「なるほど、感情を抜きにして考えれば、これほど強力な加護はあるまい」
恰幅の良い軍人が前に進み出た。
「軍事顧問のジョンイルソンです。ジェン・ムイン氏のプレゼン中ですが、シューエンペイ議長、私の発言をお許し頂きたい」
「許す」
「感謝を。まず、我々が説明しようとしていたのちのちザウルス捕獲作戦についてです。今回提案しようと考えていた竜撃砲による軍事作戦ですが、今の説明を伺った結果、元勇者パーティのシオン氏を使った作戦に劣ると思ったため案の取り下げを致します。その上で、竜撃砲にシオン氏のバフをかけて、のちのちザウルスに砲撃する案を提案します」
「続けたまえ」
「はい。まず、シオン氏を作戦に起用する点は私も賛成です。彼は多くの魔法を使える貴重な戦力だ、それを遊ばせておくには余りにも勿体ない。是非とも我が軍に参加していただきましょう。まあ、彼自身が味方になってくれる意志があれば、ですが。さておき、シオン氏を筆頭としたパーティによる攻撃ということですが、火力不足が懸念されるのではないかと愚行致します。そこで、当軍事部門にて製作した新兵器を提供したいと考えました」
後ろから大きな甲冑に身を包んだ数人の兵士が、その甲冑を僅かも鳴らさずに現れる。ジョンイルソン肝入りの直属部隊、ホーリーナイツだ。そして、彼らの手に持ったトレーの上には、鈍色に光る大きな丸い玉が輝く。
「こちらが我が軍の新兵器、竜撃砲用の徹甲弾です。材質はブラックドラゴンの牙とアダマンタイトの合金であるブラッグドラグタイト製であり、同じくブラックドラグタイト製の射出機構を用いることで高威力・超射程を実現しました。試験では、厚さ50cmの鉄板すら容易く射抜く威力を有しております。しかし、それでものちのちザウルスにダメージを与えるのが限界で、直接打ち倒すには何発も直撃させる必要があると予測演算結果には出ております」
話しながらジョンイルソンはため息をつく。人間や魔族は勿論、竜の巣にいる大型竜ですら、この竜撃砲の前には一撃で沈むことだろう。しかし、のちのちザウルスの装甲はそんな竜族もかすむ程に堅い。かの神獣ベヒーモスを遥かに凌ぐとされ、コリアントチャイナが誇るスパコンの演算をもってしても500発以上打ち込まなければ打倒できないという結果がはじき出された。正直たまったものではないが、この演算結果を打ち破る術をジェン・ムインは持ってきてくれたのだ。ジョンイルソンは続ける。
「ここで、シオン氏の魔法に着目しましょう。彼の魔法には、多岐に渡るバフをかけるものもあります。その魔法によって弾速・威力を上げることで、のちのちザウルスからの反撃を受けることなく打倒することが可能なのではないかと思います。細かい計算は再度の報告とはなりますが、我々も彼の強化魔法には苦戦させられた身、威力の保証は期待できるかと」
「なるほど、私もジョンイルソンに賛成です」
ジェン・ムインが賛同する。
「ここまでの魔法の使い手であれば、シオンはいずれ引く手あまたの存在になるでしょう。正直なところ、誰かに目をつけられて引き抜かれる前に作戦に組み込んでしまいたいです」
「なるほど、シオンはどうかな」
シューエンペイはシオンに水を向ける。今まで不動の姿勢で黙していたシオンは、シューエンペイに体を向けると深く礼をした。
「私は多くの魔族を屠ってきた身です。これが償いとなるのなら、喜んで貴方たちに協力いたしましょう。人間は醜い。よほど貴方たち魔族の方が血の通った美しい種族です。魔族のため、是非とも私をお使い下さい」
「あい、分かった。シオン、表を上げなさい。誰も貴方に危害を加えないことを約束しよう。その魔法の腕、腐らせておくにはあまりに惜しい。差し支えなければ、我々のコリアントチャイナにてその腕を存分に振るって欲しいと思っている。勿論、家族を殺された魔族の中には、貴方を許さない者もいるだろう。だが、魔族は基本弱肉強食の種族。今は許せずとも、時の流れがいずれは強い貴方を認めるはずだ」
「はい」
「それまでは苦しい思いをするかもしれない。しかし、元勇者パーティの貴方なら、この苦境もきっと乗り越えてくれると信じている」
シューエンペイはそこで言葉を切り、改めて全員に向き直る。
「ここが国家の正念場。のちのちザウルスを我が国の物とし、必ずや国益をもたらそうぞ!」
「「「はっ!!!」」」
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