異世界ギルドで業務効率化

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のちのちザウルス
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第10章

何もしてないならパソコンは壊れない

公開日時: 2021年5月10日(月) 20:00
文字数:1,509

行政改革ギルドに新しい業務のお鉢が回ってきた。

 

「絶対にイヤです」

「そこをなんとか」

「イヤです」

「一生のお願い!」

「無理」

 

どうにか頼むと頭を下げ続けているのが、ここのトップであるギルド長のカイリキだ。そして、そのカイリキのお願いをにべもなく断りまくっているのが、皆ご存知ザザ・ナムルクルスである。

延々と繰り返す生産性のない応酬をかましていると、隣の島(社会人は、各チームの机1ブロックのことを“島”と数えるのだ)から姦しい声が聞こえてくる。マカオ、お嬢、そしてハーフの3人だ。

 

「いいじゃないザザちゃん、カイリキさんが可哀想よ。ねえ、アタシのお願いでもダメなの?」

「できません」

「私からお願いしてもダメかしら」

「勘弁」

「可愛いボクのお願いでも、ですか……?」

「ぐっ……いや、それでも許して下さい」

「うっそ、ハーフちゃんのお願いでも断るなんて」

「よっぽど嫌なのね」

「あは、そんなに嫌なんですか?」

「ぜぇえええっっったいイヤだね!!!ウチの人だけならともかく、ギルド全体のヘルプデスクなんて絶対イヤだ!!」

 

そう。ザザが死ぬほど断りまくっているのは、中央ギルドを始めとしたすべてのギルドの統括ヘルプデスクなのである。この度、行政改革ギルドの発案によって、全ギルドに新型のパソコンと大型の作業用ディスプレイを導入する運びとなった。それに伴い、長らく使用していた旧式のファイルやアプリケーション、システムを一新することになったのだが、どうせやるならと行政改革ギルド(の中でも主にザザ)が新しいシステムの選定まで行った結果、『そこまでやったならサポートも合わせて俺たちの面倒見てくれよ』と中央ギルドにお願いされ、彼らにヘルプデスクの仕事が割り振られてしまったのである。

 

ここで、ヘルプデスクの仕事について説明しておこう。ヘルプデスクを一言でまとめると、ギルド内において主にIT関連の複合的なサポートを担っている部署を指す。IT関連のサポートとは、例えばパソコンの細かな操作方法やWi-Fi不調時のネットワークの繋ぎ方といった問合せ対応、パソコンの点検やクリーニングおよび取替・撤去作業、ギルド内における専用ネットワークシステムの構築や整備、新規ソフトウェアのインストール作業並びにインストール手順書作成、サーバーの設置や設営、ギルド内からのネットワーク関連の問合せ対応やトラブルの対処、新規システムの導入・調査・見積もり依頼・コスト調整など非常に多岐に渡る。

 

「ザザ君はワガママだなあ。っていうか、あれだけシステム導入に関わっておいて、後はお前らで勝手になんとかしろなんて酷いんじゃないの?」

「そ、それは確かにそうなんですが……それでも嫌なものは嫌なんです」

「何がそんなに嫌なんだい?」

「何がって言われても……うーん、じゃあ条件を付けましょう。1日限定のヘルプデスクです。担当が初心者だからとかなんとか理由をつけて、とりあえず1日限定でヘルプデスクをしましょう。勿論皆さん全員にも協力してもらいます。そうしたら、俺の言っている意味がよおおおおおおおく分かると思いますから」

「素直じゃないなあ。大丈夫だよ、そんなに頻繁に質問の電話なんか来ないからさ。ザザ君が適当に電話取って終わりだよ」

 

 

 

来た。めちゃくちゃ電話が来た。

カイリキは前日の発言を死ぬほど後悔することになる。解禁された行政改革ギルドのヘルプデスクはひっきりなしに電話が飛び交い、カイリキの予想を大きく外れ、ザザだけでは当然電話の手が足りずにカイリキを含めたギルドメンバー全員が電話対応をすることになったのだ。

今も全員白目を剥きながら電話応対をしているが、その絶望の詳細を見ていこう。

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