「ということでザザ君。君には来月から行政改革ギルドをやめてもらう」
「えー」
「えーじゃない!中央ギルドに異動だよ!?栄転だよ!?もっと喜んでよ!」
「なんでカイリキさんとかじゃないんですか?俺なんか下っ端も下っ端ですよ、中央ギルドの現職の人が納得しないのでは?ましてやギルドマスターだなんて……」
「ああ、その辺は大丈夫、陛下がおられるから」
「余だ」
「なるほど」
「……」
「……」
「へ、陛下ァ!!!」
「こんにちは。君がザザ・ナムルクルス君だね。余はテンノー、大日本帝国を治める者だ」
「ぞ、存じておりますテンノー陛下!!こんにちはございました!!!な、何故英雄とも呼ばれる貴方がこんな薄汚い行政改革ギルドに!?」
「わあ、あのザザ君がテンパってる!後で皆に教えないと!」
カイリキさん!余計なことを言わないで!という授業参観で親が張り切っている時の様な恥ずかしい気分を味わうザザだったが、陛下の御前で下手なことを言う訳にもいかない。そんなザザを気にするでもなく、陛下はお言葉をお続けになられた。
「お前の疑問はもっともだが、理由など1つしかあるまいよ。ザザ、お前に命ずるためだ。余と共に中央ギルドを立て直してくれ」
「……陛下、理由をお聞かせ願えませんか。どうして俺なんでしょうか。俺よりも優秀な人物、中央ギルドの内情をよく知る人物、職級の高い人物、そういった方はいくらでもおられたはずです。どうして俺を選んだのですか」
ザザは率直に自分の意見を申し伝える。それはザザの言う通りであった。彼は高々25歳にも満たない若造だ。そんな彼が他の人間を差し置いてギルドマスターなど、批判は続出すること間違いないだろう。特に、ザザが忌み嫌う年配層からの批判は大きいことが容易に推測できるし、利権にまみれた中央ギルドの上級国民が簡単にザザの言うことを聞くとは到底思えない。中央ギルドのジジイやババアにギルドマスターをやってほしいとは1ミリも思わないが、自分がやって問題が解決するとは考えられなかったのだ。
そんなザザを、陛下はお優しい眼差しでお見つめになられた。
「ザザ。それはな、余が愛した国を、お前が一番良くしようとしてくれているからだよ」
「陛下……」
「これまでの改革、大変見事であった。だが、行政改革ギルドで出来ることには限界があるだろう。お前には、政治や産業は勿論、農業や教育、化学にも革命の火を灯してほしいのだ。お前は、例え自分で実施できなくとも、ちゃんとした有識者に頼って実施してもらう術を心得ている。だからこそ、お前に頼むのだ。分からないことは分かる者にしっかりと聞き、この大日本帝国を発展させることに快感を覚えているお前にな」
「……勿体無いお言葉です」
「くっくっく。それに、大日本帝国中にウォシュレット付きトイレを普及させたがるような変なやつに任せるのも面白いだろうからな」
「それは変じゃないでしょおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「うわあああああああああああ!!!!」
「ザザ君!!!陛下をびっくりさせちゃダメでしょ!!!」
「も、申し訳ありませんでした!!トイレのことになるとつい……」
「よ、良い。余もからかって悪かった」
コホン、と陛下は咳払いを一つ。
「せっかくだ、お前に良いことを教えよう。からかった詫びになるかは分からんがな。この話を聞いたら、お前は今以上に絶対ギルドマスターをやりたくなる」
「……な、なんでしょう」
「ザザよ。中央ギルドのギルドマスターのバック、いわゆる後ろ盾として、好きなだけ余の名前を使うことを許す」
「!?」
「職権乱用せよ」
「やりまああああああああああああす!!!!!」
「ってことがあったわけ。1ヶ月くらい前の話かな」
「ザザ先輩が『ギルドやめる』ってそういう意味だったんですね!もー!ビックリさせないで下さい!!……あは、安心したら涙が出てきました」
「ええええ!?ご、ごめんよハーフさん!!」
「ザザ先輩のバカ!」
「すまないねハーフ君。テンノー陛下には内密に事を進めるようにと命じられていたから、今日まで皆にも伝えることが出来なかったんだ。知っていたのは、陛下とギルマスの僕、そして当人のザザ君だけだったんだよ。本当にすまないね」
行政改革ギルドの執務室。せっせせっせと引継書類を作りながらデスクの片付けをするザザだったが、見目麗しい男性のハーフが涙を見せると流石にその手を止めて宥めている。ハーフは半分からかっている節があるが、本心ではザザが行政改革ギルドからいなくなることが悲しいのは間違いない。別れは誰でもつらいものだが、特にあれだけザザのことを慕っていたハーフは尚更だ。
「……改めて皆にも伝えよう。ザザ君は、当月末を持って行政改革ギルドをやめ、中央ギルドのギルドマスターとして働くことになりました。いわゆる異動だね。ザザ君」
「はい」
カイリキがザザを呼ぶ。それに応えたザザは、作業の手を止めて執務室の中央に歩み出た。彼にしては珍しく、きちんと背筋を伸ばして深呼吸。そして――。
「この度、来月より中央ギルドのギルドマスター職を拝命致しました。皆さんとは当月を持ってお別れをすることとなります。数年という短い期間ではありましたが、この行政改革ギルドで多くの仕事を体験させていただきました。そして、様々な改革を皆さんと実施することができ、本当に嬉しく思います」
「なんて湿っぽい挨拶をすると思ったかああああああああああ!!!!」
「「「えええええええ!?!!?」」」
「俺が中央ギルドマスターに配属されたら、今以上に行政改革ギルドと連携を取って、めちゃくちゃ色んな改革を進めたいと思います!!要するに、皆をめっちゃ利用します!!俺がいなくなったからといって、俺から逃げられると思わないように!!!」
……しんみりした空気が台無しである。だが、それを聞いてマカオがぷっと噴き出すと、それにつられてお嬢も笑い出す。別れに涙を見せたハーフも笑顔を取り戻し、カイリキはうんうんと腕を組んで頷く。ザザは照れながら自分の席に戻り、皆に肩をバシバシされながら引継書類の作成業務に戻っていった。
そうだ、ザザもよく言っていたことだ。改善活動に終わりはないのだと。だからこそ、改善部隊である行政改革ギルドとの活動も終わらないのだ。ザザも行政改革ギルドと物凄く連携すると言っているし、異動してからも繋がりを保てることが分かって、あのカイリキですら目尻に涙を浮かべて嬉しそうに見える。当然、古参のマカオやお嬢も同じ反応だ。彼女たちもザザのおかげで生活を一変してもらった身。残業だらけの環境から、毎日定時上がりの最強ギルド勤めとして合コンでも大人気になるなど、高給でハリのある生活に大幅チェンジしたのだから。しかし、寂しいものは寂しい。あれだけ小うるさかったザザがいなくなるのだ。でも、ちゃんと応援はしてあげたい。
「異動ねえ……なんでもできるって知ったら、そりゃあザザちゃんも中央のギルマスになるわよね」
「ザザ君なら当然ね。あれだけ環境を憎んでいた人だもの、喜んで環境改善に乗り出すのではないかしら」
「ザザちゃんだものねえ」
「ザザ君だからねえ」
「終わった!!!」
と、突然大きな声を上げるザザ。クソほど分厚い書類の束を持って、急ぎ足でカイリキの元へやってくる。
「カイリキさん!こちら引継書類です」
「ありがとう、見ておくよ。――何か個別に口頭で伝えたいことはある?」
「トラムの工事費用なんですが、うっかり計上忘れてたやつがあって大体2倍費用が増えます!」
「は?」
「整理してたらさっき気付きました!」
「おいザザ君!!!」
「じゃあ後はよろしくお願いします!!」
「ザザ君!!おいザザ!!!お前はまだ行政改革ギルドの人間だろうが!!!この仕事は片付けてから異動しろ!!!!おい、帰るな!!!!!」
「ザザちゃんだものねえ」
「ザザ君だからねえ」
「あは、ザザ先輩ですから☆」
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