異世界ギルドで業務効率化

―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―
のちのちザウルス
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マナー講師のマナー、ほとんどマイルール説 7

公開日時: 2021年5月3日(月) 20:00
文字数:1,899

会場に静けさは戻ったが、この後は一体どうするのか。肝心のマナコも不貞腐れてどこかに行ってしまったし、このまま解散となりそうな雰囲気が流れる。そこに、先程まで講釈を垂れまくっていたザザが戻ってきて一声。

 

「では皆さん!せっかくですので、ここからは行政改革ギルドが新しい大日本帝国のマナーを提案したいと思います!ゆくゆくはメディアにも情報公開して、大々的に普及させたいと思っていますのでご協力よろしくお願いします!!」

 

おー、なんだなんだ!

 

「え、ホントに何?あれ、ザザ君そんなの予定になかっ――」

「それでは記念すべきファーストマナー!!」

 

カイリキの声をガン無視し、ザザはよく通る声で最初の新マナーを叫ぶ。それは――。

 

「残業することは会社や他のギルド員に失礼なので、定時5分前には退勤する!!!!」

「「「!!?!?」」」

 

その時、大会議室にいた全員に激震が走る。

いや、一部の上席者は違う意味で固まっている。コイツは一体何を言っているんだと。だが、それ以外の一般ギルド員の顔には、一瞬遅れて笑顔が灯った。そんなことにはおかまいなしに、ザザの言動はエスカレートしていく。

 

「皆さんは勿論ご存知だと思うんですけど、実は残業することって会社にとってデメリットしかないんですよ!だって、時間単価が25%もアップするんですよ!?給料を25%も多く従業員に支払わないといけないなんて、会社にとって物凄い損失なのは当然ですよね!例えば俺が入社する前の行政改革ギルドの残業時間をトータルすると、1人平均70~80時間/月×12ヶ月×3人分で大体2500時間、およそ俺1.6人分の年間労働時間が残業によって行われていたんです。1.6人分ですよ!?単純計算で、1.6×1.25 = ザザ2人分の残業代を毎年支払っていたんです!こんなバカなことがありますか!?……それからしばらくして俺が入り、今年はハーフさんという新入社員も増えて、行政改革ギルドの残業時間はゼロになりました。にもかかわらず、業績は伸び、生産性は何倍にも上がり、より質の高い改善を大日本帝国民の皆さんにお届けしています!残業をしないことは、こんなにもメリットに溢れているんです!

残業することのデメリットはお金の話だけじゃありません。労働基準監督署に目を付けられることも増えるし、過重労働は従業員や従業員の家族に訴えられることも増えます!これらは、いわゆる内部告発者によるものです。いわゆる“数字のマジック”によって繰り返される違法残業や、月間で100時間の過労死ラインを超える残業をしているという密告が、ギルドや会社の人間あるいはその家族から労働基準監督署になされます。すると、労働基準監督署は重い腰を上げて密告されたギルド等に調査に入るわけです。するとどうでしょう!大きな組織ほど、こういった問題は報道機関へと情報が流れ、世間から大バッシングを受けることになります!ギルドの信用は大きく失墜することになるでしょう!……一度失った信用を取り戻すのはとても難しいです。まして、このご時世に残業超過で告発されたなんて声が出たら、二度と企業としての日の目を見ることはないでしょう。

残業によるデメリットはまだまだあります!従業員はどんどんストレスが溜まって、残業した翌日の生産性は極めて落ちることがメリケン大学の研究からも分かっています!それだけじゃありません!このストレスというやつは、その他様々な有害な効果をまき散らします!まず、髪がハゲます!!どうでしょう皆さん、ハゲになりたいですか?ハゲになりたい人!!!……はい、1人もいません。そう、ハゲになりたい人は1人もいないのです。ですが!残業をしている限り、あなたの髪は必ずなくなってハゲます!!!それがストレス、もといその原因である残業の運命なのです!ハゲの他にも、太る、老ける、脳が委縮する、家族に嫌われる等々、ろくなことがありません!!!」

 

ザザは一気にまくし立てると、ふと冷静になって聴衆を見渡した。すると、あまりのことにポカーンと口を開けたギルマスたちが良く見える。よし、そんなアホ面をしている君たちにも教えてあげよう。

 

「もう一度言いましょう!これが行政改革ギルドが提案する新しいマナー!『残業することは会社や他のギルド員に失礼なので、定時5分前には退勤する!!!!』以上です!」

 

うおおおおおおおおおお!!!!

割れんばかりの歓声。おや、ギルマスたちが何か声をあげているようだな。でも、残念ながらザザの耳には一切聞こえない。大多数のギルド員の大声がすべてを掻き消す、これが民意。大日本帝国を支える一般社員たちの声なのだ。

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