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のちのちザウルス
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お前の仕事はお前のもの、俺の仕事も実はお前のもの 2

公開日時: 2021年3月25日(木) 19:15
文字数:3,037

「お届け物でーす!!」

 

その日行政改革ギルドを訪れたのは、カイリキに負けずとも劣らないムキムキの配達員だった。外から大きな声がかかると、ザザはペンを持って席を立つ。

 

「お待たせ致しました。このまま中に搬入までして頂きたいのですが」

「了解しましたぁ!!!あ、判子は結構です!!!判子レスの時代なので!!!!」

「そうなんですか、うちのギルドにも採用したいですね」

 

配達員は気合を一発入れると、両手に大型の机を1つずつ持って執務室に入るってすげええええええええええ!!!机ってそんな風に持てるものなの!?

 

「ようゴウリキ、今日はお前が持ってきてくれたのか。ありがとうな」

「カイリキ兄ちゃん!なんだよいるなら手伝ってくれよ!」

「にい……ちゃん……?」

 

驚いたり首を傾げたりとせわしないザザに、カイリキはにっこり笑って返す。

 

「コイツは弟のゴウリキだ。見ての通りの筋肉だるまで、僕の弟だよ」

「ゴウリキです!!!」

「うわすげ、大胸筋が歩いてる」

 

率直な感想にゴウリキもにっこり。どうやら、兄弟揃って筋肉を鍛えるのが好きらしい。ザザはカイリキに「ワンリキ」という弟がもう一人いないか確認したが、残念ながらいないとのこと。「マンリキ」という兄はいるようだが。

万力ということは、そっちもまたとんでもない筋肉の持ち主なのだろうか。カイリキも中々仕上がってる筋肉をしているし、この家系は筋肉の血筋に違いない。

 

「これで全部かな?」

 

ザザが物思いに耽っていると、早くも購入した荷物の搬入が完了した。というか、机を片手1本で持ち上げる筋肉の持ち主なので、2分もかからずに搬入が終わっていたらしい。

ボケっとしている間に棚の搬入すら完了している。いつの間に。

 

「じゃあ兄ちゃん、またうちの商会をよろしくな!!」

「おう、また利用させてもらうよ」

 

ふと見れば、兄弟はその全身の筋肉を遺憾なく発揮して、お互いを熱く抱擁していた。暑苦しい。

そういえば噂に聞いたことがあるな。筋肉を持ちし者同士は、互いにその筋肉で会話する。その名もマッスル言語。嘘だ、聞いたことはない、適当適当。

一方の筋肉兄弟。どちらからともなく名残惜しそうに離れ、弟は次の仕事があるからと去っていった。

 

さて、それでは新しい設備の紹介といこう。

まずは机から。プラズ・マクラスタ材で作られた、ザザにとってはやや大きめの机だ。表面はつやつやと滑らかな加工がされており、ささくれ立って文字がよれよれになる環境からは完全おさらばできたと言えるだろう。深底の引出や間仕切りもついており、使用者へ使いやすい配慮が行き届いている。目に見えない裏の部分には魔石が取り付けられており、雷属性の魔法を使うことでプラズ・マクラスタの木材が自身の特性である脱臭を始める機能も付加されていた。初回は既に雷魔法が付与されており、およそ1年脱臭効果が持続する。それまでに全員が雷魔法を使えるようになるといいのだが。

 

次は椅子だ。こちらも机と同様にプラズ・マクラスタ材を使用した一品で、座る部分は滑らかなカーブを描いてお尻を優しく包み込む。俺の切れ痔にも優しいのは極めて評価が高い。肘掛けも付いていて、考え事やちょっと一息つきたい時に安らぎを提供してくれることだろう。椅子の足は動かしやすいようキャスター付の構造となっているが、丁寧な加工が施されており、床材を傷付けることはないだろう。また、足に埋め込み型の魔石が取り付けられ、机同様に脱臭効果が期待できる。

 

最後に棚を紹介しよう。現代日本ではどこにでもある書棚。しかしこの異世界に、カギ付で書類の高さを考慮したスペースの広い棚は既製品には存在しなかった。故にオーダーメイドとなるわけだが、既存の棚を少し弄る程度で完成したため、そこまで高額にはならなかった。利便性が行政改革ギルドに広まれば、他のギルドや商会にも発注依頼がされることだろう。なお、カギは魔法カギを使用してもらった。登録した人間の魔力を検知すると自動でカギが開錠される仕組みである。人事異動で人が入れ替わる時など、カギの管理には気を付けたい。

 

「す、すごいわ!!前のオンボロ空間とは見違えるよう!!」

 

マカオが声を大にして喜びの悲鳴を上げる。劇的なビフォーアフターの変化に、思わずうっとりと机の端を指でなぞった。マカオの机は特に経年劣化が酷く、書類作業も遅々として進まなかったことだろう。これで状況が少しでも改善されるなら、ザザも提案をした甲斐があるというものだ。

対面のお嬢は、椅子に頬ずりをしている。彼女も痔だった。つまり、そういうことだ。

 

「じゃあカイリキさん、早速書類をソートして棚に詰めていきましょう。もう箱ごとに分別は済んでいますので、後は使いやすいように場所を決めるだけです」

「よし、さっさとやっちゃおうか」

 

2人は再び会議室に消え、すぐに大量の書類を抱えて戻ってきた。

そして、戻るや否やピカピカの棚にどんどんと書類が入れられていく。

この動作を繰り返すこと数十回。棚には大量の書類が収まったが、それでも尚空間が多少出来ていた。

 

「書類には保管期限を設けましょう。このタイミングで、保管期限の切れた書類はすべて破棄します。保管の必要がない書類についても、1年見た記憶がないものは全部捨てましょう。こんなに山盛り書類があったんじゃ、棚がいくつあっても足りませんからね。あと、捨てるっていうのはゴミ箱行きって意味じゃないですからね。機密書類なので、基本的にはすべて焼却処分です。俺が火魔法で燃やします」

 

とは掃除中のザザの弁。確かに執務室には、いわゆる『これなんだっけ?』の書類が大量に存在していた。例えば、過去に解決済みの『街の人の声』だ。カイリキが捨てるに捨てられないとキープしていたが、ザザにとってはただのゴミ。容赦なく焼却された直後は、カイリキもちょっとへこんだ。

しかし以降は吹っ切れたのか、気兼ねなくポイポイと不要な書類を燃やすに至ったが。

 

 

 

ゴーンと終業を告げる鐘が聞こえる。

書類はあらかた片付き、もう少しで終わるといったところ。

 

「今日は流石に時間外で仕事やっていきます。終わったらさっさと帰ります」

「了解だよ」

 

珍しくザザも時間外業務を行い、明日への禍根を残さないようにするらしい。

 

「とはいえ、時間外業務というのも厳密に言えば法律違反みたいなものですけどね」

「え?」

 

カイリキが振り返る。聞き捨てならないことを聞いた、と。

一方のザザは、カイリキを振り返ることもなく、淡々と書類を整理していく。

 

「いやー、そもそも労働基準法で決められてるじゃないですか。『1日に労働者に働かせられる時間は8時間まで』って。それを「繁忙期だから」とか訳分かんない理由で『法律の限界を超えて働かせても良いですか?』『分かった、いいよ』ってしてるのが労働組合の協定なんですよね。

 元の8時間って言うのも最低の労働時間じゃなくて、『法律で決めた1日に働かせられる最大の時間』なのに、それを『超過しても良いですか?』って聞くなんて、ギルドや商会の怠慢としか思えないです。

 だから俺は時間外業務って嫌いなんですよ。法律に沿ってギルド員を働かせてるけど、穿った見方をすれば過重労働させてる法律違反みたいなもんですし。まあ、今日は特別ですけど。明日またこれやると、今日どこまでやったか忘れそうなんで。あ、これカイリキさんの書類混じってますよ。ってカイリキさん!!?!?」

「――」

 

この翌日から、行政改革ギルドから時間外業務が消えた。

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