「それでは、今日から新生行政改革ギルドとして頑張っていきましょう!」
「「「はい!!」」」
翌日。カイリキの音頭で、行政改革ギルドの新しい夜明けが始まった。
朝礼を済ませ全員が各自の席に着くと、早くも喜びの声が上がる。
「ひ、広いわ!どこにでも書類が置けるなんて!!」
「なんと!ファイルごとに分別するだけで、こうも書類を探しやすくなるのか!!」
「部屋が臭くないわ!!なんて快適なの!!!!」
期待通りの反応に、思わずザザは下を向いてほくそ笑む。
転生前も改善提案文書の作成をしてきたザザだが、企業母体が大きい故にその提案が実行に移されるまでには半年から1年以上の歳月がかかった。結果的に、提案が反映される頃にはもっと良い方法ができるなどしたせいで、現場からは良い声がもらえないこともあったものだ。
しかしながら、今回は目の前で嬉しい悲鳴を聞けたこと、スピード感のある職場改善ができたということもあり、ザザはほくほく顔で業務のスタートを切ることができそうだ。
お嬢とマカオから渡された書類を手元に引き寄せ、ザザは雷魔法を唱え――。
「おっと、パソコンや周辺機器も新品になったし、雷魔法の出番はもうないな!ディスプレイはデカくなったし、マウスもワイヤレスなんて最高だぜ!!!!」
午後になり、仕事も落ち着いた頃。
ギルド長会議から戻ってきたカイリキは、デスクワークに励む全員を呼び止めた。
「皆、今いいかい?15分くらい時間もらいたいんだけど」
「全員急ぎの仕事はないわよ」
「じゃあ、会議室へ」
カイリキはそのまま一声かけると、さっさと執務室を離れていってしまう。
「ギルド長会議で何か言われたのか、はたまた何かやらかしたか……」
「行ってみないと分からないわよ。ほら、ザザ君も」
「はい」
会議室に向かうと、既にカイリキが模造紙を貼り出す等の準備をしている最中だった。
後から来た3人が席に着くと同時、カイリキは作業を終えてザザを書記に指名した。
「急に呼び出して申し訳ない。ギルド長会議で色々話があってね、その辺りも含めて説明するよ。まずはザザ君、今回の議題は『今後の行政改革ギルドの改善方針について』だ」
とカイリキは前置きする。ザザはスラスラとペンを走らせ、模造紙にタイトルを記載した。
「では、大きく分けて2つ話がある。
まずは1つ目。今回他部門のギルド長を集めたギルド長会議で、僕は行政改革ギルドの設備更新についての話をしたんだ。率直に言って、今回の設備更新の評判は悪かった。市民の税金を自分たちの私欲に使っているんじゃないかという声を筆頭に、それに近い意見が複数あった」
その言葉にザザはドキッとするも、それも一瞬ですぐに平静を取り戻した。
これは転生前の会社でも起きた問題だ。なんであそこの部署だけ、なんでここは特別なんだ。他所を羨む嫉妬の感情から、部署間での足の引っ張り合いが発生することがあった。今回の他ギルドからの意見も、おそらく同じ嫉妬から来るものであろう。ならば放っておけばよし。
カイリキも同意見のようだ。
「それらの意見に対しては、この設備更新によってこれまで以上の成果が挙げられることを見越して投資を行ったという旨は伝えてきているよ。そして、行政改革ギルドの成果が良かった場合、他のギルドも設備更新をして効率を上げてほしいというメッセージも伝えた。
……今回の件はテストケースとも呼べるんだ。うちが設備更新をしまくって、結果的にそれが投資した金額以上の成果として目に見えるようになれば、自ずと批判の声も止むと思われる」
うんうんと頷く全員に、分かっているならそれでいいとカイリキは一度言葉を切った。
この設備更新は、あくまでも市民の血税で行われていることだ。少しでも市民に還元するために努力を惜しむべきでないのは明白である。
「次に2つ目。これが本題なんだけど、この設備更新を始めとする当ギルドの改革が間違いじゃなかったということを、内外……まずは内部に知らしめていきたい。そこで冒頭のタイトルに戻るんだけど、今後の当ギルドの改善方針を決めたいと思う」
と言葉を切り、カイリキはザザの方をまっすぐ見る。
――僕の言いたいことが分かるかい、ザザ君。
カイリキは心の声を飛ばす。以心伝心で上司の意を汲むのも、優秀な部下の務めだ。勿論ザザは分からない。指示は言葉にすべきなのだ。
カイリキは黙して語らないため、ザザは時間が惜しいとタイマーの魔法を起動した。うんうんと頷くカイリキ。僕の言いたいことが伝わったみたいだね!
口で言え。
また改善のネタが出来てしまったようだ。
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