異世界ギルドで業務効率化

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のちのちザウルス
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なんとかすべきは上司と飲み会、他多数 16

公開日時: 2021年3月24日(水) 21:45
文字数:2,604

ザザの熱弁はさておき。

 

「もしさっきの話が事実なら……というか事実だよね、もう何度も違う属性魔法見てるし。それなら、僕たちも練習次第で違う属性魔法が使えるってことか……うん、それは胸が躍る話だなあ」

 

カイリキはニヤリと筋肉を歪めて笑みを形作った。行政改革ギルドや街の人に限らず、この世界すべての住人の常識。それを打ち破る新たな常識に、さしもの筋肉だるまもニコニコを隠せなかった。

 

「ただし、自分が今使っている魔法よりは数段性能が落ちると思って下さい。得意を伸ばす方が不得意を克服する方より簡単であるように、異なる属性の魔法はそもそも使うのが苦手だからこそ発現しにくいと思うんです。

 それでも、長いこと同じ魔法を使い続けていればメインの属性と大差なく使えるようになるはずです。俺の場合は、例えばライトの魔法限定で火属性並みに得意になりました」

「継続は力なりというやつだね。君のトイレに対する執着には恐れいったよ」

 

ランタン数個だって決して安い訳ではないが、光魔法の使い手にメンテナンスを頼む必要がないことを考えれば余程安価だろう。室内に5個6個と照明設備を付けるのも夢ではあるまい。カイリキは想像する。暗くどんよりとした空気、じめじめした窮屈な執務室からの脱却を。部屋は6つのランタンで明るく輝き、豊富な収納スペースには機密書類が並ぶ。新調された机や椅子は新品の木特有の香りがし、室内を美しい森のように彩るだろう。

近い将来生まれ変わるであろう執務室に想いを馳せつつも、現実的な話もしなければ。

 

「よし、じゃあランタンの導入を検討しよう。予算の確認をしないといけないから、若干手続きに時間を取らせてもらうよ。まあ、上手いことやるからすぐに買えると思うけど、この件は一旦保留にさせてほしい」

「承知致しました」

「後で別属性の魔法の使い方も教えてね。さて……すると、残ったのは空気の話か」

 

 

『行政改革ギルドの室内環境改善について』

問題点:

 ・執務室内の空気が入れ替えされずに滞留し淀んでいる

 

 

「次の会議の議題にしてはいかがかしら」

 

お嬢が挙手して発言する。

 

「ザザ君が言っていた通り、換気装置の設置義務はあったように思うし、それが執務室の広さ基準だった気もする。なれば、この話は規定類を確認しなければ前に進めないだろう。勿論、設置が必要になると分かれば予算の問題も出てくる。まずは調査すべきだ。

 それに、応急対策なら方法がない訳でもない。脱臭能力のある木材を置けば、空気の浄化もできるだろうて」

「プラズ・マクラスタの木ね。私もお世話になってるわよ」

 

マカオが言葉を引き継ぐ。

プラズ・マクラスタの木は、主に『鋭き森』に自生している電気を放つ木だ。この木の脱臭の原理は完全に解明されていないが、発生する電気に臭いの元が吸着、その後分解されるというのが研究者の意見だ。

電気を放つと言っても高電圧ではなく、百ボルト以下の低圧の物が多い。電圧の強さで脱臭能力が変わるのか、電圧の強さは何に依存しているのか、研究のタネが尽きない植物である。

 

「うむ。机等をプラズ・マクラスタ製の木にしてもいいかもしれぬ。一石二鳥だからな」

「ああ、いいわね。値段も手頃だし、探してみましょ」

「話がずれてしまったけれど、今の話の通りよ。換気については私が調査しようと思いますが……構わないわよね、カイリキさん」

「了解、お嬢に任せよう。現状が違法なら、すぐに対策を打たなければならない。分かった時点で教えてほしい」

「承知致しましたわ」

 

よし、これで議題は全てクリアされた。と、カイリキは時魔法のタイマーを確認した。

 

「え、ここまでで25分しか経ってないの!?」

「びっくりしましたか?終わりの時間、ケツを決めて仕事に取り組むのって基本じゃないですか。それを会議に適用しただけです。これまで適用してなかったことの方が俺には驚きですよ」

 

ちょっと書き直しますね、とザザは模造紙に向き直り、新たにこれまでの内容を書き出した。

 

「次回会議日はいつにしますか?中間報告とか必要ですよね?」

「うーん……来週のこの時間でいいかな、会議のペースもまずは様子見だ」

「承知致しました」

 

 

 

『行政改革ギルドの室内環境改善について』

問題点:

<書類関係>

 ・各自の書類が目に見える場所にあり、重要書類も他人の目に留まりやすい

 ・保管が定められた書類について、適切に保管されていない、または保管状況が分からない

 ・法令文書等、業務上使う書類があちこちに置かれていて、都度捜索している

 

<作業場関係>

 ・パソコンのスペック不足により、従業員が本来必要ない手書きの業務を行っている

 ・作業机が小さく、作業の都度物をどかすなど無駄が発生している

 ・執務室内の照度が足りず、業務に対し集中力を欠く

 ・執務室内の空気が入れ替えされずに滞留し淀んでいる

 

改善案:

<書類関係>

 ・カギのついた棚を購入し、書類別に保管する(担当 マカオ、見積まで)

 ・レイアウト変更をし、書類を取りやすい配置にする(担当 マカオ)

   ※レイアウト変更に伴い、執務室の荷物を全て移動する(担当 カイリキ、ザザ)

    移動先は別途借りる手配をする(担当 オーレット、1ヶ月程度目安)

 

<作業場関係>

 ・パソコンおよび付属品を新調する(担当 予算取りカイリキ、見積等ザザ)

 ・新規に机、椅子を購入する(担当 マカオ)

 ・魔石を購入し、ライトの魔法を封入する(担当 予算取りカイリキ、魔法封入ザザ)

 ・換気装置の設置基準について調査する(担当 オーレット、次回会議にて報告)

 

 

 

タイマーはちょうど30分経過を迎えようとしていた。カイリキ、マカオ、お嬢は思う。有意義な時間を過ごしたと。この短い時間に比べれば、これまで昼過ぎ深夜過ぎまでやっていたことは一体何だったのかと言いたくもなる。非常に無為な時間を過ごしたと後悔することもあるだろう。だが、それはそれでいいのだ。業務を効率的に進めるために何をすべきか、今それを知ることが出来たのだから。

失敗を責める必要はない。しかし反省することは必要だ。

 

「よし、では解散!ありがとうザザ君、有意義な会議だったよ」

「こちらこそありがとうございました。生意気なことを発言してしまい申し訳ございません」

「なんだ気にしてたの?それなら……この会議の報告書を作ったら、お咎め無しにしよう」

「ありがとうございます」

 

ふふっとザザが笑う。行政改革ギルドは、その名に違わぬ改革の一歩をようやく踏み出した。

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