――シューエンペイ率いるコリアントチャイナ軍が国を出立して2日、テラ島まで残り5km地点。遠目からでも青く輝く島が、そして大きな大きな生き物の動く姿が見えるようになってきた。
「あれが……のちのちザウルス」
水色の体にギザギザの背びれ。体の大きさの割に手足が短く、あれでは背中が痒くてもかけないだろう。歩くたびに『のち、のち』という音が聞こえ、その巨体によって地震が波を作って船を揺らす。
元勇者パーティのシオンは、これまで多くの魔物を狩ってきた。小型のラット、ゴブリン、リザードマン、キラービー、サンドワーム、大型種としては体長30mを超えるレッサーベヒーモス、全高50m近いホワイトドラゴン……。中には会話ができるものもおり、お互いに生存圏をかけて争うこともあれば、交渉によって退かせることもあった。
だが、のちのちザウルスは今までの生き物を遥かに凌駕するサイズだ。推定体長700mオーバー。船がヤツの目の前に着く頃には、自分たちは空を見上げて戦うことになるのだろう。質量で言うなら、やつが一歩歩くだけで我々は踏み潰されてしまうかもしれない。だからこそ、そんなことが決してないように自分が魔法を使うのだ。これ以上、余計に魔族が傷付くことがないように。
「これより最後のミーティングを行う!!」
軍事顧問、ジョンイルソンの一喝により、船内に緊張が走る。
「ここからでも見えるだろうが、あれがのちのちザウルスだ。我々の最終目的は、アイツを生け捕りにすること。そして、ヤツの体から剥ぎ取った鱗によって、我が国のエネルギー問題を解決することにある。のちのちザウルスの鱗1枚は、全世界の生物数年分の消費エネルギー総量に匹敵する。今日、我々はヤツを無力化し、全世界に向けてエネルギー問題の収束、そしてコリアントチャイナこそが世界の覇権を握ったと知らしめるのだ!!」
「「「応!!」」」
「シオン、前に!!」
「はっ!!」
「皆、改めて紹介しよう。彼はシオン。かつて魔族殺しと魔族の恨みを一身に買い、それでも尚前に進むことを選び、我らが魔族と共にあらんとする元勇者の1人である。彼は自身の仲間に裏切られ、捨てられ、そして心優しき我らが魔族の友に触れて心を入れ替えた。彼は多くの魔族を殺した自身の過ちを認め、そして今、償いのためにこうして我々と共に戦っている。
しかし、今のシオンを敵とみなす者は我が軍にはいない!彼は我が軍のために尽力し、多くの力を授けてくれた!そして今日、シオンはのちのちザウルスを倒すため、我らにその力を貸してくれる!我らにはシオンがついているのだ!!」
「うおおおおおおおお!!!!」
喝采。ジョンイルソンの鼓舞により、軍団の士気は最高潮に達していく。
全員の鼓動の高まりを感じたジョンイルソンは、その最高潮の士気をさらに盤石のものとすべくシオンを促す!
「シオン!!!」
「承知しました!……いくぞ!!!フェニックスパワー!!!」
鳥の甲高いいななきと共に、空が鮮やかに紅く紅く紅に燃え上がる。夕焼けよりも尚赤く染まる空からはやがて火の粉が舞い落ち、軍団に強大な火魔法のバフがかかる。それは攻撃力強化の最高峰、不死鳥の怪力を授かる強化魔法。
「セイレーンガード!!!」
歌声が聞こえる。天まで燃える様な紅を、一瞬で深い深い青が攫っていく。波が歌声を世界に流し届け、強大な水魔法のバフがかかった。海の魔物セイレーン、その歌声はあらゆる攻撃をいなして退ける。
「ライトニングアジリティ!!!」
一条の稲光が閃光となって迸り、そして目の前で動物の姿を形作る。それは雷の聖獣、キリン。一説によれば雷速で動くともされる魔物の力を借り受ける雷魔法のバフ。キリンはまた閃光となり、そして軍団の体に突き刺さった。もはや彼らの行軍を止める者はいない。
「シルフィードバリア!!!」
逆巻く一陣の風。テラへの道のりを正体不明の追い風が後押しする。姿は見えない、だが存在を感じる。風の精霊シルフ、人間にその本体を見せることはないとされるが、精霊に共通する特徴として強きものにその力を貸すという。そして、その風の力はあらゆる魔法を弾く。
「ホーリーオーラ!!!ダークオーラ!!!」
そして、2つの相反する魔法。その反力は、すべてを力で飲み込む圧倒的な力場を形成する。全員の武器の強度は増し、厚さ50cmの鉄板をぶち破るブラックドラグタイト徹甲弾砲は、さらにその火力と硬度を増していく。
軍団に全員にバフがかかったことを確認すると、ジョンイルソンは満足気に頷いた。
「これが我らが守護神、勇者シオンの力である!!恐れることは何もない!!!我らにあるのはただ1つ勝利のみだ!!!続けえええええ!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
エネルギー革命まで、あともう少し。
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