設置、その他品質管理は俺の方で担当させていただきます!何言ってるか分かんない人!」
「「「あぁあい!!!!」」」
「皆さん正直でよろしい!」
職人たちは元気よく声を出した。そこは元気よく返事をしないでほしい。
彼らは机上業務の多いホワイトカラーのザザとは違い、バリバリの現場屋さんだ。ザザと多少毛色が違うのも無理はない。だからこそ『事務は現場に干渉するな』と言われないように、ザザはしっかりと彼らの信用を勝ち取る必要がある。ザザの仕事はいわゆる施工管理であり、現場の作業員の方とは切っても切れない間柄となるのだが、とにかく元請の管理担当者は嫌われやすいというのがザザの認識だ。
元請は現場作業をしないかわりに施工管理をすることが多い。施工管理とは、例えば作業が設計通りに行われているかチェックしたり、社給資材の納品や品質チェックをしたり、工期調整や作業状況の撮影、その他直接的な現場作業ではないものの調整業務をすることがほとんどだ。そして、元請は仕事量に対して中抜き……すなわち金銭的マージンを多く取っていく。『仕事を回してあげるんだから、俺たちの取り分としてこれだけお金を持って行くね!』というのが元請のマージンであるが、これが下請の作業員のやる気を削いでしまうのだ。そのため元請というのは、例え問題なく現場を回したとしても、施工管理担当者の能力に関わらず嫌われやすくなってしまう現状がある。
ならばどうすれば良いのか。ザザの答えは簡単だ。要するに、仕事をしてくれる彼らに、しっかりと還元すれば良いのである。彼らの正直な返事にずっこけそうになったが、気を取り直して拡声器を握る。
「じゃあ、改めて俺の仕事を紹介します!空調服持ってない人!!」
「「「あぁあい!!!!」」」
「おい全員かよ!!分かりました!とにかく、今ここにいる全員は勿論、この作業に関連する作業員全員には空調服を支給します!!」
「「「うぇええええええ!!?」」」
職人、びっくり。
よしよし、彼らにはもっとびっくりしてもらうとしよう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!