私の名前はロウガイ。今年で55になる、しがない一流企業で勤務する社員だ。ちなみに独身である。
部署の中では主任職についている。この会社には私にしかできない仕事がたくさんあり、私はそれらの仕事を時間外をほどほどにしつつもこなしている。しかし、最近新しく配属された年下の上司は、そんな私を高く評価せずにあーしろこーしろと嚙みついてくる。コイツは私より経験が少ないんだから、私の言うことを聞いていれば上手くいくこと間違いないというのに。
現に先日の設備改修工事だって、私の提案した方法なら現場が動きやすいはずなのに、年下の上司が『新しいシステム導入の一環として、この施工管理ツールを使ってくれ』なんて言うから、時間のかかる余計なことを覚えて仕事をしないといけなくなってしまった。なんでも本店からの指示らしく、現場での活用状態と使用感を調査したいんだと。まったく、本店はいつも無駄なことばかり考える。今のやり方で行った方が間違いなく効率的だろうに。
特に最近は、世間がそういう風潮になってきたのか『効率化!業務改善!』と本店がうるさくなってきた。年に1つ、なんでもいいから、個人が改善提案を行ってくれと言ってきている。だったら、私は本店に良い話を教えてあげなくてはならない。『この施工管理ツールを使わない方がよっぽど効率的に仕事ができますよ!!』ってね。
そうだ!せっかくだから、法務課のキレイコちゃんに教えてあげよう。こないだの河川法の手続き書類でお世話になったし、法務課も新しいツールを導入するって言ってたからな。みんなで新しいツールはお金の無駄だって言えば、本店も考えを改めてくれるに違いない。
そんな中、私の愛読新聞であるイデリースポーツに、行政改革ギルドの蓄電池トラム計画が一面記事で載っていた。なんでも、大日本帝国の首都に大型の交通網を設置して、首都交通機能の改善を行うんだとか。まあ、お偉いさんの考えることはともかく、その次の記事に目がいった。
『行政改革ギルド 新ギルドメンバー募集!?税金で求人募集やめろの声』
記事によれば、トラム計画の発表の後、その記者会見の場を使って求人を募集したのだとか。確かに、コイツらは私たちの税金を使って私利私欲のために使った訳だから、叩かれるのは当然だ。と同時に、私は1つの名案を思い付いた。
こんな連中も国家ギルドで働いていけるんだから、一流企業勤めの私が入社したら大活躍間違いなしでは?
うむ、これは天啓だ。今の会社にも不満が多くなってきた。最近は転職をしたことがない人間は評価が低くなると言われているし、人生100年時代で私もあと20年は働く可能性があるからな、ここらで転職を考えるのも悪くないだろう。条件も相当良いみたいだしな。
「えーっと、履歴書と職務経歴書を出せばいいのか」
フォーマットはなんでもいいのか。そうだな……エンターネットで適当に探すか。あ、これでいいや。えーと、シャーペンはどこにいったかな。あー、あったあった。これを真似して、定規で線を引いてっと。よし、これで枠ができたぞ。
次は何を書いたらいいんだ?あー、学歴ね。えーっと、コリアントチャイナ私立大学 卒業っと。で、職歴か。大日本道路開発株式会社 入社、退職はしてないから“現在に至る”だな。
次は資格か。えー、第1種普通馬車免許っと。
志望理由は……そうだな、“御社の活躍に感銘を受け、道路開発事業の経験を活かせると思い志望しました”。これでいいか。よし、完成だ。
職務経歴書は何を書けばいいんだ?ふんふん、これまでの私の会社での活動を書けばいいんだな。それなら――。
よし、後はポストに投函するだけだ。
合格者には後で課題が来るらしい。行政改革ギルドは面接をしないと言っていたが、随分思い切ったことをするものだ。面接もなしに、どうやってその人物の人柄を見極めようというのか。課題だけじゃ到底その人物がギルド員として活躍に足るか判断できまい。
やはり私がギルドに入った暁には、ギルド内の仕事の仕方を改革できそうだ。大日本道路開発と言えば、この大日本帝国で知らないものはいない一流企業、おそらくすぐにでも課題が来るだろうからな。今のうちにSPIの勉強でもしておくか。
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