学院東棟校舎二階。その突き当りにある大部屋が、王党派サロンとして使われている部屋だ。他と違ってきらびやかな扉に替えられており、一丁前に二人の門番までいる。
どこかの家の使用人だろう門番に紹介状を見せて中に入ろうとした時、不意に背後から声をかけられた。
「ご機嫌よう、リンさん」
背後にはロクサーヌとその取り巻きがいた。その中にはサマンサの姿もある。どうやら問題なく元の鞘に収まったようだ。そして、かなり離れて後方の角からニナとアルダト・リリーが顔を覗かせている。手を振られたので適当に振り返しておく。
「覚悟は、決められたようですわね」
「ええ、私は王党派に身を寄せるわ」
「それなら安心……とまでは行きませんが、どうにかやっていける目処は立った訳ですわね」
ロクサーヌは、ふっと柔和に微笑んだ。
「何か困ったことがあれば、いつでも相談に乗りますわ」
「……ありがとう。頼もしいわ」
「貴方の行く末に幸多からんことを」
そんな祈りの言葉と共に、ロクサーヌとその取り巻きは踵を返した。なぜだろう。よく聞く何でもない挨拶の筈なのに、こんなにも力と勇気が湧いてくるのは。
扉の方へ向き直った私は、紹介状を門番に投げ渡し制止する門番を振り切って扉を開いた。眩しいぐらいに明るい部屋の中央で、ヘレナが大仰に手を広げて私を出迎える。
「ようこそ、王党派へ! 時間通りだな、未来の英雄よ!」
その周囲にはマチルダ含む同級生の他、見覚えのない下級生、上級生、高等部の制服を着ているものまでもが勢揃いしており、その誰もが値踏みするかのような視線を私へ投げかけてくる。
「紹介したい人が山程いる。さあ、早く中へ入り給えよ」
入口で尻込みしてばかりもいられない。私は今日から王党派でやっていかなければならないのだ。
(でもね、ヘレナ……絶対にアンタの思い通りには動いてやらないわ)
この国に『革命』を起こしたいというのなら、どうぞ、ご自由に。好きにしたらいい。ただし、私は駒に甘んじるつもりはない。
(……利用してやる)
逆に私が王党派を利用してやる。そして、利用して、利用して、限界まで利用し尽くした後はボロ雑巾のように捨ててやる。それぐらいの気概で行かなきゃ、たぶん私は骨の髄まで食い物にされてしまうだろう。
「中等部二年三組、リン! 以後、宜しく――!」
ほんの少し前には風通しの良く思えた夢へと続く道には、いつの間にやら得体の知れないものが跋扈していた。しかし、もう後戻りはできない。覚悟を決めて、進むしかないのだ。
形ばかりの疎らな拍手を浴びながら、鬼謀に満ち溢れた人生の第一歩を今、私は踏み出した。
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