「ザザ先輩、まずは何から手伝ったら良いですか???」
あどけない笑顔でハーフが質問する。とても男性には見えないが、本人も男性だと言っているのでザザからすれば比較的話しやすかった。なんだかんだマカオやお嬢のことは評価していたものの、やはり年上の女性にはなんでもかんでも言えるというわけではなかったからだ。
なお、オカマはザザの中で女性である。男の娘は男だ。これ、とても重要。
「色々手伝って欲しいことはあるんだけど……。それじゃあ、最初に魔法学校の全容から説明していこうか。その後で手伝ってほしいことを話すよ」
「よろしくお願いします☆」
「まず、今現在建築が進められている国立魔法学校は、およそ2か月後に竣工する予定だよ。建築に関する法令手続きはすべて建築ギルド側でやってくれるから、ここで俺たちがすることはないね」
「メモしまーす☆」
「主に俺たちがやるのは次の3つ。
1つ、魔法を教える方法、すなわち授業カリキュラムの指針作成。
2つ、ICT技術を活かした語学・システムエンジニアリング教育方法の提案と導入。
3つ、授業参加者の金融リテラシーを上げるため、投資に関する講義を実施する予定なんだけど、これを大日本帝国すべての学校に広く普及させる。
以上、これらが今回の目標だよ」
「あ、これ入社試験の問題で書きましたよ!ボクのは模範解答だったんですか?」
「むしろ、ハーフさんの答えを見て『この案採用!』ってなったんだけどね」
「あは、ありがとうございます」
「話を戻して、ハーフさんにやってほしい仕事は2つ目と3つ目の関連なんだけど……投資の経験はある?」
「7年くらいですね。ギルド債券と国内株式、外国株式、不動産投資くらいなら。FXXとかは経験ないです」
「わーお、すげぇや、ベテランだ。それなら、3つ目の大日本帝国金融リテラシー向上計画に重点を置きつつ、2つ目のICT技術導入を手伝ってもらう方針でいこう」
国立魔法学校設立の上で行政改革ギルドが実施しているのは、上記の他に魔法教師の選任・確保、学校事務の担当職員募集、学校の運営ができる人材の登用である。しかし、行政改革ギルドで業務を遂行するには専門性が高いため、近々中央ギルドへ依頼して新しく『教育ギルド』を開設してもらい、そこで総合的な運営をしてもらう予定である。今回行政改革ギルドが行うのは、そのステップに至るまでの繋ぎのようなものだ。
しかし、例えば教育ギルドが開設されたとしても、教育ギルドで実行できないこと、実行するには難しいことがいくつか存在する。それが、先程ザザが話した3つの目標である。
まず1つ目、魔法授業のカリキュラム作成だ。この世界では、自分の主属性以外の魔法を使える人物は非常に稀有であり、それこそ5属性以上を使える人間はザザしかいないであろう。そのため、他属性の魔法を使うためのノウハウをザザが書き記し、ゆくゆくは魔法工学の専門教師がその内容をブラッシュアップして生徒に伝えるという仕組みだ。現在、ザザがカイリキを始めとするギルドメンバーに魔法を教えてから1年が経ち、彼らも自分の主属性の魔法が使えるようになっている。そして、彼らには日々の鍛錬や成果を報告書に記してもらっているため、これを元に授業内容を作成すれば良いだろう。
2つ目、ICT技術を活かした教育方法の導入の問題も、おそらく教育ギルドでは実施できないことだろう。何故なら、彼らには行政改革ギルドとは異なり、業務改善に対する意識が極めて希薄であるからだ。
大前提として、大日本帝国の語学力教育、並びに工学者や科学者を育てる教育は遅れている。したがって、外国から講師を招いたり、実際に工学系の会社へ向けてインターンシップと称して学生を派遣したりする計画を立てているのだ。その際、彼ら有識者と対話ができるよう個人の実力が確立されていなければ、そもそもの土台にすら立てずに終わってしまうというのがザザの考えだ。そこで、例えば魔法学校の生徒1人1人にパソコンを支給してコードライティングをさせる、創造工房と称した作業場を作りロボットを作らせる、オンライン授業を導入してエンターネットリテラシーを高めながら勉学をさせる、他国のゲーマーとのオンラインゲームを通して他言語でのコミュニケーションさせるなどして、いざ本物のプロフェッショナルと相対した時に有意義な時間となるようにしたいという思惑がある。
下地を作るための奇抜な発想は頭の固い人間からは出てこない。ならば誰がやるのか。そう、我らが行政改革ギルドが大日本帝国の授業スタイルをぶち壊していこうじゃないか。
最後に3つ目、投資に関する講義を大日本帝国すべての学校に普及させるという計画。これも既存の授業スタイルの破壊という意味では近い。
大日本帝国は技術大国と昔は呼ばれていたが、その技術は他国に抜かれ、今は背中を追いかける時代が続いている。大日本帝国が糞尿を窓から外に投げ捨てている間にも、他国はたい肥を作り、下水設備を作り、ウォシュレットを作り、自動で蓋が開閉する機械を作り、流す水をバイオテクノロジーで洗浄液に変換して手入れ不要の水洗トイレにするシステムを作っているのだ。
そうやって国全体の資本は技術力によってどんどん格差を広げられている上に、彼らは幼い頃から金融教育を受けてお金について学び、大人になってからも大日本帝国との金融格差を一方的に広げていっているのである。このままでは資本主義の南の大国メリケンは勿論のこと、北のコリアントチャイナとも経済的格差をつけられ、大日本帝国はどちらかの国に飲み込まれてしまうだろう。
だからこそ、今ここでしっかりとしたマネーリテラシーを身に付け、今後の長い人生を戦える人材を増やすための教育の場が必要なのである。
今回、ザザはメインで魔法教育カリキュラムとICT技術導入、ハーフは投資に関する教育の普及を担当する。早速2人の活躍にスポットを当てて見てみよう。
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