今日もバタバタとせわしなさを感じる行政改革ギルド、その執務室。今現在も求人募集が続いているが、早目に書類選考を通過して課題を渡された者からは、ちらほらと課題が返送されつつあった。その課題にあれやこれやと目を通し、ふうと一息つく筋肉が一人。
「うーん、なかなか“これだ!”って人は見付からないねー」
腕組みをしながらカイリキは唸る。それを見て雑談に興じるギルド員たち。
「そうなの?私やマカオの時はあっさり決めていたらしいじゃない。ザザ君の時だって、これは面白い!って大きな声を出していたと思ったけど」
「いやー、お嬢やマカオ君、ザザ君は分かりやすく優秀だったからね」
「あら。お世辞でも嬉しいわ」
「まあ、アタシやお嬢は聖ツインテの出身だし、ザザちゃんは多属性魔法の使い手だって話題になっていたもの」
「え!?マカオさんって聖ツインテ卒業したんですか!!?あそこお嬢様学校ですよ!!?」
「アタシがお嬢様に見えないって言うのおおおおおおお!!!!??!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」
ザザは一言多いのが玉に瑕だが、あれは多分わざとやってるんだろうとカイリキは思う。とにもかくにも、彼は周囲の輪を大事にする人間だ。それとなく弄っていい境界線を見付け、周囲に笑顔が生まれるように努力をしているのだろう。人をバカにするのは褒められたものではないが。
「おや」
ふと視線を書類に戻すと、1つの課題に目がとまった。そして感じる。彼らギルドメンバーを選んだ時と同様の直感を。
「ふむ……。お嬢、マカオ君、ザザ君」
「何かしら」
「会議室に集合だ。議題は、この人の採用是非について」
会議室。これまで開催されていた不毛な会議はすっかり鳴りを潜め、今では会議の用途ではたまにしか使われることがなくなってしまった部屋だ。使用頻度としては、会議よりも個別の業務相談としてマカオやザザが使うことが多い。彼らの仕事には複数の図面が絡むことが多いため、色々書類を広げるのに便利だからだ。
しかしながら、今日は久しぶりに正しく会議の用途で使用することになった。タイマーの魔法をザザが起動し、カイリキが話し始めると同時にカウントダウンが開始された。
「会議時間は15分だ。一緒に働くメインメンバーは君達だから、彼の履歴書、課題の回答を見て、彼がうちに相応しいかどうか意見を聞かせてほしい。ちなみに、上司の僕の意見としては、彼を採用したいと思っている」
「そこまで言うならいいんじゃないかしら。アタシは見なくても採用でいいわよ。見るけど」
「私も同意見、採用でいいと思うわよ。一応書類は見るけど」
「俺も早速拝見します。えーっと履歴書は……うわ、すげぇ美人だ!!!え、男!?」
「そうだ、彼は紛れもない男性だよ。今の職業は男の娘Yo!tuberだそうだ」
「とんでもねぇな……ますますうちが女性職場になっちゃうよ」
「うちの職場はジェンダーレスだからね。ビジュアル、職歴もそうだが、課題の回答も結構クレイジーだよ」
と、各々が配布された課題の内容を見る。問題の作成には全員が関与していたが、そういえば他人の回答を見るのはこれが初めてだ。さてさて、一体どんな回答をしてくれたのか……。
「まずはタイピング試験の結果だよ」
「……タイピング220文字、467タイプですか、これ俺よりもめちゃくちゃ早いですね。プログラマー並ですよ」
「ザザ君は170文字くらいだっけ」
「本気で打っても200文字いかないくらいですね。社会人としては1分間に60文字、つまり1秒に1文字打てれば平均的、2文字打てればタイピングが早い方だと言われています。そこからすると、1秒に4文字弱って相当早いですよ。流石Yo!tuberだ」
「彼はシステムエンジニア関係の資格もたくさん持っていてね、社内のパソコン関係のトラブルを任せるにも良いと思うんだ」
『第2問。魔法学校に取り入れるべき教育として、あなたが考える相応しい教育内容を述べなさい。また、その理由についても述べなさい』
取り入れるべき教育:投資、特にお金儲けに関する教育。
理由:人生100年時代と言われているが、自身が労働の価値を提供できる時間は限られている。すなわち、自身が労働力の対価として金銭を受け取ることが可能な期間は短く、先の長い人生を豊かに過ごす手法は学んでおくべきだと思ったから。
「パンチがあるわね。アタシは嫌いじゃないわ」
「私も同感ね。他国と比べると、大日本帝国は投資に関する教育が大きく劣っているとされるもの。諸外国は、若くして証券口座を持って株式取引をしていると聞くわ」
「俺も悪くないと思います。問題は投資運用に関する師について心当たりがないことですが、証券会社から講師を探してきてもいいかもしれません」
『第3問。あなたの身近で困っている些細な問題を1つ挙げなさい。それを解決するためには、どのような方法があれば良いか述べなさい。この際、金銭的制約を無視できるとします』
問題:色々なシャンプーを使ってみたいが、店売りの物はすべて大きなボトルのため、多くの種類を試すことができない。
解決方法:企業に依頼して、小型のボトルで販売させる。または量り売りで販売させる。
「本当に些細な問題で笑ってしまうわ」
「いやいやお嬢さん。俺だって普段考えてる改善提案は、こういう身近なところからアイデアを拾ってきてるんですよ。そしてこのアイデアは悪くない。量り売りなら色々試せるし、お洒落な小瓶や入れ物……それこそ箱型でもなんでもいいです、入れ物の需要も伸びる。商人ギルドにアイデア提起したらいいかもしれません」
「ザザちゃん、悪い顔してるわよ」
『第4問。大日本帝国で使用されるスパコン、富岳。これを活用して、貴方ならどんなビジネスを実施するか、アピールポイントと共に述べなさい。この際、金銭的制約を無視できるとします』
富岳を活用したビジネス:排熱を利用した屋内型のイチゴ農園を作り、“富岳イチゴ”としてブランド化した上で売り出す。
アピールポイント:富岳は常に演算を続けており、余分な排熱が常時発生している。排熱は無料であり、温度管理のための空調も設けられているため、ハウス栽培をするのに向いた環境と言える。ハウスを作るより予算を抑えられ、ネームバリューも出るので売れると思う。
「て、天才かしら」
「計算機を演算に使わない発想……盲点だわ」
「あ、カイリキさん。これ見て一個思い付いたんで後で報告書出しておきます」
「怖いから今聞いてもいい?」
「ゴミ処理場の火魔法部隊、火力余らせてるらしいんですよ。焼却の余剰熱使ってタービン回してトラムの蓄電池に充電させましょう」
「トラムと焼却場はちょっと距離が遠いんじゃないかな。発電しても損失が大きいかも――いや、終着駅からだと近いのか」
「ロスは計算しておきます」
『第5問。今回、行政改革ギルドでは定例的に実施していた筆記試験、並びに面接を廃止することとしました。これに伴う削減コスト、年間の業務削減量を推定しなさい。なお、推定に当たっては関連する条件を自身で定めてよいものとします』
「あ、この問題の時だ。この人行政改革ギルドに電話してきたんですよ」
「電話?試験中にかけてきたの?」
「そうです。まあ、電話していいよって問題に書いてたんで、電話かけてくること自体は問題ないんですよ。それで、電話は俺が取ったんですが、『現在問題を解き始めて15分が経過しています。しかし、このままでは予定の1時間以内にすべての問題を解くことが出来ません。大変申し訳ございませんが、回答時間を延長していただくことは可能でしょうか』みたいな内容でしたね。いやー、“納期をしっかり考えてくれてるな”って感動しちゃいましたよ」
「この問題は、1時間ではギリギリ全部解けない程度に僕が設定したからね。締切を守る人間なのか、仕事の完成率を80%で提出しちゃうタイプの人間なのか、ある程度の人間性をチェックできるようにしたんだ」
「さて、20問目までの回答を見たわけだけど……みんなどうかな?彼に入社してもらおうと、僕は思う」
「「「異議なし」」」
以上、ここまでがデッカイドウのドウトー出身、ハーフ君の入社までの経緯である。
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