いわゆる大学のような場所。
ザザも18の年を過ぎ、まだまだ勉学に励んでいた。
これくらいの年齢になると、表立ってのいじめは鳴りを潜め、陰湿で陰険さが増すいじめが増えた。
ザザも一時その対象になったが、火と水の魔法を使うヤバイやつがいると噂が立てば、流石にその回数は一気にゼロになった。
さておき、ザザもこの年になると悪い遊びを覚え始めた。特にハマったのが賭け事。転生前は真面目で過ごした反動か、あるいはこの世界である程度の力を得てしまった反動か、ザザもそういうものに興味を持つようになったのだ。
最初は簡単な賭け事、花札のようなもので友達とお金を掛け合う程度のものだった。いつしかそれは賭博場での賭けになり、そして地下闘技場での裏賭博へと足を運ぶことになる。これが最初で最後の裏賭博となった。
地下闘技場では、手枷足枷を付けられた様々な種族が命の奪い合いをしていた。薄汚いコロシアムとも呼べない小さなリングで、檻から出された二人が戦い合う。よくあるやつだ。ザザだって最初はそう思った。しかし、実際に互いが互いの体を斬り付け、そうして噴き出る血を見た時、ようやくザザも後悔を覚える。
「俺も汚い世界に染まってしまったのか」
あれほど嫌悪し、忌み嫌った世界に染まった。そのことがザザを苦しめる。周りの声がやけに響く。
「地上の闘技場なんて目じゃねーよな!」
「でもよ、上の主催者もここと繋がってるらしいじゃねーか」
「らしいな。やっぱ儲かるんだろうな……あ、そこだぶっ刺せ!!!」
あーやっぱりそうなんだ、なんて感傷に浸る。ザザは黙って地上に引き返した。
地上の空気は美味くなかった。そうだ、糞尿にまみれた汚物の空気だ。絶望しかない。
異世界に来て18年が経って尚、ザザの周りには輝かしい異世界転生なんて待っていなかった。物理的にも、精神的にも、あまりにこの世界は汚く、汚らわしかった。
空を見る。
どんよりとした曇り空、晴れ間一つないどす黒い雲が広がっている。
そうか、今日は雨が降るのか。ザザは独りごちる。
異世界には天気予報なんて便利なものはなかった。あれは宇宙に衛星を打ち上げた素晴らしい偉人の成果があってこその代物だったことを、この世界に来て知ったのも昔の話だ。
「おい、ここの窓も頼む!」
大きな声に振り向くと、傍らの家では窓の補強を行っている。無骨な木の板を窓枠に打ち付け、雨風に対応できるようにしていた。手際の悪さから、多分大工ではないのだろうとぼんやり考えた。
「うわ、もう板ないぞ」
「ばっか、ないなら作れ!家の裏に予備の木があるだろ!」
『!?』
――それは天啓。ザザに突如訪れる兆し。
ないなら作る。
忘れていた。俺は昔ロボコンで色々作っていたじゃないか。
数々のトラブルに見舞われた。
マシンが動かないなんていくらでもあった。
コンテスト本番で操作ミスをしたことだってあった。
発注ミスした部品は、自分たちで加工し直した。
……作ればいいのか。
ザザは、今もなお擦り切れ続ける尻の穴の痛みを思い出した。
俺はこの痛みから決別する。ケツだけに。なんでもない。
ないなら作ろう。この世界がヘボいなら、変えるシステムを作り出そう。
ザザは諦めない。ようやく、ザザ・ナムルクルスの物語は動き出す。
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