地下の掘削作業が一体どのようにして行われるのかというと、おそらく最初は図面とのにらめっこになるだろう。既に埋設されている配管等がないか確認するのだ。インフラ配管や電力ケーブルなどが埋まっていた場合、掘削時に切断・損傷させれば損害賠償ものだからだ。
大日本帝国では、先の道路工事と通信工事の際に掘削を行い、上下水道管と光回線ケーブルを埋設していた。したがってこれらを避けて掘削する必要があるのだが、掘削範囲が広いため流石に全部を避けることは出来ず、一部は移設工事をしなければならないだろう。
さて、図面をしっかりと確認したところで、今度は掘削に入る。ここ大日本帝国は現代日本程産業機械が発達しているわけではないが、それでも掘削用の重機は存在する。今回の作業もそういった大型のバックホウ(先端に“バケット”と呼ばれる地面を掘るアレが付いてる重機、工事現場によくあるやつ)等によってガンガン掘っていくわけだ。しかし先程説明した通り、地面には配管が埋まっている。すると、ガンガン掘るだけではうっかり配管を損傷させる恐れがある。そういう時に行うのが試掘だ。現代日本ではバックホウでちょびちょび表面を撫でるように掘るのだが、ここは異世界。土魔法を使って土を隆起させたり、土の粘度を下げて掘りやすくしたりするため、作業効率は段違いだ。中でもぶっちぎりに工期を短縮するのが、世間では非常に珍しい空間魔法の使い手による作業である。
「じゃあいくぞおおおおおお!!!」
「「「うぅううい!!!」」」
みし、と空間が歪み、地上数センチの位置に直径2メートル程度の大きな空間の裂け目が生まれる。かと思えば、その作業現場から50m程度離れた『土砂・砕石捨て場』と書かれた広いスペースの上空にも同様の裂け目が出現する。それを確認して合図を送ると、土魔法の使い手たちが一斉に掘削箇所の土を隆起させて空間の裂け目にホイホイと土を放っていく。するとどうだろう。作業現場の地上数センチの裂け目に放り込まれた土は、空間の裂け目を通じて『土砂・砕石捨て場』の裂け目から放出されていく。
作業時間わずか数分。あっという間に地中の配管がむき出しにされた。
「よーし、配管の位置割ったぞー!他に配管ないからどんどん掘ってくれー!」
「「「らぁああい!!」」」
今度は容赦なくバックホウが地面を削る。そして、そのまま掘削した土を土捨て場に――。
「掘れ掘れー!」
――土捨て場に全然捨てない。掘っては掘ってはまた掘る動作を繰り返しており、掘り返した土をどこにも捨てることがない。それもそのはず、バックホウのバケット部分には先程の空間の裂け目が付いており、掘削した端から先程の『土砂・砕石捨て場』へと土が消えていくのだ。重機のアームを動かす作業量がごっそり減っているため、作業ペースは従来の10倍近く高速になっている。
そして、重機の邪魔にならない位置に先程の土魔法部隊が現れた。
「よーし、固めるぞおおお!!!」
「「「えぇええい!!!」」」
彼らは土魔法を唱えると、掘削した部分の法面が強固に固まっていく。そう、魔法による『土留め工』だ。土留めとは、地盤を掘削した時に掘削箇所が崩落しないように設ける仮設構造物であり、コンクリートを打つまでの繋ぎのようなものだ。あっという間に掘削箇所の壁は綺麗に固まり、崩落することはなくなった。
「じゃあ、今日のうちにいけるだけ行くぞおおおおお!!」
「「「しゃあああああい!!」」」
と、この通り従来の作業工程を大幅に短縮できるようになったのだが、そこには建築ギルドとザザによる共同研究の力が大きい。暇さえあれば魔法の新しい使い道を探していたザザは、数ある魔法が仕事の効率化にならないかと悩んでいた。そこに相談を持ち掛けてきたのが建築ギルドである。建築工事は非常に時間がかかるため、時間短縮の知恵はないかザザに質問を投げかけたのが始まりだ。
ザザに建築工事の知見はなく畑違いであったが、それ故に『こんなのどう?』と提案した内容は奇抜かつ斬新であり、興味を持った建築ギルドが提案内容を補強して、それが今の工法に繋がっている。例えば、現地で排出した掘削土を土魔法でコンクリートに変換したり、地下工事に必要な換気装置を風魔法で代替したりすると言った内容だ。これにより、現場は大きく材料費や工費を削減することができ、ザザが安全対策費に投入する資金が増える結果となっている。
とかなんとか言っている間に、現場の掘削作業は地下1階部分の大詰めを迎えていた。いや、早くね?と思うのも無理はない。魔法学校で授業を行っている他属性魔法の使用訓練を現場作業員にも行わせ、土魔法を使える人数を10倍以上に増加させたのだ。これに限って言えば彼らから別料金を徴収しているのだが、おかげで作業効率は段違いだ。空間魔法を駆使すれば、地下深くで発生した掘削土も重機で地上まで上げることなく搬出することができる。まさに魔法さまさまである。
おおよその終わりが見えた所で、現場監督が作業員の職人たちに声をかけた。
「よし、じゃあ今日の作業は終了!」
「「「はい!!!」」」
「おめーら終わる時だけは良い返事だな!!!」
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