『この度は弊ギルドにご応募いただきありがとうございました。
さて、お送りいただいた貴殿の情報をもとに、ギルド内で慎重に検討しましたが、誠に残念ながら貴意に添えない結果となりました。何卒ご了承くださいますようお願いいたします。
末筆になりますが、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。』
「カイリキさん見てませんか?」
「カイリキさんなら電話中よ。さっき電話がかかってきたんだけど、なんでも先日の試験の結果に不満だったみたいで、ギルド長を出せって凄い剣幕だったんだから」
「お嬢もびっくりしてたものね。分かるわ、アタシもいきなりあんな電話来たら慌てて切っちゃうもの」
「ドスの聞いた声で反撃するんじゃなくて?」
「ザザちゃあああああああああん!!!!」
「逃げろおおおおおおお!!」
キャッキャッしている2人はさておき。
試験というものは、合格する者もいれば当然不合格になる者もいる。そして、今回かの老害ジジイはなるべくして不合格になったのだ。ロウガイは自身を有能と思い込み、わざわざ行政改革ギルドに電話をかけてくる始末。そもそも、エンターネットでMxcelファイルをダウンロードせずに手書きの書類を送ってくる、満足な敬語も使えずに電話口の相手を不愉快にさせる、タイピングは3秒に1文字しか打てない、試験問題は開いてから1日以上経過するなど不正まみれ、そして不正をしまくっても大した回答すら出来ていない。こんな人間をどこの企業が雇いたいと言うのだろう。
今回、カイリキはロウガイの試験問題の回答を“反面教師としての模範解答”になることを期待していた。そして、それは正しく反面教師としての模範解答であったのだ。自身の思いのない、薄っぺらい上っ面だけの答案。それは改善活動を行う者として全く相応しく感じないとギルドメンバー全員が思っていた。
「それにしても、ロウガイさんは凄く良い答えを書いてくれたわね。マカオ、これなんかどうかしら。『同性婚における自身の考えを述べた上で、肯定的否定的に関わらず同性婚を実現するにはどうしたら良いか具体的な案を述べよ』っていう問題ね。『同性同士での結婚など言語道断である。実現の必要もない』だそうよ」
「あら素敵。ジェンダーレス社会に真っ向から反対しているのね。アタシみたいな人間を肯定しろとは言わないけど、せめてアイデアくらいは書いて欲しかったわ。ザザちゃん、何か意見出したらさっきの言葉は許してあげる」
「ええ……。んー、そうですね。俺なら学校教育に性差を無くす習慣を取り入れる、とかですかね。男女どちらでも化粧をしたり、制服を男性用女性用の両方を選べたり、セクシャルマイノリティ用のトイレを作ったり、思い付くことはいくらでもありますよ。法律を整備するでもいいですし、LGBTに配慮した商品開発に取り組むとか、とにかく境界を薄めて受け入れやすくする下地作りからやったらいいんじゃないでしょうか。ジジイババア……っと失礼、ご年配のクソはその辺りうるさいですから、とにかく若年層から引き入れていきたいですね」
「ず、随分しっかり考えてくれてるのね。アタシ見直しちゃったわ」
「それを差し引いてもマカオさんはタイプじゃないですけど」
「ザザちゃああああああああああああん!!!!」
「いででででででで!!!!!」
そんなこんなで、ロウガイの試験問題はダメな模範解答として殿堂入りすることとなった。行政改革ギルド内の秘密の書類として、“こういう答えを書いてきたやつは一発不採用とする”ための指標となり、ロウガイも老害らしく若者に貢献することができたのだ。
尚、後日Tmitterにて行政改革ギルドの入社試験問題とその回答(ただし模範解答ではない)がアップされていると話題になった。まあ、試験問題にパスワード的な制限をかけているわけではなかったし、こういった流出によって行政改革ギルドが求めている者をしれっと世間に知らしめる目的があったことも事実なのだが。要するに、わざと流出しやすいように作ったのだ。当然、流出元のツミートもチェックし、エンターネットリテラシーが低い人物を不合格にするトラップも仕込んでいるのだが。
さておき、そんなリツミート数がガンガン増えて通知が止まらない例のツミートがこちら。
『これが、実際の、行政改革ギルドの、試験問題です。私の回答は、こんな感じなのですが、行政改革ギルドの、ギルド長に、電話をしても、掛け合ってくれさえ、しませんでした。建築ギルドへの、ポストも、用意していると、言っていたのに、非常に勝手なことだ』
『この回答ヤバすぎだろ……本当にこんなやつがいるのか』
『ザ・老害って感じ』
『草』
『読点気になり過ぎて内容が入ってこない』
『特定しました』
これに対し行政改革ギルドは『問題は当ギルドにて厳正に保管しておりますが、当人が流出させた分に関する責任は負いかねます』と述べている。
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