「俺が入社した月の給料は、入社の前月の働き――つまり、カイリキさんたちの活動によって得られた対価ということなんですね」
「そういうことになるね」
「どんな活動をしていたんですか?」
「マカオやお嬢に書類作成を頼まれていたことがあるだろう?行政改革ギルドには毎日多くの市民の声が届くんだ。届いた嘆願書なんかを見て、市民が必要としている公共事業なんかを調査&業者や他ギルドに発注して市民の快適性を保ったり、区ごとの条例を監査&適正に順守されているかを管理したりして、行政を良くする活動をしているよ」
確かに、2人の指示を受けてなんかの書類を打った記憶がある。あれが嘆願書か。
「先月の会議の時にも思ったんですが、仮に嘆願書を見て何か活動をするとして、優先順位は決まっているんですか」
「一応社会的貢献殿高いものから実施する、という建前にはなってるんだけど、実態としては実現させやすい――つまり、市民の支持を簡単に得られるものからやっているよ」
「うーん、給料がかかっていますからね。あんまりうるさいことは言いたくないですが、それって正直どうなんです?」
「これまでは、僕たちは深夜まで仕事をしていたからね。あまり難易度の高い仕事や、工期の長い仕事は選別して弾いていたんだよ。情けない話だけど」
と、カイリキはいかり肩をしょんぼりさせる。無理もない、あれだけ多くの無駄な仕事によって苦しんでいたのでは、まともに重要な仕事をこなすことはできないだろう。幸いにして、別に政治家でもなんでもない当ギルドには公約が存在せず、いつまでに何をしますといった宣言をしていない。何か大きな事業をやるにはチャンスかもしれない。
「まあ、気にしても仕方ないですよ。俺たちは新生行政改革ギルドですからね、これまで以上にバシバシ活躍して、市民の税金を根こそぎ奪ってやりましょう。
それに、税金がたくさん入ってきたら新しい人材も雇えます。新しい人がきたら、これまで以上に大きな仕事をこなすことだってできるようになりますよ!」
「だと良いんだけどね。はい、これが今月処理分の嘆願書」
ドスン、とそれなりに良い音をさせてカイリキが段ボールを机に置く。段ボールにはそれなりの量の紙が納められており、全部で数百枚以上はあるだろうか。中には『近所の犬がうるさい』『夜中に大声で歌っているやつがいる』といったお悩み相談から、『町の臭いが気になる』といった意見まで――。
「こ れ だ」
「え?」
「次の会議の議題にかけましょう。俺は、下水道の整備をすることを提案します」
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