「ごめん、ザザ君。もう一回言ってもらってもいい?」
「このうんこまみれの反吐が出る程クソ汚い掃き溜めの街を浄化するのが今の目標です」
聞き間違いではなかった。そうか、どうやら僕はとんでもないサイコパスを雇用したらしい。
「こんな程度の改革では生温いですが、いずれはこの街を聖なる街に浄化して見せます」
「そ、そうかい?この街も結構良いところだと思うんだけどなあ……」
「いえ、ゴミカスです。特にトイレ関係が許せません」
「そ、そうなんだ……」
カイリキが謎の情熱に燃えるザザと会話していると、再びゴーンという鐘の音が聞こえてきた。
「おっと時間だね」
「ん、そうですね。少し話し過ぎました、それでは休憩に戻ります」
「ちょいちょいちょい!ザザ君!どこ行くの!?」
「え?」
と、ザザは心底驚いたような顔でカイリキを見上げる。一方のカイリキは、どうしてザザがこんなに驚いた顔をしているのか分からないが、言うべき言葉はかけようと口を開いた。
「休憩時間は終わりでしょ?午後の仕事に戻ってよ」
「え?……そう、ですね。戻ります」
一体何が納得いかないのか、ザザは怪訝な顔をしながら自分のデスクに戻っていった。カイリキはそれが気になったが、マカオがザザに仕事を振っているのを見て一先ずは自分の仕事を片付けようと大きな伸びをした。
夕方。
遠くからゴーンという大きな鐘の音が聞こえる。時刻は18時頃と思われるが、この行政改革ギルドにはそんなことは関係ない。次から次へと湧いてくる市民の声に対応するべく書類が積み重なり、山のように仕事が溜まっていくのだ。
そんな中、呑気な声が室内に響いた。
「お先に失礼します。お疲れ様でしたー」
え?と思うも、止める間もなくザザが退社した。まだ上席者が残っているというのに、それよりも先に退社するなんてとんでもない男だ、とカイリキは憤る。そもそもザザは仕事が終わったのか。
「ザザ君、あっという間に帰ったわね」
「そうねぇ、一応今日の分の仕事は終わったみたいだけど」
というお嬢とマカオの呑気な声。まあ、終わったなら何より。初日ということもあり、そこまで大きな仕事も渡していないため、カイリキは沸いた怒りを鎮めた。
「ザザちゃんの書類仕事凄いわよー。あっという間に文字打って終わらせちゃうの、アタシびっくりしちゃう」
マカオが手放しで褒めちぎる。マカオが今日渡した仕事は、ザザの書類作成スピードを見込んで依頼したものだ。行政改革ギルドには毎日多くの市民の声が届く。シンプルに言うならスーパーマーケットに貼られている『お客様のお声』に近いかもしれない。内容としては嘆願書や不平不満の声がほとんどだが、それらに対するレスポンスは当然ながら必要になってくるのだ。
これまでは、人数が少ないこともあり夜遅くまで3人でレスポンスを書く日もあったのだが、今日はそれがない。マカオが文章を考え、それをザザがハイスピードで打ち込んだ結果である。カイリキは管理職という立場もあってパソコンが使えるが、他の2人はあまりパソコンを使っているのを見たことがない。したがって、これまでは専ら手書きでレスポンスを書いて作成していた。
「傍から見ていたけど確かにあれは凄いわ。私も明日業務を頼んでみようかしら」
お嬢も賛同している。カイリキも上司として仕事振りを見ていたが、おかげで今日は早目に帰れそうだ。
「もう少しやったら帰ろう。今日は早く終わりそうだからね。マカオ、お嬢、終わったら飲みに行こう!」
「「え?」」
「いいじゃないか!たまには皆でリフレッシュしないとね!」
「え、えぇ、付き合うわ」
「も、勿論行かせていただくわ」
カイリキは再び手元の書類に目を戻すと、引出を開けて承認の判子を押した。
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