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のちのちザウルス
のちのちザウルス

立ち上がれ、尻の痛みを知る者よ 4

公開日時: 2021年3月23日(火) 20:00
文字数:1,568

汚物にまみれた世界は何一つ変わらなかったが、ザザの体は徐々に大人になっていった。

一方で精神は既に成熟していたため、幼稚園のような所に通っているうちから異世界の本を読み漁り、可能な限りの知識を蓄えていた。それを見た大人たちは、やれ神童だのやれ天才だのと持て囃し、結果としてザザに新たな本をどんどん与えていったこともある。ザザが学校に通う頃には、彼はすっかり本の虫に進化を遂げていた。

 

色んな本を読んだ。まずは文字と数字が書かれた幼児向けの絵本。そもそも文字が読めないザザにとって、これが英語圏のアルファベットのようなものなのか、漢字圏の漢字が入っているような文字なのかすら判別ができなかった。数字も日本で使っていた123なのか、桁が変わるごとに文字が変化していくタイプなのか同様に判別できなかった。すべての基本は勉強である。勉強をしよう。

 

文字がある程度読めるようになり、異世界での文字が漢字圏寄りの文化であると分かった頃、ザザは歴史に手を付けた。歴史本、異世界の歴史を学ぶことは異世界転生の基本だとライトノベルが教えてくれていた。過去にあった魔王や伝説の勇者のおとぎ話、大きな戦争の話、他種族の生い立ちの話など、多くの歴史本を読み漁った。それらには、なんてことはないどこにでもあるライトノベルの設定が書かれているだけで「ああ、この世界にも魔王がいるんだな」程度にしか思わなかった。異世界物の例に漏れず、この異世界も魔族サイドと敵対をしているらしい。とはいえ、政治的な敵対であるようだが。

 

地理に関する本も読んだ。この世界は丸い目玉焼きのような世界であるらしい。目玉焼きの白身部分に人類や魔族の生存圏があり、白身の外側にいくにつれて僅かに傾斜しているとのこと。東側の白身部分が、我らが“大日本帝国”というらしい。

黄身の部分は大きな湖であり、中央に巨大な生き物が生息するテラと呼ばれる島が存在している。テラはこの世界の中心で、テラからミネラルを豊富に含んだ水が外側、すなわち目玉焼きの白身部分に向かって絶えず流れているようだ。あらゆる生き物はテラからの恵みを受けて生きていると言えるだろう。

テラに生息する巨大生物は、通称“のちのちザウルス”と呼ばれている。のちのちザウルスは世界にたった1体のみ生息する世界最強の龍種で、体長は約700m近くある。温厚で歩く時に“のちのち”という音がするためその名が付いたとされている。ふざけた名前だ。

こののちのちザウルスの鱗には膨大な魔力が含まれており、鱗1枚で全世界の人類が消費する数年分の魔力エネルギーを内包しているとの噂だ。いや、凄すぎるだろ。そのため、日夜のちのちザウルスを我が物にしようと各国が暗躍しているらしい。

 

そうそう、この世界には魔力という概念があるのだ。ザザは魔法について書かれた書物も読み耽った。基本的なことは学校に通ってから学ぶらしいが、ザザにとっては関係なかった。人には得意属性があること、基本的には得意属性1つしか魔法の属性を扱えないこと、攻撃魔法の種類、魔力の管理・感知の仕方などを知ることができた。この時が当時一番わくわくした。

俺も魔法を使ってみよう!となんとなく力を集め、なんとなく解放した。最初は勿論上手くいかず、何度も何度もトライアンドエラーをして、ようやく小さな炎が生まれた時は感動したものだ。一方で、ザザが本当に使いたかった“水魔法”を発現させることはできず、とても悲しい思いをした。もしも本の通りならば、ザザの得意属性が火属性だった場合、もう水属性は使えないことになる。そんなのは嫌だ!!

しかし、たくさんの書物を漁ったものの、どこにも得意属性以外の魔法は使えないとしか書いていなかった。その根拠はどの本にも書いていなかった。納得できなかった。

 

ザザは、まだ諦めてはいない。

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