魔法についての説明をしよう。
いわゆる異世界作品における一般的な魔法とは、おおよそが『攻撃』魔法に分類される。この世界においてもそれは例に漏れず、魔法とはモンスターを討ち果たすために使用されるケースが多い。一部の例外として、例えばお湯を沸かすために火属性の魔法を用いたり、シャワーの代わりに水属性の魔法を用いたり、風属性の魔法で洗濯物を乾かしたり、土属性の魔法で道路工事をしたりすることはある。一部の温泉宿では、水魔法の使用者が水を溜め、火魔法の使用者がお湯にするという組合せの芸当も行われているようだ。
このように、汎用性の高い魔法を日常生活に転用することは勿論ある。だが、ザザの魔法はこの世界を長く生きたカイリキからすれば到底理解できるものではなかった。
「お、オーバークロックとは何かな?」
「俺は全然パソコン詳しくないので細かい説明はできないですが、シンプルに言うと処理速度がちょっと上がるんですよ。このパソコン、名前はショウワ2000でしたっけ?キーボードで文字を打つだけでも滅茶苦茶もっさりするんで、雷魔法で良い感じに処理能力を上げてるんです。ただ、処理能力を上げると熱暴走しちゃうんで、風魔法を使って冷却してるんですよ」
「何語???」
ザザはパソコンを起動し、バチバチと雷魔法を行使する。
「俺の故郷には『百聞は一見に如かず』という言葉がありまして、要は“まあ見てみろ”って意味です」
文字を打ってスペースキーを押す。従来なら変換されるまでに多少の時間を要するが、ザザが雷魔法を使うと瞬時に文字が変換された。
「こんなカスみたいなパソコンじゃ仕事できないですよ。重くて重くて」
画像を書類に貼る。そんな作業だけで、画像処理にパソコンは膨大な時間を食うはずだ。しかしながら、ザザのパソコンは止まらない。まるで現代日本のゲーミングPCを使っているかのごとくサクサク処理されていく。
「今本体を触ってみて下さい。多分めっちゃ熱いですよ」
ザザに言われ、カイリキはパソコン本体に触れる。なるほど、火傷するほどではないが物凄い熱量だ。ここまでパソコンが熱くなると、いくらパソコンに疎いカイリキでも心配になる。
「これを風魔法で冷却します。俺は水魔法が使えるので応用して水冷式にしてもいいんですが、とりあえずこれでパソコンは壊れません」
と、今度はパソコンからみるみる熱が引いていく。あれほどまでに熱を持っていたパソコンは嘘のように冷たくなり、しかしそれでも今尚ザザの作業に耐えながら処理を続けている。また、風魔法がパソコン内のホコリを吹き飛ばして綺麗にしたためか、心なしか先程よりも動作が軽快に感じる。
それにしても、ザザは一体いくつの魔法を使ったのか。常識的に考えれば、魔法は1人1属性というのが通例だ。たまに複数の属性を使うものもいるが、彼の得意は火属性だと聞いている。面接時の話では水魔法も使えると聞いていたが、今のも合わせれば4属性の使い手だ。はっ、とトリップ状態からカイリキが戻ってきて咳払いを一つ。
「ザザ君!君はすごい!もしかして、うちの行政改革ギルドに入ったのは、こういう魔法を普及させるのが目的なのかい?」
「それも勿論ありますが……」
ザザも咳払いを一つ。
「このうんこまみれの反吐が出る程クソ汚い掃き溜めの街を浄化するのが今の目標です」
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