「――以上が蓄電池トラム計画の全容となります。この計画は、これからの大日本帝国の首都機能を大きく高めるとともに、馬車が行き交う現在の危険な交通事情を一変させ、新しい人の流通革命となることを期待して、私からの発表を終わります」
行政改革ギルド長カイリキは深々と礼をし、万雷の拍手からこの計画の成功を確信した。と同時に、自分にはもう1つ仕事が残っており、どちらかと言えば今日はこっちが本題であることを思い出した。さあ、大詰めといこう。
「そして別件になりますが、本日はもう1点皆様にご説明、もといお願い申し上げることがございます」
記者団がざわりと騒ぎ立てる。これだけの大規模計画を話したにもかかわらず、まだ何かあると言うのか。騒々しい空気は次第に霧散し、その一挙手一投足すらも見逃すまいとカメラを向け、記者団は再び行政改革ギルド長の言葉を待つことにした。
その空気を感じ取り、記者団が落ち着いて話を聞く空気を作り出したのを確認すると、カイリキは再び話し始めた。
「この場をお借りして、我が行政改革ギルドの新しいメンバーを募集致します」
パシャパシャパシャパシャ!
フラッシュが一斉に焚かれる。だが今は勝負所だ、ここで眩しさに顔をしかめるわけにはいかない。
「ご存知の通り、行政改革ギルドでは様々な改革を実施してきました。直近では道路工事、通信インフラの整備、一人の元気なギルド員が推進したトイレ革命、そして今回の蓄電池トラム計画。これからも、行政改革ギルドでは多くの改善活動を実施していく所存です。しかし、それにあたって重要な問題があります。それは――」
カイリキは言葉を区切ると、周囲の記者を見回す。
まだ話さない。ここはタメを作って、より注意を引き付ける。
すうっとゆっくり息を吸う。
「ギルド員の不足です」
パシャパシャパシャパシャ!
「現在、行政改革ギルドはギルドマスターの私、そして構成員3人を含めた4人で結成されています。これに対し、圧倒的に捌く必要がある業務の方が多いのです。
これまで当ギルドでは、部下に対し、月の平均にして100時間を超える残業を強いることでなんとか業務をこなしてきました。メンバーは疲労困憊の中、それでも帝国民のためと身を粉にして働いてくれたのです。しかし、それではダメだと立ち上がった1人の優秀な新入社員の提案により、みるみるうちに残業時間は減りました。今では全員が毎日定時に帰宅しています。これまでとは異なる業務のやり方、新しい設備、未知の考え、これらを取り入れることで、当ギルドは今まで以上に皆様に成果をお届けしている自負があります。
そして、皆様の生活環境を改善した結果、評判を聞きつけた他国から人が流入し、新しい大日本帝国民が増えました。ですが、そうして増えた皆様すべてのお声に対応するには、現状のメンバーだけでは今後捌き切れなくなっていくことでしょう。そこで――」
カイリキはまたも言葉を区切る。勿体ぶって話す。これも話術の一つだ。
再び、すうっと息を吸う。
「この場をお借りして、新しいギルドメンバーを募集致します!!」
パシャパシャパシャパシャ!!!!
記者が沸き立つ。彼らがお茶の間を代表して騒ぎ立てる。続きを言えと筋肉を促す。そして筋肉は期待に応える。
「残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です!
ご存知の通り、給料は帝国民の投票税によります!そう、頑張れば頑張っただけ成果に反映されるシステム!そして、当ギルドでは今後も様々な改善活動を皆様にお約束します!つまり、貴方の給料もうなぎ登りに上昇することでしょう!」
おおおおおおおおおお!!!!!
記者の1人が興奮して質問する!!!
「どのようにして選考するんでしょうか!?」
「今回、広く一般に認知されているような筆記試験や面接は行いません!」
「ええっ!?」
どよどよ。
「履歴書を作って送ってきたものに、こちらから課題を配布します。それに合格したものを新しいギルドメンバーとして迎えることとします!そして面接は実施しないことに致しました!」
おおおおお!!
「履歴書の書式は!?」
「問いません。ただし、見やすく作って送ってほしいと思います。紙、FAX、メール、色々な方法で受け付けています。この会見が終わったらアクセスできる特設サイトを作ったので、詳細はそちらをご確認願います」
「どういった方を募集しているんですか!?」
「時流に合わせることのできる何でも屋、そんな人物を募集しております。ついでに選考基準をお教えしましょう。
1つ、ITに強いかどうか。
1つ、合理的な考え方ができるか。
1つ、現状の行政改革ギルドを“良いギルド”と思ってくれるか。
以上の点を踏まえ、履歴書と課題を見て総合的に何名か決定したいと思っています」
おおおおおおお!!!!
「なぜ面接を実施しないのですか!?」
「今回は人柄よりも戦力を重視した採用を考えております。ですので、課題の内容をしっかり精査して回答してくれる人物を登用できればと思っています」
「年齢制限はありますか!?」
「ありません。有能な人物であれば、例え100歳でも採用します」
「行政改革ギルドの仕事に関することを伺ってもよろしいですか!?」
「勿論。どうぞ」
「テレワークは実施しているんでしょうか!?」
「え?テレ……何?」
と同時に、横から鬼の形相のザザがダッシュですっ飛んできた。そしてカイリキのマイクをかっさらっていく。
「げ、現在実施しておりませんが、3ヶ月内に当ギルドでもテレワークが可能なようにソフトや機材の導入を準備中です」
「おお!それは素晴らしい!」
「その他基幹系のシステムもクラウドへ移行する計画がありますので、ITに強い人物が活躍しやすい環境がどんどん整備されていくと思われます!!皆様ふるってご応募下さいね!!!」
おおおおおおおおおおお!!!!!
パシャパシャパシャパシャ!!!!!!
「あの、それ僕のマイク……」
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