カイリキが食事から戻ると、ザザの姿はどこにもなかった。報告書はちゃんと書いたのかと憤りながら自分の席に戻ると、『議事録』と書かれた1枚の紙が目に留まる。
「え、もう書き終わってる!?早いってレベルじゃないぞ……」
今更ながらの説明ではあるが、この世界にもパソコンは存在する。しかし、この部署のパソコンはWindows2000レベルの化石パソコンが最新型だ。
カイリキは、ザザの報告書に目を通し始める。
『会議報告書
XXXX年 XX月 XX日
作成者 ザザ
出席者 カイリキ、マカオ、オーレット
報告内容 ……
備考 …… 』
よくまとまっている、というのがカイリキの素直な感想だった。様式や体裁も整っており、枠線等が添えられて作られた分かりやすい報告書。これまでマカオやお嬢といった部下から提出されたどの報告書よりも見やすく、内容も箇条書きで簡素にまとめられている。彼らの報告書は大体が手書きで提出されるケースが多いため、パソコンできっちり作られた報告書がこんなに見やすいとは思わなかった。
とは言え、現代日本のビジネスパーソンならば、誰でもこの程度の文章は書けるだろう。ザザもこれまでの社会人生活で活用していたフォーマットを思い出し、それに倣って提出したに過ぎない。
しかし、ショウワの時代から生きるカイリキには、この“パソコンが使える”という小さなことですら“出来る人間”に見えて仕方ない。驚愕と感嘆に耽っていると、渦中の人が食事から戻ってきたようだ。サッと呼び止める。
「ザザ君!ザザ君!」
「え、なんですか?お昼休憩したいんですけど……」
「お昼休憩より上司の言葉だよ!ザザ君、この書類はどうやって作ったの?」
一瞬ザザの顔がこわばったような気がしたが、すぐに元の表情に戻る。叱られるとでも思ったのだろうか、少し緊張したような面持ちでザザが話し始める。
「どうやってと言われると説明が難しいんですが、議事録や報告書はこういう風に書くと教わったので」
「へーそうなの?最近の学校ではこんなことも習うのか。パソコンの授業でもあったの?」
「パソコンの授業はありませんでしたね。こんな高い物、地方のチンケな学校だったら、学校に1台か2台あればいい方です」
「(チンケ……)そ、それにしては随分早く作ったようだね。何かコツがあるのかい?」
「ああ、パソコンのスペックが死ぬほど低かったので、雷魔法と風魔法を使って強引にオーバークロックして作業速度を上げてるんです」
「は?」
オーバークロック??
いや、それよりも雷魔法と風魔法だって?
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