ラステル・ザ・シスター・ハートビート

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公開日時: 2024年7月2日(火) 12:00
更新日時: 2024年7月5日(金) 05:00
文字数:2,241

 私が何で生まれ変われたのか、正直分からない。もしかすると、そもそも生まれ変わりという事象がこの世界の仕組みの一部なのかもしれない。でもそうだとしたら世の中は同じ人々だけで回っていることになるのか?そんなことにはなっていないし、こんな風に生き返ったら誰彼にと喋りまくるんじゃないかな?世界のシステムとしてごろごろと生まれ変わりがいるんならおとぎ話レベルじゃなくもっとはっきり伝わっているべきだろう。 

 意識を保てないのか?まさか‥‥そんな‥‥。今、私がラステルとして考えたり見たりしていることも、いずれ消えて無くなっていくということなんだろうか‥‥‥。

 くそ!消えてたまるか!せっかくチャンスが残ったというのに     




 一ヶ月が経った。

 まだ私は私でいる。

 そもそも以前の記憶というのが思い違いで、もともとがここからスタートだったということなのか?という考察は一瞬で燃やした。あいつへの憎しみの炎で。この思いが消えることなど決してない。これが有る限り私は消えていかないと今は確信さえ出来る。

 それについての根拠というか、この生まれ変わりというやつが何故出来たのか思い当たる事が実はあった。

 でも私はその可能性からずっと目をそらし続けた。

 今回の事を起こしたのはそもそも私では無いかも知れないということ。 


 私の体の中には命が宿ってしまっていた。


 一年前、私は獣に襲われた。殺してやりたい。叔父もお腹の命も。最後まで抵抗しきれなかった自分も含めて。


 妊娠したと分かった時は、絶望しかなかった。あいつにヤられた夜から、妊娠したらという恐怖に押し潰されそうになりながら過ごしていた。そして本当になってしまった。信じられなかった。自分の意思とは関係ないのは分かっていたが、この体があいつを受け入れてしまったような気がして狂いそうだった。いや、いっそ狂ってしまいたかった。

 でもそんなわけにはいかないとすぐに思った。

 誰にも知られるわけにはいかない。

 知られたくない。 

 お兄ちゃんには絶対に‥‥。


 お腹のこれはいずれ殺すしかないと決めた。私はあいつを絶対に認めない。


 望まない妊娠で得られた命なんて愛せる訳ない。

 当然だ。

 無事に産まれたとしても愛情なんて持てるはずもない。自分の身を削って育てていくなど、冒涜ですらある。それをやるとしたら、向こう側だし。

 産まれてくる子供には罪がない?

 そう言う奴らは所詮他人事なんだ。


 しかし、私の体の事は側仕えの者から母親へとバレてしまった。そして何故か、私が責められてしまった。相手が叔父様だという私の意見を聞いて、あいつもそれを認めた上で。私だけが責められてしまった。風の谷との交渉の道具としての私の体の利用価値が落ちてしまい、その事に対する八つ当たりだった。

 すべてを諦めた。

 風の谷の長の元に行く時期が早まった。このまま妊娠している事実を隠して、変態爺との既成事実をとっとと作らせようという話を、父親の口から聞いた。

 どうでもよかった。

 ただお兄ちゃんが私をどう見ているのか怖かった。


 高度が落ちていくブリックの機内で〈ああ良かった〉と思った。これで死ねば子供も殺せるし、何にも煩わされずに済む。

 ブリックが高度を落とし続ける中で、近衛達が私を守るように集まってきていた。その中の一人が言った。

『王弟が攻撃してきた!』

 私は目を見開いた。

『どういうことなの?』

『三番機から攻撃を受けています!』

 叔父が搭乗しているブリックだった。

 あいつのやりそうなことだ。私という欲望の捌け口が他人のものに、ましてや爺なんかに取られるのが悔しかったのだろう。私一人を消すために大勢のペジテ市民を巻き込むことも厭わないとは。狂っている。やはりこのお腹のこれは始末するしかないで正解だったのだ。もうすぐそれも叶う訳だが。


『王弟はペジテ原理主義でしたから   』近衛が言った。

 ああ、そういうことにしてあるんだ。カムフラージュってやつに。王族の変態性を隠すために、みたいな。

 笑えるわー。

 子供に自分のアレを握らせる変態性を自覚してるから、それを誤魔化したくて仕方がないんだねー。さんざんヤってから謝ってくるとか死ねや!

『積み荷が目的なのでしょう』

『え‥‥?積み荷?』

『アレはこれくらいで壊れてしまうことは無いと聞いています』機体がガクンと揺れた。『くっ、姫様』

『大丈夫』私は近衛達に言った。『続きを話して』

『え?あ、はい』

 私が狙いじゃなくて積み荷がメインだと聞けば、気になってしかたがなかった。

『その、王弟は後でアレを探しに来るつもりなのでしょう。ここからは腐海もひらけていますし』私が一度頷くのを見てから、『谷はもう近くです!必ず飛んでみせるとの事ですので‥‥。姫様は決して死なせはいたしません!』

『はい』とだけ私は言った。

 ウザ。

 そんなに積み荷とやらが重大なんだ。  

 誰も私の体の事なんてこれっぽっちも思っていなかった。どの方向からも関心を持たれていなかった。

 マジ、どーでもよくなったわ。 

 みんな燃えちゃえばいいんだ。みんな。みんな。


 窓の外を炎がなめていた。機内はエンジンの異常な回転数の音が響いてやかましかった。このまま突っ込んで谷もろとも吹き飛べば良いのに。もうすぐ全てから解放される。しばらくぶりに前向きになれた。

 でも最後の最後は痛みと恐怖に押し潰されていた。実際、私は鋼板の下敷きになっていた。胸が潰れて苦しい。


『積み荷を燃やして』

『みんな燃えた』



 やはり残っていた。

 私はアレを谷から守らなければならなくなった。

 あの子を叔父から守ってやらないと。


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